大坂なおみ全仏撤退の衝撃

僕は週一でレッスンに通うテニス好き(下手)なのだが、大坂なおみ選手のファンなので、使っているラケットもヨネックスの「大坂なおみ」モデル。最近、ネトフリやAmazonプライムのおかげでほとんど見なくなったWOWOWもテニス4大大会の放映権を持っているので毎月2300円を払い続けている。

だから今回の会見拒否騒動が起きた時、もしかしたら棄権かな、と心配していたのだが、なんと大坂選手は棄権だけではなく、うつを患っていることを告白し、しばらくコートから離れることをTwitterで明らかにした。これにはビックリした。

同時に怒りも沸いてきた。記者会見に応じない選手は大会に出さないとか、あるいは会見するのが嫌だから試合には出ないとか、本末転倒ではないか。テニスファンは大坂の試合を見たい。ハツラツたるプレーを見たいだけなのだ。記者会見はしてもいいけどそれはプレーをした上での話だ。

「欧米ではプロスポーツ選手が会見に応じるのは義務」といろんな人が言っているが、このSNS時代に選手もファンも違和感を持つのではないか。僕もTwitterで大坂選手をフォローして彼女のコメントや動画を楽しんでおり、つまらない質問を繰り返す記者会見には正直うんざりしている。

(写真: EPA=時事)
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「勝ってごめんなさい」

大坂は最初に勝った2018年の全米オープン以来、うつに苦しんできたことを明らかにしている。全米の決勝ではセリーナ・ウイリアムズを相手に完全アウエイで勝ったのだが、インタビューで大坂がセリーナやファンに「勝ってごめんなさい」と涙声で謝ったことを思い出した。あの時は多くの日本人がもらい泣きしたはずだ。僕も泣いた。

この謝罪については当時「メディアの誤訳」という指摘もあったが、本人がその後のテレビのトークショーで「apologize」という言葉を使って「あの時謝りたいと思った」と答えているのでやはり謝罪だったのだろう。勝って謝るなんて日本人ぽいなあ、とその時は思ったのだが、実は彼女はあの試合でずーっとブーイングされ、深く傷ついたのだろう。

スポーツの世界一というのはゴルフのタイガー・ウッズもそうだったが、ある時、人間から神の領域に近づいてゆく。だが心は人間のままなのでそのギャップに苦しむ。大坂も20歳で全米に勝ち、神に近づいたが、傷つきやすい若者なのだ。

BLMマスクの時もメディアは興奮して伝えたが、若いテニス選手にちょっと負荷をかけ過ぎではないかと思った。

大坂なおみを壊した奴は誰だ

今回の騒動についてメディアやテニス関係者たちはおおむね「大坂の気持ちはわかるがトップ選手なんだから義務を果たせ」という論調だったが、大坂の「うつ宣言」で流れは変わるだろう。

全仏オープン責任者のモレットンという人は「棄権は残念で悲しい。来年は参加してほしい」と他人事のようなコメントを出したが、そうではなく「私らの不手際で大坂の試合が見られなくなってしまい、ファンの皆様申し訳ありません」と謝るのが筋だろう。

メディアの注文があれば会見に応じなければいけない、従わなければ罰金、そして出場停止というプロテニスのルールは他のスポーツに比べ厳しすぎるし、はっきり言って時代錯誤だ。

プロテニス選手の義務は会見で記者に自分がなぜ負けたのかとか、政治信条とかを延々と説明することではない。最高のゲームをファンに見せることだ。大坂は女子最高年収、つまりいま世界で最も商品価値の高い女子スポーツ選手だ。彼女を自分たちが作った古いルールや価値観で壊してはいけない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

【表紙画像:AFP=時事】