「すごいスピードで広がった」 村は突然の感染爆発に襲われた

変異した新型コロナウイルスの拡大が続くイギリス。従来型と比べて感染力が強く、2020年9月に初めて出現が確認されて以後、急速に広がり、年末にはロンドンの感染例の8割が変異ウイルスによるものとなった。

「すごいスピードで広がった。自分が感染したのも変異ウイルスだと思う」
自らも年明けに発症し、1月半ばに陽性が確認されたロンドン近郊に暮らす日本人ピアニストが、現地で起きた感染爆発の脅威を語った。

11月に学校で異変 クリスマスに多くが感染

平井元喜さん プラハのスメタナホールにて
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イギリスを拠点に活動を行うコンサートピアニストで作曲家の平井元喜さん。NYのカーネギーホールで演奏するなど世界100カ国以上で音楽活動を行っている。また平和や教育のための文化交流プロジェクトにも積極的に取り組む。

平井さんが暮らすのはロンドン中心部から車で1時間ほど離れた田園風景が広がる村だ。世帯数は50ほどで、人が密集する機会は少なく、それまで周囲で感染したという話は「ほとんど聞いたことがなかった」という。

平井さん自宅周辺 静かな田園地帯だ (平井元喜さん撮影)

平井さんが初めて周辺に異変を感じたのは2020年の11月だった。

「11月にロックダウンが行われている間、自分の息子や娘の小学校、保育園でコロナが流行り出した。変異ウイルスが現れたのが9月と考えるとタイミングがあう感じで、今思うとすごいスピードで感染が広がっていた 」

クリスマス時期になると近隣の知人や友人の間で一斉に感染が広まり、周辺で救急車を見る機会が増えていった。

「数軒離れているところに住んでいる親しい人が亡くなったのが一番のショックだった。小学生の子供が2人いる」

年明けには隣に暮らす家族全員が陽性になるなど近隣住民の多くが感染した。

自宅周辺にも頻繁に救急車が来るようになった(平井元喜さん撮影)

子供は胃腸系に影響 家族で異なる症状

地域社会で感染が広がる中、年末から年始にかけて、平井さんと家族にも軽い風邪のような症状が出た。平井さんは国の医療システム(NHS)に連絡を入れ、検査キットが郵便で届いたのが2021年1月中旬。それを専用ポストに投函して送り返した。

その結果、平井さん本人、妻、2歳の長女が陽性と判明した。一方、長男は陰性だった。検査結果にはウイルスの種類については明記されないが、周囲での感染拡大の早さから「自分たちも変異ウイルスに感染したと思う」と話す。

平井さんの元に届いた「陽性」の判定結果

症状は家族それぞれ異なっていた。平井さん本人は喉の痛みに続いて、強烈な全身倦怠に襲われた。 

「だるさや倦怠感という言葉では説明できない。本当に起き上がれない感じだった何をやる気力も出ない。数日して味覚と嗅覚が感じないと気づいた 」

頭痛もあり、スマホやパソコンを見る気にもならない。胸の締め付けと息苦しさもあり、持病である狭心症の発作も2回出た。10日ほどで起き上がれるようになった。

一方、妻はひどい咳、吐き気、頭痛、筋肉痛、倦怠感の順番で発症し、子供には下痢、嘔吐など胃腸系の症状に加え、結膜炎のような症状が出た。子供の回復は早く、2日ほどで症状は治まった。

幸いなことに、家族の誰も救急車を呼ぶ事態には至らなかったが、平井さんは「毎日テレビで報道される人工呼吸器をつけて苦しむ重篤の患者たちの姿が脳裏に浮かんだ。妻も喘息があり、肺炎になる不安と恐怖があった」と話す。

現在でも味覚や嗅覚が完全には回復しておらず「肉とかイカを食べていると風味がなくゴムを食べている感じ。料理をする気もなくなる。ガスが漏れていた時も気付かなかった。怖さを感じる」

国の郵送検査キット 無料でネットで申し込める。平井元喜さん提供

「気をつけすぎるということはない」肌で感じた感染のスピード

イギリスは2020年11月に行われた外出制限の効果により、全国的には感染者数が大幅に減少していたが、南東部ケント周辺だけ原因不明の感染拡大が起きていた。

それが変異ウイルスの始まりだった。

12月に入り全国に急速に広がり、感染者数も大幅に増加。平井さんの暮らす村で感染が広がった時期とも合致している。

平井さん家族も手洗いを頻繁に行うなど衛生に注意し、外部との接触を極力避けながら十分なウイルス対策をとってきたが、それでも感染した。

「自分が陽性になって感じるのは、いつどこで感染するかわからない、誰が感染してもおかしくない、ということ。イギリスに暮らし、変異ウイルスの感染のスピードを肌感覚で感じている立場からいうと気をつけすぎると言うことはない 」と話す。

脱毛、頻尿なども。地域社会で「後遺症」と向き合う

「自分たちの暮らす村では多くの隣人や友人が感染し、ウイルスが忍び寄っているというフェーズはとっくに終わった。今は後遺症に向き合うフェーズだ」と平井さんは言う。近隣住民同士でSNSを通じ、新型コロナウイルスの症状や後遺症について積極的に情報を交換している。

後遺症として平井さんは味覚や嗅覚の低下、すぐ息切れするなど体力の低下を感じるほか、脱毛があると話す。隣人には強烈な尿意や頻尿を訴える人もいるという。排尿の際に痛みを伴うこともあるとのことだ。

平井さんは2020年に心筋梗塞の手術を行ったこともあり、後遺症への不安はつきないが、地域社会の絆に支えられていると話す。
 「何かあったら言ってくれ」と皆で声かけしていて、買い物して届けてくれるとかコミュニティスピリットがあります。陽性になってもオープンに会話し、励まし合っている。心理的に救われていて大変幸せだと思う」

「分断や不安が広がる中、音楽で元気を生みたい」

平井さんは、症状が一番重く何も考えられずに横たわっていた時、自然とメロディーが浮かび、朦朧としながらピアノに向かったという。

「コロナは目に見えないもので、人間は未知のものに対して不安や恐怖を感じる。
一方、音楽も目に見えないが、人種や言葉を超えて人の心に突き刺さるものです」

コロナで不安や分断が広がる中で「音楽を通じてつながりとか元気を生んでいければと思います」と話す。新型コロナウイルスに感染し闘病した経験を通じて、今は新たな創作活動に意欲を見せる。

南ア型の特徴も。さらに変化を続けるウイルス

このイギリス型変異ウイルスについて気になるのは現在も変異が進行中ということだ。スパイクタンパク質の部分に南アフリカで流行しているウイルスと同じ「E484K」と呼ばれる変異を起こしている例がイギリス各地で確認された。南ア型はイギリス型よりワクチンが効きにくいとの指摘もあり、メーカー側はこれに対応するワクチンを開発中だ。

ワクチンが効かない変異ウイルスの出現はあるのか。

WHOのデビッド・ナバロ特別代表はFNNの取材に対して「現行のワクチンが効かない変異ウイルスの出現はあり得る。時間が経過すればそれは避けられない」と答えてさらなる変異が続く可能性を指摘した。一方で「変異ウイルスに対応できるようワクチンを改造していくことは可能だ」とも話した。

大規模なワクチン接種が進むイギリスでも今後の変異に対する警戒は解かれておらず、ウイルスとの戦いはまだ続いている。

【FNNロンドン支局長 立石修】