毎日同じことの繰り返し。何か変えたい、何かを始めたいと思っても重い腰が上がらない。
そんな人たちの背中を押すのが、『「パッション」の見つけ方 「人生100年ずっと幸せ」の最強ルール』(小学館)の著者であるボーク重子さんの言葉。アメリカや日本で子育てやキャリア構築などについて講演会やワークショップなどを展開するボークさんに、“幸せな人生”の見つけ方について聞いた。
ハードルを下げるスキルを
この記事の画像(7枚)「あなたのパッションは何?」と聞かれて、即答出来る人は少ないかもしれない。そもそも、ボークさんの言うパッションは、「情熱」ではない。「自分が幸せになれるもので、人生を幸せに生きるためのエンジンであり、好きだけで終わらないもの」であり、人生を変える力を持っているという。
そう言われると、「そんなパッション、自分にはない」と思ってしまう人も多いはず。しかし、ボークさんはこうアドバイスしてくれた。
「私の本を読んでくださった方の言葉が印象深く残っています。『私にはパッションがないと思っていた。パッションは世界を変えるとか世界を救うレベルのものだと思っていたから。けれど、そうじゃない。小さいことでもいいんだと思いました』と。全くその通りなんです。私にとって“パンを食べること”もパッションの一つです。いろいろなパンを見つけて食べ比べて、『今朝は何のパンを食べようかな』と思いながら目が覚めますから。パッションとはこういうことでいいんです」
決して、大きなことを成し遂げなければいけないわけではなく、自分が幸せだと思えるものでいいと言うが、どうしても身構えてしまうだろう。そんなときは「ハードルを下げてください」とボークさんは話す。
「山を登りたい人が最初からエベレストに登らないですよね。まずは、自分が登ることができる低い山から。それと同じで、ハードルを下げるスキルを身につけて、小さい成功を重ねていく。“自分はできる”という自己肯定感を高めることがものすごく重要です。それは、子どもでもビジネスパーソンでもシニアでも、どんな年代からでも始められることです」
ボーク重子、パッションの発見
そんなボークさん自身もパッションを見つけるまでには紆余曲折があった。
20歳のときにロンドンへ語学留学をしたボークさん。音楽の道に進みたいと、バンド活動に費やしたが、挫折を経験。21歳のときに、アメリカのニュージャージー州でギャラリーを経営している女性に出会う。彼女は、南米の奥地などへ画家たちを探しに行くほどアクティブで刺激を受けたボークさんは、“誰も知らない作品・画家を見つけるのもディーラーの仕事”と知り、魅了されるがなかなか行動を起こせなかった。
その後、外資系企業などに就職し、日々を過ごしていたボークさんは30歳を目前に転機が訪れる。あることを機に未来を見失ってしまったボークさんの頭に、アメリカで出会った女性の事が浮かび、思い切ってアートの世界へと飛び込んだ。
アートというパッションを見つけ、ロンドンの美術系大学院へ進学。「ギャラリーのオーナーになりたい」という夢を持つ。「アジアの現代アートはまだ埋もれていた時代で、アートを通してアジアの魅力を伝えたかった」と当時を振り返るが、人脈もないため一歩を踏み出せずにいた。その時のことをボークさんは「こういった私のウジウジしている姿を娘は敏感に感じていました。だからこそ、娘のためにもパッションを持って、失敗なんて怖くない!ということを見せたかった」という。
それからボークさんはある美術館でボランティア活動を始める。そして、そこでの出来事を、特に失敗したときに娘に話したという。「失敗は必ずあります。失敗しないと心の強さは育まれません。そして、失敗について話すと、子どもなりにどうすれば失敗から立ち直れるか、失敗を活かせるか考えるんです」。
こうして、渡米から6年後、念願のギャラリーを持つことができたボークさん。ただ、今ではボークさんのパッションもライフコーチへと移り変わっているという。ギャラリーのオーナーとしてお金を稼ぐことも重要だったが、何よりもボークさんにとって幸せ、楽しさを感じるのは自分の時間であり、家族や友人と過ごす時間だった。
「アートは趣味にして、ライフコーチで食べていけるようにしようと思いました。これまでは兼業でしたが、最近はライフコーチだけに絞っています。みんな、自分の可能性を自分でふたしています。それを解き放てば、どんな年齢からも自分の生き方を見つけることができると思っています」。
初心者に戻り、失敗を恐れるな
では、どうやってパッションを見つけていけばいいのか。著書の中では、その見つけ方が詳細に書かれているが、その中でも一番大切なのは「直感」だという。そして、自分自身にさまざまな問いを立てて向き合い、ノートに書き出していく。もちろん、すぐに見つかる人もいれば、長い時間掛けて見つかる人もいる。
何にパッションを持つかはそれぞれで、「仕事にパッションを持つ人もいれば、そうでない人もいます。仕事にパッションを持てない人は、その仕事を支えるための何かを見つける。仕事をするために、生きていくために自分にとって必要だと思えることを。人生100年時代と言われている今、定年後に何をすればいいか迷いのある方も、ぜひ試してみてください」と話す。
ただ、どんなことも新しいことを始めるにはためらいが生じてしまう。だからこそ、「何かやりたい」「趣味を持ちたい」などと考えていても、考えるだけで終わってしまう。
そんな人にボークさんは「大事なメンタリティーは初心者に戻れることです。人生は何回だってスタートに戻れます。初心者に戻れることは恥ずかしくないんです。新しいことに挑戦することは格好良く、新しいことをやる上での面倒くさいことができる自分はすごいんだと思ってください。会社という箱の中にいる人は、まず箱から出て考えてみてください。新しいことを始めると、新しい人に出会い、会社と社会ではなく、自分と社会のつながりが見えて、見つけられます」。
だからと言って、自分が好きだと思っても、やり続けることで「違うな…」「好きじゃなかった」と感じることもあるはず。パッションの失敗はあってもいいのか。
「行動する勇気が重要です。必ず失敗はあります。失敗をどう捉えるかが問題です。“ダメなものを見つけた”という経験をした、と思えば良いんです。行動する勇気は損なわれません。パッションは見つけるまでに時間が掛かります。その間に失敗もあり、挑戦できる自分はすごいんです。好きなことを見つけるのはそれだけ大変。あのときにやっておけばよかった、と思わないために、今このときからやってみてください」
自分がやりたいこと、好きなこと、これを見つけることに焦ってしまう。しかし、好きだからこそ、失敗することも怖く、臆病になってしまうが、時間が掛かってもいい、失敗してもいいと言うボークさん言葉が背中を押し、“幸せな人生”の見つけるために一歩踏み出せそうだ。そして、一歩踏み出すことに年齢は関係ない。
ボーク重子
作家、ICF会員ライフコーチ。福島県出身、アメリカ・ワシントンDC在住。2004年、アジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にはワシント二アン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に、「ワシントンの美しい25人」に選ばれる。一人娘のスカイは2017年「全米最優秀高校生」コンテストで優勝、多くのメディアで取り上げられる。著書には『「非認知能力」の育て方』(小学館)などがある。