「人生のピンチの時に、行政の助けの手がすぐに差し伸べられるなら安心して生きていくことができるのに」と考えたことはないだろうか。

国民の幸福度が世界一のフィンランドでは、官民一体型の課題解決ネットワーク「オーロラAI」の実用に向けた取り組みが進んでいる。

国民の幸福度一位はフィンランド ちなみに日本は62位(出典:ロイター)
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「オーロラAI」が目指すのは、例えば子供が生まれた時、職を失って貧困に陥った時、申請しなくてもすぐに必要な行政サービスが提供されるプッシュ型行政の実現だ。つまり、本当に困っている人にサービスを届けることができるのだ。こうしたサービスを日本でも取り入れようという動きを取材した。

5月19日にフィンランド大使館で開かれた、超党派の日本・フィンランド友好議員連盟の「デジタルプラットフォーム《オーロラ AI》第 2 回勉強会」を取材した。議連会長である自民党の森まさ子議員は、2021年9月設立予定のデジタル庁で「オーロラAI」の精神を活かすべきと主張する一人だ。

議連会長である自民党の森まさ子議員

また、筆者は、大使館で行われた「フィンランド、デジタル化成功の秘訣」セミナーを取材。フィンランドのIT利用が“国民が真ん中にいる”と言われる所以、そして日本の課題も浮かび上がってきた。

マイナンバーを活用した行政サービスと民間企業の連携

フィンランドでは、マイナンバーが1960年代から使用されており、すでに国民がオンラインを通じて速やかに行政のサービスを受ける仕組みが実現している。国民は生まれた時に11桁のIDが付与されれ、税の申告、行政手続き、処方箋、医療データ活用のほとんどがオンラインで可能だ。

出典:フィンランド大使館 Teppo Turkki

例えば、フィンランドの首都ヘルシンキ市では子どもがプレスクール(就学前教育)保育園に入る年齢になるとオンラインで役所から地域にあるプレスクールの案内が市民に送られ、それに回答する形で保育園を速やかに決められる。

また、引っ越しの場合も、オンラインで一度住所変更の手続きを済ませると、同時に役所、携帯電話会社、銀行、保険の住所変更も完了する。

フィンランドのマイナンバーは、行政サービスだけではなく、共通の基盤を通じて民間企業のサービスにも利用されるなど、連携している。オンラインに対応できない子どもやお年寄りには、家族が代わりに行うことも可能だ。

規模に関わらず企業にもマイナンバーが発行されており、行政手続きに活用されている。

出典:フィンランド大使館 Teppo Turkki

人間中心の行政サービスと国民の高いITリテラシー

ヘルシンキ市の最高デジタル責任者ミッコ・ルサマさんは、「ヘルシンキ市は、受け身の行政サービスから、市民の人生の様々な局面で必要なサービスに行政側からプッシュする、能動的サービスに提供方法への改善を進めている」と能動的サービスの提供を強調、また、フィンランド国税庁電子サービスOmaveroのヨーナス・ヤルヴァさんは、「納税のシステムは年齢、障害の有無を問わず、誰にでも使いやすくするために常に改善している」と更なる利便性の追求に言及した。

つまりフィンランドの行政ITサービスは、徹底して人間中心に設計されているといえる。

進んでいるのは、行政だけではない。フィンランドでは国民の8割がデジタルスキルを持っている。IT教育の促進など、サービス利用者側の国民のITリテラシーを高めることで、行政サービスのIT化が支えられているのだ。

IT利用で蓄積したデータをAIに活用

「オーロラAI」は、すでに進んでいるIT利用によって蓄積されているデータをインプットすることで、個人の事情に適したサービスを提案する取り組みだ。先々個々人が出会う、進学、就職、転職、結婚、出産、離婚などのライフイベントの際に、どんなサービスを必要とするかをAIが予測して、サービスを提案する。

出典:フィンランド大使館 Teppo Turkki

「成功体験」から得た政府への“圧倒的信頼”

ここまでご紹介してきて「個人情報が色々なところにつながっている社会はなんだか怖い」「個人データの権利はちゃんと守られるのか?」と心配になる方もいるのではないだろうか。

議連の勉強会では「フィンランドでは、個人データを使うことへの国民の同意を一体どのようにとったのか?」という質問がでた。日本では個人データを提供することに非常に抵抗が大きい。

フィンランドのセキュリティ技術は欧州でも最先端だと言われており、法整備も進んでいるが、それだけではない。フィンランドにあるけれど日本には欠如している重要な要素がある。それは「信頼」だ。

フィンランド大使館で行われた議連勉強会では活発な意見交換が行われた

議連勉強会の講師の一人、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの南雲岳彦さんは、「フィンランドには、データを行政に提供して利用してもらうことで、サービスの質が向上するなど、国民が利益を享受した成功体験がある」という。

「日本では、政府だけではなく、企業、マスコミ、テクノロジーに対しても国民の信頼が低いという調査結果がある。信頼のメカニズムを政府と国民の間だけで捉えるのではなく、社会のデザインとして考える必要がある」

政府への信頼度が高いのは、個人預金の残高が低いことにも表れている。何かあったときに政府が福祉で守ってくれるという信頼感があるのでので、個人が貯蓄をする必要がないのだ。

日本の課題解決にマイナンバーの利用を

日本ではいま、新型コロナの緊急事態宣言によって休業要請に応じた飲食店への給付金の支給が滞っていることや、ワクチン接種のためのオンライン予約サービスのお年寄りのアクセシビリティ(利用しやすさ)などが大きな課題になっている。

この解決のためには、人間中心のIT・AIの活用、マイナンバーの積極的活用が解決の重要なカギになる。フィンランドのように、政府、企業、国民が共に、信頼される政府、社会デザインを作り上げていくことが重要なのではないだろうか。

【執筆:フジテレビ 岸田花子】