長崎県の川棚町に建設が予定されている「石木ダム」。

佐世保市の水不足解消や、川棚町の洪水防止などを目的に計画された。

すでに建設予定地に住む約8割の世帯が移転を済ませているが、事業に反対する13世帯が今も暮らしている。

ダム問題とともに半世紀を過ごしてきた住民たちの思いを取材した。

1980年から開かれてきた建設反対の「団結大会」

川棚町の川原地区の春。

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石木ダムが完成すると水没し、この景色は失われる。

3月14日、1980年から毎年、川原地区で暮らす住民や支援者が集まってダムの建設に反対する「団結大会」を開いてきた。

しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止に。

2021年は、代わりに「ふるさとのためにできることを」と、地区を流れる石木川周辺でごみを拾って回った。

川原地区の住民・岩本菊枝さん(72):
何か宝物、出てこんかね?

石木ダムの建設にともなう付け替え道路の工事現場では、ダム建設反対を訴えて座り込みをする住民と県や業者とのにらみ合いは激しさを増している。

 

ほとんどの日を抗議行動に費やす女性たちがいる。

平均年齢70.8歳の「ルビー会」。

ルビー会の人:
(かつて)ルビーの指輪が流行った。(抗議行動で)赤ばっかり身に着けている。「レッド会」よりも「ルビー会」の方がよかねって。座り込みに出てくるおばあさんたち

気を抜けない時間が続く中、1日に2回の“おやつタイム”は心が和らぐひととき。

ルビー会の人:
(付き合いは?)もう何十年。結婚してきてから、もう50年? ダムと一緒やもんね。子どもたちが全部一緒くらいだからね。小さな時から一緒に子どもたちも、親も一緒に遊びよったしね。ままごと遊びばしよったたい。着せ替え人形着せたり、お医者さんごっこしたり

川原地区の住民・岩下すみ子さん(72):
おもしろかよね。こんな目に遭ってもさ、みんな笑顔やけんさ、明るかけんね

県は機動隊を入れ、子どもは対立派の先生からいじめも

「ルビー会」の1人、岩本菊枝さん(72)は約50年前、20歳の時、川棚町の別の地区から嫁いできた。

石木ダムの建設が決まったのはそれから数年後のことだった。

川原地区の住民・岩本菊枝さん(72):
ダム…って。ダムってできるのかなと思った。その頃、子育て中で忙しいでしょう。全然興味なかったとは言えないが、その程度だった。

そして、事業主体の県側と反対する住民との溝が埋まらぬまま、1982年、県は機動隊を入れての強制測量に踏み切った。

岩本菊枝さん:
測量をしに来た、機動隊を連れて。あの頃がちょうど33歳だった。一番下の子が幼稚園だった。長女が6年生、長男が2年生でその時が始まりだった。1週間仕事を休んで、子どもも1週間学校を休ませて。機動隊が強い。まだ三十何歳で若かった。何をされるかわからない。突進してはいけなかった、怖くて。

子どもたちにも影響があったという。

岩本菊枝さん:
勉強が遅れている。先生からいじめがあったみたい。ダムに賛成する先生と、反対する先生がいる。可哀相だと思った

2019年、土地の所有権は土地収用法に基づいて県側に移り、強制的に立ち退きを行う「行政代執行」も可能になった。

川原地区の13世帯は、土地を明け渡す義務を負っているが、今もここで暮らしている。

岩本さんは12年前の定年退職後から抗議の座り込みに参加していて、ふるさとを守り続けると心に固く誓っている。

岩本菊枝さん:
私たちが守らないことにはだめ。次の世代にダムのことは残さないようにしていかなくては。どうなるか

川原地区の景色を見に町の内外からやってくる人たちも

菜の花が見頃を迎えたこの日。

川原地区の春の景色をキャンバスに描こうと、町の内外から絵画クラブのメンバーがやってきた。

佐世保市 レインボー水彩画クラブ・吉村賢二さん:
佐世保の人で石木や川原を知らない人もいるので。ぜひ絵を見てもらって、来てもらえればいい

川棚絵画クラブ代表・石木正さん:
ほかにこういうところない。一度壊したら自然は元に戻らない。ぜひ残してほしい

国の採択から約半世紀たった今も、石木ダムは完成していない。

そんな中でも川原地区の季節はめぐり、住民たちの暮らしは、今日も変わらず続いている。

(テレビ長崎)

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