イソップ童話の外交論

茂木敏充外相はイソップ童話で外交論を展開 2021年4月12日 参議院決算委
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茂木外相
「平和的なデモを行う、活動を行う国民に対して、銃口が向けられていることはあってはならない。それをどうしても止める、事態の沈静化をしていくと、このことについては全く同じ意見であります。そのために国際社会と連帯をしていくということも必要であります。

どう物事を動かすかという観点で申し上げますと、イソップ童話の北風が良いのか、太陽が良いのか、様々な組み合わせが無いと、なかなかこの状態、この厳しい状態というのは、私は打開できないのではないかな、と率直にそのように思っております。」

――イソップ動画の外交論について

篠田教授:
一言で言うと悩んでいて答えが無い状態だろう。でもそれはアメリカ、イギリスもそうだと思うし、ミャンマー国軍側だって同じだろう。彼らは答えが無いなかで、「それでもこれが良い」と決めて政策を進めている。簡単な話、我々の生活のあらゆる事柄と同じで、悩みながらも進んでいくしかないことは、最大限の合理的な判断をする努力をして進んでいくしかない。

国民は金を払って外務大臣を雇っているが、その外務大臣は要約すると「悩んでいる。悩んでいることはわかってほしい」とだけ言ったわけで、納税者としてはそんなことを言わせるために雇っていない。悩んで何を考えているのかまず言っていただき、方向性をまず示してもらいたい。腹をくくって日本外交の方向性を示すという基本的なことをやっていない実情が大変に残念だ。

菅義偉首相は「日本独自の役割」「各国からの理解」を強調 2021年4月12日 衆議院決算行政監視委

菅首相
「まず、我が国としては、ミャンマー各地のデモにおいて、発砲を含むミャンマー治安部隊の実力行使によって多数の民間人が死傷し、拘束者も発生している、この事態に対しては強く懸念を持っておりますし、国際社会の度重なる呼びかけにもかかわらず、民間人に暴力を続けている、ここを強く非難をします。

それと同時に、我が国は、様々なルートを通じて、ミャンマー軍に対して、民間人に対する暴力的な対応の即時停止、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問を含む拘束された関係者の即時釈放、民主的な政治体制の回復、ここを強く求めています。

こうした日本の対応や独自の役割について、米国また同志国及びASEANを始めとする各国から理解を得ており、我が国としては、引き続き、日本独自の役割を果たし、関係国と緊密に連携をして、アウン・サン・スー・チー最高顧問を含む拘束された関係者の解放、民主的政治の早期回復、こうしたことを強く求めていきたい、同時に、こうしたことを世界にも発信をしていきたい、そういうふうに思います。」

「日本の役割というのは、このミャンマー問題を解決する中で、私は極めて重要な役割を果たせると思っています。」

「極めて重要な役割を果たせる」

――「極めて重要な役割を果たせる」根拠は何か

篠田教授:
あるとすれば金と、金を通じてミャンマー国軍内部に知り合いが多く居るということだ。そして達成したいのは、アメリカと中国の間に立つことだろう。ミャンマー向けODAを止めずに、中国から攻撃されずに、アメリカとの同盟関係をますます進展させること・・・耳障りは良いが、難しいことだ。

ミン・アウン・フライン国軍最高司令官と会ったことがあっても、国軍内部に知人が多くても、それが何を生み出せるのか。実際、何も生み出せないのではないか。

出典:JICA

――日本はミャンマーにとって最大のODA供与国

篠田:
投資した金の一部はクーデターにより焦げ付いてしまっているようだ。焦げ付きによって民間企業がすべてを被り撤退せざるを得ないとすれば問題だ。テクニカルな部分でリスク管理できたのではないかという検証は必要になるだろう。また日本政府の主導によって進められたミャンマーへの“円借款介入”が正しかったのかどうかについても検討すべきだ。

日本政府は米中対立のなか、年々経済成長を遂げる海の向こうの超大国中国との関係を保ちつつ、日米同盟を発展させるための政策をミャンマーで実現すべく模索しているのではないか。ミャンマーはアメリカからの制裁を受け中国に近づくも国家運営が上手くいかず民主化を手探りで始めた。その後急に親米国とはならず、かといって中国に近寄りすぎてもいない。

そんなミャンマーであれば「日本の独自外交」ができるのではないかと政府が思いついたとすれば、わからないではないが、しかし実態はフワッとしたもので実効性は低いと感じる。そもそもミャンマーで日本が「独自路線」をとって一つの単独のアクターとして行動できる範囲は極めて小さいと思う。

バイデン大統領は、中国をはじめとする権威主義体制の広がりに対抗するため、民主主義諸国の指導者であろうとしていて、現にミャンマーの軍事政権に対し標的制裁を導入した。命懸けでデモに参加するミャンマーの人々を見捨てるならば、アメリカの命運は尽きてしまう。日本政府は覚悟を決めるべきだ。日米同盟を、民主主義同盟諸国の「自由で開かれたインド太平洋」ネットワーク構築の中で再定義する視点も必須だ。

オバマ政権時代のアメリカが「戦略的関与」-Strategic Engagementという言葉を使ったが、中国の体制転換を最終的な目標として置きつつ、利益のある形で中国との関係を構築するという曖昧かつ玉虫色の政策だった。トランプ政権を経て大統領となったバイデンは、中国と競争し対抗する道を取り明示し、国家資源を優先して対中政策に投入できる状況だ。だからこそ政策判断はトップがやらなければならない。

東京外国語大学の篠田英朗教授

対ミャンマーODA金額の増大

――なぜミャンマー向けのODAが増えていったのか

篠田:
そもそも日本のODAは経済成長のテコとして使われ東南アジアの有力国では大成功した。東南アジアにドンドン円借款を出したら次々金が戻ってきて40年以上の単位で見ると利息分が儲かり、長期的にみれば投資になった。この成功体験が老人たちの頭の中にあるので、“これを次にやれるのはどこだろう”という発想しかなかった。

一時期、アフリカ向けのODAが増えた時代もあるがリターン=経済的利益は無く、金が戻ってこない状況に陥った。そうした経緯があり日本は過去10年間、南アジアや東南アジアへの投資を増加させた。ミャンマーはかつて「アジア最後のフロンティア」と呼ばれたが、なぜそう呼ばれたかというと、東南アジアの国々が豊かになって、もう金を借りてくれない・・・そんななか喜んで金を借りてくれ、30年後くらいに利息をつけて返してくれそうだったからだ。

政治的にはアメリカと中国の間でフラフラしているその国を、日本は「フロンティア」として投資し始めてしまった。日本政府にとって“都合が良く手っ取り早く、自己中心的で安易で手頃なフロンティアの発見”だった。

本当に探し出したいのなら、もっと真剣な探し方があったのではないか、あるいは「ミャンマーが次のインドネシアになってくれないか」という自分勝手な願望だけにもとづく投資ではなく、ミャンマーの独自性に応じた個別的な戦略に基づく投資方法を探すべきではなかったか、という反省は必要だと思う。

ミャンマーのことをよく調べずにお金を流し続けてしまったのは日本人の責任だと思う。円借款によって感謝されながら儲けるかつての成功体験を、場所だけ変えて再生産し続けたい。そんな夢物語的な願望を老人達は捨てることができなかった。突き放して言えば、過去に成功した要因には冷戦時代だったという環境要素もあり、安易に場所を変えて成功できるものではなかった。

日本は2013年にミャンマー向けに約2000億円の債権放棄を行っている。さらに手続き上債権放棄ができなかった約2000億円については同額融資を行い、それを原資に名目的返還を果たさせた。つまり日本政府はミャンマーで既に焦げ付いていた合計約4000億円の貸付金を一気に帳消しにした。負担したのは日本の納税者だ。それも「アジア最後のフロンティア」とミャンマーを見込んだ経済的願望からだった。今後、さらに焦げ付く投資が出るだろう。その場合も損を補填するのは日本の納税者だ。

(取材:2021年5月14日)

【執筆:フジテレビ 国際取材部 百武弘一朗】

【篠田英朗 東京外国語大学大学院教授プロフィール:専門は国際政治学(平和構築)1968年10月11日生まれ。神奈川県出身。早大政経学部卒。ロンドン大(LSE)で国際関係学博士課程修了。広島大学准教授、コロンビア大学客員研究員などを経て2013年より現職。著書『平和構築と法の支配―国際平和活動の理論的・機能的分析』(大佛次郎論壇賞)『「国家主権」という思想―国際立憲主義への軌跡』(サントリー学芸賞)『集団的自衛権の思想史』(読売・吉野作造賞)『紛争解決ってなんだろう』など】