総重量3.5トンの巨大からくり装置
ミシンやプリンターなどを製造するブラザー工業株式会社が公開した、同社の製品を紹介する動画が注目を集めている。
その名も「ブラザー企業CM『ブラザーからくり』」で、新製品のCMかと思うかもしれないが、そうではない。
まずはこちらの動画を見てほしい。
2分41秒の動画は、倉庫の中にどっしりと存在する“巨大な機械”の姿から始まる。よく見ると、この機械の各部にミシンやプリンターなど、同社の製品が設置されているのだ。

「ブラザーからくり」とは製品名ではなく、同社のいろいろな製品を用いて作られた“巨大なからくり装置”だったのだ。
このからくり装置の起動は、正面に設置された青色の丸いボタンを押すことで始まる。

すると、巨大な機械の最上段から銀色のアルミ球が登場し、業務用刺繍ミシン、ラベルプリンター、家庭用ミシンと、さまざまな製品の仕掛けを動かしながら、からくり装置全体をめぐっていく。
印刷されるものがハートの図柄であったり、ミシン糸(巻き糸)の道ではきれいなグラデーションとなっていたり、仕掛けの動きのみならず、さまざまな部分に工夫が凝らされているのが分かる。

このほかにも、衣類に直接高画質な印刷をすることができるガーメントプリンターなど、設置されたさまざまな製品を通りすぎ、最後に行き着いたのはインクジェットプリンター。

仕掛けのカードに反応し、起動したインクジェットプリンターが印刷したのは、白い紙に青色の文字で書かれた自己紹介だったのだ。
「こんちには、ブラザーです。」

装置全体には13種類の製品が使われており、そのうち、からくりの仕掛けには8種類の製品が使用されている。
縦・横約5メートル、高さ約4メートル、総重量が約3.5トンの巨大からくり装置で、ブラザー関係者・代理店・映像制作スタッフ、美術スタッフなど約30人で、構想開始から8カ月をかけて完成したという。
この動画は話題となり、2月12日から公開しているYouTubeではノーカット篇が約50万回再生となっている。(2月18日現在)

規模も仕掛けも壮大な自社製品のCM動画となっているが、なぜこのような形での紹介となったのだろうか? また、大掛かりな装置ゆえに失敗もあったはず。成功までに何回チャレンジしたのだろうか?
からくり装置の担当者である、ブラザー工業CSR&コミュニケーション部の岩田俊夫さんに話を聞いた。
メカが動く面白さや製品の持つ美しさを表現
ーーなぜ「ブラザーからくり」CMを作ることにしたの?
ブラザー工業は2019年8月から日本国内の20代、30代の認知度向上を目的に、「あなたのブラザーでいたい。」というコンセプトのもと企業PR活動を行っています。動画配信やキャンペーンなど、デジタルプラットフォームにおけるさまざまな広告施策を展開してきました。このCMもそうした活動の一環として製作しました。
ーー巨大からくり装置を作るというアイデアに至ったのは?
ミシンの修理で創業したブラザーですが、現在は主力のプリンター製品をはじめ、工作機械や産業用印刷機器などさまざまな製品をお客様にお届けしています。こうした事実を、ブラザーを知らない方に興味を持ってもらいながら、効果的にお伝えするにはどのようにすればよいだろうかと、さまざまなアイデアを検討しておりました。
また、ブラザーはメカトロニクス技術をさまざまな製品に活用する事で、事業を発展させてきた歴史もあります。メカが動く面白さや製品の持つ美しさを表現する方法はないかと考える中で、“製品を使ったからくり”というアイデアにたどり着きました。

ーー装置のこだわり部分を教えて。
製品自体の動きや機能で仕掛けをつくることには特にこだわりました。よく見てもらうと、バーコードを読み取って次にバトンを渡したり、カードをかざして印刷を出したり、細かなギミックに製品の機能もちゃんと取り入れています。
また、単にからくりを見せるだけでなく映像としても美しいものになるよう、撮影スタッフが頑張りました。弊社のコーポレートカラーでもあるブルーの幻想的な世界で、装置の不思議な魅力が表現できているのはないかと思います。

ーー苦労した点は?
どこかで失敗してしまうと撮影は一からやり直しなので、セッティングに時間がかかり、骨が折れました。しばらく動かさないと自動的に待機モードに入ってしまう製品などもあり、担当部門にお願いして製品のプログラムを書き換えてもらうなどの対処もしました。また、ブラザー製品ならではの動きや仕掛けを、限られた長さの映像の中で組み入れていく点はとても苦労しました。
ーー成功までに、何回チャレンジした?
27回目でのチャレンジで成功しました。ただこれはカメラを回し始めてからのカウントで、当日のリハーサルを含めると50回くらいの挑戦となります。
海外の販売会社にも反響が
ーー巨大からくり装置「ブラザーからくり」の出来栄えはどう?
個々のからくり装置は事前に別の場所で検討しながら製作しておき、最終的に撮影する倉庫に持ち込んで、大型の工作機械などと組み合わせて初めて完成したのですが、想像以上に迫力がありました。多くの人の手で作り上げている作品でもあり、細かなところまでとても良くできていると自負しています。

ーー社内での反応はどうだった?
おかげ様でとても好評です。社内を巻き込むために、製作途中の段階から従業員向けのイントラサイトで、ブログのように日々の進捗を紹介する試みを行っていて、完成前から応援の声やこうしたら良いんじゃない、などといった意見をもらっていました。そのため動画を公開した時、とても喜んでくれました。
また、いつの間にか海外のグループ会社にも話題が届いていて、アメリカやシンガポールの販売会社から動画を使いたいという反応ももらっています。実は動画の最後の「ブラザー」というナレーションは弊社の社長・佐々木の声なんですが、完成した映像を見せたところ「いい出来だね」と言ってもらえました。

ーー視聴者からの反応は?
ツイッターでの反応がとても良く、素直に映像を楽しんでいただけたのかなと思っています。東海地方ではゴールデンタイムに1分間のTVCMを放映したのですが、音楽もなくひたすら球が転がるCMに驚かれた方もいらっしゃったようで、ツイートでのリアクションも良かったです。
さらに動画の公開直後にCBCさんや中京テレビさん、GIZMODEさんやねとらぼさん、さらにはヤフーニュースさんなどに取り上げてもらうなど、想定以上の反響を頂いています。また、中日新聞さんにも取材に来てしてもらい、近日中に記事が掲載される予定となっています。
ーーその反響に対してはどう思う?
ただただ、ありがたく思っております。今回のCMは何かを押し付けるでもなく、訴えかけるでもなく、単純に製品が登場する面白い映像というだけなのですが、老若男女問わず楽しんでもらえたのが良かったのかなと思います。

再びからくり装置を作る事はない
ーーからくり装置を今後また作る予定はある?
同じ事をやっても注目を受ける事はないでしょうから、再び同様のからくり装置を作る事はないと思います。また新たな方法で、みなさんに楽しんでもらえるような事を考えていきたいです。
ーーこの動画を見た人へ、伝えたいことは?
ブラザーは、お客様の役に立つ製品はなんだろうと考えているうちに、さまざまな製品を世の中に送り出してしまう、ちょっと不思議な会社です。工作機械や産業用印刷機など、一般にはなじみのない製品も増えていますが、そんな会社があるという事を覚えておいていただけたら嬉しいです。

この巨大からくり装置は撮影後、製品は元々あった場所に戻され、土台は全てばらして廃棄したという。
再び作ることはないという今回の巨大からくり装置だが、同社の「ブラザーを知らない人にブラザーを知ってもらう」という狙い通り、多くの人に知ってもらうきっかけになったのではないだろうか。
次はどういった方法で紹介をしてくるのか、「ちょっと不思議な会社」の今後が楽しみだ。
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