「ワクチンいつ接種したかな」「接種済証はどこにいったかな」

新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進むが、接種対象者の多くは高齢者で自分の接種情報がわからなくなるなど困りごとが起きている。こうした困りごとを解消するため開発されたのが、接種記録をいつでも確認できるワクチン接種アプリだ。開発者を取材した。

官邸もツイートしたワクチン接種アプリ

首相官邸は5月25日「新型コロナワクチン情報」でこんなツイートをした。

「接種を受けられた方のために、健康記録やワクチン接種の記録管理ができるアプリがワクチンメーカーのHPなどから利用可能です。」

さらにワクチン接種の調整を担う小林史明・内閣府大臣補佐官は、このツイートをリツイートしてこう投稿した。

「(首相官邸)ツイートで紹介されたアプリはこちらです。健康管理アプリ『ヘルス・アミュレット』」

この「ヘルスアミュレット」を開発したのは、医療ベンチャーの株式会社ミナケアだ。代表取締役社長の山本雄士氏は、このアプリをつくった理由をこう語る。

「大規模接種も始まって、最近では『中2日で2回目を接種してしまった』とか『誤って3回接種した』といったニュースが見られるようになりました。接種する際に2回目の予約がセットになっていなかったり、1回目の接種の後引っ越しなどで自治体をまたぐと接種記録が連携されないケースもあります。このためにまずは本人が接種記録を管理する必要があると思いました」

ワクチン接種アプリを開発したミナケアの山本社長
ワクチン接種アプリを開発したミナケアの山本社長
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間違えずに接種できることを目指す

「ヘルスアミュレット」がサービスを始めたのは2020年夏。当初は日々の健康記録のみだったが、2021年2月からワクチン接種の予約と記録の管理ができるようになった。現在ダウンロード数は約7万5千件。アプリをスマホにインストールして(無料)、接種券や接種済証を撮影すれば、自分がいつどこでどんなワクチンを接種したのかがすぐわかる。また2回目の接種スケジュールを知らせるアラーム機能もついている。

山本氏はこう語る。

「新しいワクチンですし一定期間を空けて2回接種するなどの条件があるので、間違えずに接種できることを目指してつくりました。高齢者の場合は特に家族のサポートが必要なので、家族が接種を記録できる機能もつくっています。また日本医師会や東京都医師会、ファイザー社などと連携してワクチンや感染症の情報を届けられるようにしてあります。自分のワクチン接種状況をSNSでシェアできるようにしたので、ワクチンへの心理的なハードルを下げていきたいと考えています」

アプリではいつどこでどんなワクチンを接種したのか記録できる
アプリではいつどこでどんなワクチンを接種したのか記録できる

医療現場から「非常に重要」と期待の声

このアプリには医療現場からも期待の声が上がっている。東京都医師会の目々澤肇理事はこう語る。

「日本では国際的に通用するワクチンパスポートがまだ整備されていません。ですからこういうアプリで接種を記録できることは非常に重要だと思います。できることならアプリは1社に限定したほうが現場は混乱しなくていいので、ファイザー社から公認されているヘルスアミュレットを使っていくべきだと我々は考えています」

目々澤氏は続ける。

「メリットは接種を記録するだけではありません。接種を受けた人がその後コロナに感染した場合、厚労省のハーシスに我々が感染報告を入力する必要があるわけですが、ワクチンを接種している場合はその旨明記しなければなりません。そういう時に患者さん自身が接種記録を持っていてくれれば、我々も安心して入力することができます」

接種記録があれば厚労省のシステムにも安心して入力できる
接種記録があれば厚労省のシステムにも安心して入力できる

接種した人の困りごとを予防する

今後の展開について目々澤氏は「医療従事者に周知させることがまず必要だ」と語る。

「これがワクチンパスポートに展開すると素晴らしいのですが、いまのところは構造的に難しいと思います。しかし今後はワクチンパスポートが海外旅行だけでなく、人と会う時やコンサートに行くときなどに提示するようなものになるといいと考えています。普及のカギは受け入れる事業者や店舗、イベント側の意識ではないかと思います」

ミナケアはこれまでもデータを活用した予防や健康づくりを推進してきた。山本氏は「コロナ禍で多くの人が生活に不安を抱える中だからこそ、会社としてどう貢献できるかを考えていた」という。

「昨秋にファイザーさんから相談があり、『ワクチンが承認されたら適正な接種の推進に取り組みたい』といわれて。開発にはリスクもありましたが、会社の理念、社会情勢を考えたらやるしかないとほぼ即決で着手しました。幸いにも政府が公式な場とSNSでアプリの利用について周知してくれましたが、それでも自治体や住民の方々に届くには時間がかかっています。ワクチン接種記録をつける意義をどう広くお伝えするか考えながら、よりよいアプリを目指して開発を続けています」

コロナの感染拡大を止めるためには、ワクチンの適正な接種が求められる。そのためには「間違って接種した」「記録をなくした」といった接種した人の困りごとを事前に予防することが必要なのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。