中国で盛り上がりを見せる「ライブコマース」。このキーワードを目にする事も増えてきたが、日本企業はどのように取り組むのが良いのだろうか?

2012年に中国に渡り、動画配信を通じて中国で有名人となった、株式会社ぬるぬるCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)山下智博さんにお話を伺った。

中国で人気のビリビリ動画(Bilibili)

ーーまず最初に、山下さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

中国ではビリビリ動画(Bilibili)という、動画共有サイトがあります。私はそのサイトでは日本人ナンバーワンで、267万人ほどのチャンネル登録者がいます。2012年から中国に渡ったのですが、昨年からコロナの影響もあり日本にいます。

現在は、テレビ番組「ブイ子のバズっちゃいな!(毎週水曜深夜・テレビ朝日系)」に出演して、中国について紹介しています。

山下智博(株式会社ぬるぬる・CCO)
山下智博(株式会社ぬるぬる・CCO)
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ーーなぜ中国で有名になることが出来たのですか?

2013年から動画配信を始めたのですが、当時の中国はまだネットが普及していませんでした。携帯も3Gが入らず、街中でもwifiが使えない状態です。記憶があるのですが、紙の地図を見ながら街を歩いていたんですよ(笑)。日本はYouTuberがブームになりだした頃です。中国ではネットリテラシーが高い人の間で動画が流行り始めました。

私も、もともとは動画で有名になろうとは考えていませんでした。中国のことを知るために動画を見ていたのですが「これから先、絶対伸びる」と思い、おもしろ動画などを上げてみたら、バズったんです。

実は、ビリビリ動画には日本のことが大好きな中国の人たちが集まっています。日本のアニメやドラマを見て、好きになってくれているんです。

当時は、日本に興味は持っているけれど、実際に日本には行ったことがなく、日本の情報もなかなか入ってこないという時代でした。「日本は、本当にアニメやドラマで描かれているような国なの?」と、いろいろ質問されたので、日本のことを発信していくうちに、登録者数が増えたのです。

ライブコマースの「返品率」に注目

ーーそれでは、中国の最新事情に関して伺いたいのですが、よく「ライブコマースがすごい」というお話を聞きます。山下さんは、どのように分析されていますか?

ライブコマースについては、言語の問題があり、なかなか外国人は入りづらい部分があります。ライブコマースができるのは、昔はアリババグループの淘宝(タオバオ)というショッピングモールだけでした。最近では中国版TikTokにライブコマース機能が付いたり、ショートムービーで盛り上がったサイトがライブコマースの機能を付けたりして、プラットフォームが整備されてきています。

実際、お金が動いていて、1日何時間も物を売り続けている人もいます。その中からスターも出てきています。例えば、口紅を1日に何億元、日本円にすると数十億円も売り上げています。人口が多いだけに、すごく盛り上がっています。

ーーそれは、すごいですね。

一方で、ライブコマースの返品率はものすごく高いんです。次のような数値を現地の方から聞いた事があります。

<中国での返品率>
・実店舗 3%以下
・ライブコマースではないネットショッピング 20%
・ライブコマース 50%

ネットショッピングは、クーリングオフの制度があったり、そもそも物流コストが200~300円くらいで安かったりするので、気軽に返品できるという理由もあるのですが、ライブコマースは、ある意味、衝動買いに近いため、返品率が高いのだと思います。

1億円を売り上げても、次の日には半分くらいキャンセルされる事もあります。また最近では、誇大広告の問題も出てきました。中には売り上げをよく見せるために、キャンセルを前提に、インフルエンサーの方と提携して売っているところもあります。

このような裏側のインサイトも把握していると、もう少し冷静に中国のライブコマースの現状を捕らえる事が出来るのではないでしょうか。

ーー物の購入ではない、いわゆる「投げ銭」については、いかがでしょうか?

一般的なユーザー数が多いプラットフォームと、私が主に活動しているビリビリ動画では、若干投げ銭の使われ方が違います。一般的なライブ配信では、単発の課金で、投げ銭をするとコメントを読んでもらえたりします。

一方、ビリビリ動画は、コミュニティ化しています。日本でいうサロンやファンクラブのような感じで、クリエーターとファンの距離が近いのです。

特徴的なのは、月額の会費機能が用意されていること。ビリビリも最初はゲーム課金がメインだったのですが、それだけでは生き残れないと、月額会費の仕組みを導入しました。ランクは3つあり、金額はおよそ3千円、3万円、30万円で、それぞれできることが異なります。いつのまにか30万円のプランが増えていたんですよ(笑)、超VIP向けです。長く同じ人に応援してもらえ、しっかりとした収入源になります。

日本企業がライブコマースを取り入れるには?

ーー日本企業はこのライブコマースをどのように取り入れたら良いでしょう?

二つの方向性でアプローチできます。まず、日本のものを中国で売ることを考えると、ライブコマースは中国の人に任せるのが良いと思います。生配信で、商品を中国語で魅力的に伝えなければなりません。想像してもらうと分かると思うのですが、生半可な中国語でカタコトのように商品を説明されても、売れないですよね。それよりも、自社のブランドストーリーを理解してくれる中国の方と提携するのが現実的ではと。

一方で、ライブコマースではなく、ドラマやバラエティーの形式で、その商品が欲しくなるような面白い番組を作るのが良いのではないでしょうか。録画コンテンツにした方が、日本の商品の魅力が伝わりやすいでしょう。

低価格で良質なものは既に中国にたくさんあります。日本が勝負すべきは、高品質で高価格帯の商品。いかにブランディングして、いかに伝えていくかという部分をしっかりやった方が、中国で響きやすいかなと思います。

ーーこれまでの日本のドラマやバラエティーのフォーマットを利用できるということですね?

日本のテレビ番組は、とてもクオリティーが高いと思うんです。時間のかけ方や熱の入れ方、作り方が違います。特にプリプロダクション、企画や調査段階ですね。街頭でたくさんインタビューをしても、厳選された部分だけが使われますが、中国ではあまりそのような発想はありません。動いたら動いた分だけ、番組に反映されます。中国向けのチューニングを上手くやれば、日本のコンテンツは通用すると思います。

海外で活躍する日本人は格好いい

ーーそれでは最後に、ライブコマース以外で、今後の可能性について教えてください。

今、中国でバズっている動画を紹介するテレビ番組に出演しているのですが、日本のYouTuberとはまた少し違います。再生回数に応じて広告費がもらえる仕組みでは無いので、毎日更新する必要がなく、その代わり週1でも、毎回驚きを与えていくっていうのがコンセプトで、動画のクオリティがものすごく高いんですよ。

それをみんな24時間ほぼ寝る間も惜しんでやっています。人口も多いので競争も激しく、外国人が立ち向かっていくのはどんどん難しくなっています。

私が人気になった時はそもそも外国人が少なかったし、日本に関する情報も少なかった。ボーナスタイムに入れたのです。今のタイミングから中国でフォロワーを増やそうと思ったら相当大変です。

ですので、1人で動画を制作するのではなく、プロと一緒に既に有名なタレントとコラボする。アニメや声優など現地で人気のあるものを取り入れて、コラボレーションできる場を作って行くことで突破口を開けるのではないかと考えています。

実は海外で活躍する日本人って結構いるんですよ。私の友人のFumiya君はフィリピンで活躍していて、YouTubeのチャンネル登録者数は220万人以上です。でも日本ではあまり知られていなかったりしますよね。

ーー本当に格好いい事だと思います。

海外で頑張って有名になっている日本人を、コンテンツやビジネスのプロフェッショナルがしっかりサポートする事で、世界各国で活躍するYouTuberをハブに文化発信の拠点を作れるはずだという見立てがあって、私はまずその中国版に取り組んでいます。

(日中の文化交流をぬるぬると浸透させていく株式会社ぬるぬるの企業理念にちなみ)「ぬるぬるモデル」を中国で確立して、他の国にも展開出来たら良いなと。

海外で活躍する日本人が憧れの対象にならないと、若い人たちも挑戦しようと思わないので、こんなに格好いい事なんだと示す事が必要です。

また、日本国内だけをターゲットにコンテンツを制作するよりも、マーケットが10億、30億という単位で拡がる可能性があり、例えば一本当たったら一生食べて行けるようになったりと、クリエイティブに対する労働効率を上げる事にもつながると思っています。

(渋谷のラジオ「渋谷社会部」2021年3月30日放送 / 進行:寺 記夫 FNNプライムオンライン編集部)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。