広島の持続可能な社会に向けた取り組みを紹介する。
インド刺しゅうを通して「SDGs」に取り組む、東広島市在住の女性を取材した。
「インド刺しゅう」に魅せられ活動する女性
この記事の画像(13枚)鮮やかな色使いに、細やかな模様。これらは、繊細な技法で表現された「インド刺しゅう」。
約1000年の歴史を誇る「インド刺しゅう」は、一針一針、職人の手で手がけられている。
この刺しゅうに魅せられ、活動する女性がいる。
東広島市志和町の「itobanashi(イトバナシ)」は、インド刺しゅうをあしらったオリジナルの洋服や小物を扱う会社だ。社長で刺しゅうのデザイナーでもある伊達文香さんは、広島大学在学中にインド刺しゅうに魅せられた。
イトバナシ・伊達文香代表:
わたしたちは、3つの地域とやりとりしているが、3つの地域だけでも刺しゅうの種類や技法が全然違っていて、育まれてきた背景もひっくるめて面白いなと思っています
その魅力を語りだすと、伊達さんは饒舌(じょうぜつ)になる。
イトバナシ・伊達文香代表:
「カンタ刺しゅう」という刺し子のような刺しゅうなんですけれども、波縫いでチクチク縫ってあるのが特徴の刺しゅうになっています。一説には、言葉が生まれる前にこの刺しゅうが生まれていて、自分の家族の歴史を残していくために、この刺しゅうだけ唯一、動物とか人が出てきたりします
イトバナシ・伊達文香代表:
次が「チカン刺しゅう」という刺しゅうなんですけど、一番の特徴は、後ろに糸をたくさん張り巡らせているんですね。前から見たときにそれが全部透けて葉っぱの葉脈みたいに見える“シャドーワーク”の技法が、チカン刺しゅうの特徴ですね
イトバナシ・伊達文香代表:
「アリ刺しゅう」の特徴は、インドのカシミールという地域で刺しゅうしているんですけども、ヒマラヤ山脈のふもとで寒いんですね。インドでは珍しくウール素材に刺しゅうをしています。技法は“チェーンステッチ”という鎖網のような刺しゅうなんですけれど、ほかの2種類とは違った目の詰まった刺しゅうになっていますね
インド職人の実情…「フェアトレード」で地域社会の底上げ目指す
大学時代、旅行やNGOの活動でインドに渡り、インド刺しゅうと出会い、魅せられた伊達さん。そこで知ったのは、職人の実情だった。
イトバナシ・伊達文香代表:
多くは日雇いで不安定。いい技術を持っている人たちがすごく安い労働力で働いているので、どんどん今、職人を辞めている現状を一番問題視していて。辞めるということは、技術だけでなく、文化・歴史が途絶えてしまうことだと思うので、そこを絶やさないことが大切だと考えていて
そこで考えたのが、「フェアトレード」だった。
現地価格の約2倍で依頼し、現地の人々の生活を安定させる仕組みを考えた。
このプランを、学生向けのビジネスコンテストで発表。最優秀賞を受賞し、その賞金で5年前、ビジネスをスタートさせた。
現在、出身地の奈良と東広島の2カ所に拠点を設け、インターネットでも販売。40~50代を中心にリピーターも増えている。
リピーター:
刺しゅうの一針一針に温かみを感じ、インドの方が仕事がちゃんとあって、そのお手伝いができると思うと、それもまたうれしい
オーダーメードのウエディングドレス。特別な日の衣装として選ぶ人も。
ウエディングドレスを注文した宮川南奈さん:
インドの職人さんの手仕事という背景とか、伊達さんの思いも含めてすてきだなと思って、ブランド自体に共感をすごくしていて…本当にすてきな一着を作っていただけて、今後も人生の節目でまた着たい。手元にお直しをせず残してある
伊達さんは、年に2度、インドへ。
現在、3つの地域で、約50人の雇用につながっている。
労働条件の改善で、地域社会全体の底上げを目指す。
現地の人にとって、「イトバナシ」の存在は?
インド刺しゅう職人のリーダーであるリタ・ナスカールさん:
イトバナシから仕事を依頼され、とてもたくさんのお金を得たことで、職人たちの人生は少し変わりました。そのことが職人たちを勇気づけ、彼らは大変喜んでいます
コロナ禍でも新たな取り組み…「刺しゅうマスク」にごみゼロの「Tシャツ」
順調に見えるイトバナシの活動だが、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた。売り上げのメインだった百貨店のイベント販売が、軒並み中止に。売り場を失った。
途方に暮れた伊達さんだったが、立ち止まらなかった。
イトバナシ・伊達文香代表:
マスクがなくて困っているというお声をいただいたので、端切れというか、お洋服を作り終えた生地が結構たくさん刺しゅう入りで残っているんですね。それを活用してマスクを作ろうというので、おかげさまで、今でも販売を続けているというような形です
さらに、今、新たな取り組みも始まっていた。
Q.これって今何しようとされているんですか?
イトバナシ・伊達文香代表:
うちのお洋服を作るときに出てしまった端切れって、刺しゅうが入っているんですね。捨てるのがもったいなくて、ずっとため続けていたんですよ。どうしようと思って
こうして大量にたまった端切れは、いつの間にか膨大な量に。
「これを再利用したい」。
おしゃれに組み合わせることでアクセントにし、「世界に1つだけの捨てないTシャツ」作りを始めた。
5月から、クラウドファンディングで賛同者を集め、注文生産し、ごみをゼロにするまで続ける予定。
イトバナシ・伊達文香代表:
“持続可能な社会に向けて”という意味では、まずは、好きなところで熱量をちゃんと持てるところから取り組む。結局は1人ひとりがそれをできると、やっぱり好きという気持ちはすごくつながりやすいと思っていて、そういうところでいろいろな人とつながって、1人じゃできないことも大きな力になってできていくといいのかなと思っています。
なので、(持続可能な社会に向けて)「好きを大切にすること」ということなのかなと自分の中では思っています
(テレビ新広島)