従来の台帳方式では限界が

2021年4月からいよいよ高齢者3600万人への新型コロナのワクチン接種が始まるが、全国の自治体での接種状況を個人単位で逐次把握するという新たなシステムの構築が、準備の最終段階に入っている。マイナンバーを活用するというこのしくみはどういうものなのだろうか。

今回のワクチン接種では、住んでいる自治体からクーポンが送られてくるので、それを持って接種会場に行き、ワクチンを打ってもらうことになる。

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一方、これまでの風疹や高齢者のインフルエンザなどの予防接種では、各自治体は、別々の台帳で住民の接種記録を管理しているうえに、医療機関から接種したという記録が回ってきてから入力が行われることで、データ化されるまでに2.3か月かかっている。

短期間に2回、多くの人への接種を集中的にこなしていく今回の場合、記録への反映に時間がかかり、情報が自治体の間で共有されなければ、1回目と2回目の間で接種者がクーポンをなくしたり、転居したりしたとき、履歴の確認が難しくなり、混乱する事態が懸念されていた。

ほぼリアルタイムで接種履歴を更新

そこで、導入されることになったのが、データベースを全国一つの記録システムで管理する新たなしくみだ。

住民の氏名やクーポン番号などの情報をひとりひとりのマイナンバーに紐づける形で、各自治体から取り込んでおいて、接種会場では、クーポンのバーコードなどを専用のタブレットで読み取るなどして情報を反映させ、ほぼリアルタイムでデータベースを更新していく。

このしくみだと、1回目の後に2回目を打つのを忘れている人に接種を促す案内が行える、とか、副反応などの報告があった場合、同じロット番号(製品単位)のワクチンを打ったほかの住民に注意喚起の連絡がすぐできる、などのメリットが期待できるとされている。

回避したい10万円給付の二の舞

今回のシステムは政府がつくり、地方自治体が利用する流れになるが、政府が給付を決め、自治体が実施主体を担った2020年の10万円の定額給付金のケースでは、多くの役所の窓口で混乱が起きた。

オンライン手続きでは、マイナンバーカードが本人認証に使用され、行政側が処理に手間取ったり、利用者側がパスワードを忘れていたりしていて、スムーズに進まないケースが多発したが、実は、あのとき、マイナンバーは使われなかった。

マイナンバーは、「社会保障」「税」「災害対策」関連分野で利用できるとされ、使える場面が法律で詳しく定められているが、10万円給付は、それらにはあてはまらなかったのだ。マイナンバーカードにより専用サイトを通じて行われた申請も、マイナンバーは介さずに、カードに搭載されているICチップを利用する形で行われた。

今回のワクチン接種は、「社会保障」分野として、マイナンバー自体が活用できることになっている。マイナンバーの登録は事前の行政の内部処理で行われるので、接種の際には、マイナンバーを提示する必要はなく、マイナンバーカードも不要だ。

失敗は接種の遅れに直結か

政府内には「今回成功すれば、自治体の情報システム標準化に向けた大きな一歩になる」との声がある一方、ある関係者は「しくみづくりに着手した時期が遅過ぎ、自治体側は準備不足のままスタートを迎えることになる」と懸念を示す。

各自治体の接種会場での情報登録は、タブレットによる読み取りのほか、手入力でも行われることになっているが、実際の現場で遅滞なくこの作業を進められるかが、最大の焦点だ。

スムーズなデータベースの更新ができなければ、接種そのもののスケジュールの遅れにつながりかねない。

「行政デジタル化」での挽回図れるか

10万円給付での混乱のほか、雇用調整助成金のオンライン申請の停止や接触確認アプリ「COCOA」の不具合など、政府のデジタル運用では失敗とも言える事例が相次いでいる。

さらにマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにする計画は、3月下旬を目指していた本格運用の開始が先送りされることになった。一部の医療機関での試行段階で患者の情報が確認できないなどのトラブルが続出したためで、スケジュールは半年以上延期される可能性がでてきた。

こうしたなか導入される新たな情報管理システムは、国民の安心安全にかかわるワクチン接種という一大事業の成否を左右することになる。

政府が「行政のデジタル化」で挽回を図れるかは、このシステムがうまくいくかにかかっていると言えそうだ。

(執筆:フジテレビ解説委員 智田裕一)