イギリス 出生数減少へ
「コロナベビー」
2020年3月、イギリスが新型コロナウイルスの感染拡大で最初のロックダウンに踏み切った時、話題になった言葉だ。イギリスでは第二次世界大戦やダイアナ元皇太子妃の死去など悲惨な出来事の後、ベビーブームが到来してきた。
また今回も長引くステイホームでカップルが一緒に過ごす時間が増えることから出生数が増えると予想されていた。実際にロックダウン当初、助産師が「これから忙しくなる、身が引き締まる思いだ」と地元紙に答えている。
しかし、スカイニュースは2020年妊婦が超音波検査のため病院を訪れた人が2018、2019年をともに下回ったと報じた。コンサル大手のプライスウォーターハウスクーパースも2021年は統計以来最も少ない出生数になる可能性があるとしている。

原因としてあげられているのが、経済的不安だ。イギリスはG7の中でも最も経済の落ち込みが深刻で雇用などの不安もつきまとい、家族を増やす選択をしにくくなった。他にも、結婚式の延期などから家族計画の遅れや、不妊治療の継続が出来なくなったことなどが要因としてあげられる。
「妊婦の孤独」問題
この他にも問題になったことが「妊婦の孤独」だ。パートナーは感染リスクから病院への立ち入りを禁止され、妊婦は重要な局面全て一人で向き合わなくてはならなくなった。
「#ButNotMaternity」
これは、ロックダウンが明けたらレストランやパブには複数で入ることが許されるのに、妊婦は病院に行く際、付き添いが許されないことへの悲痛さや不満を訴えたものだ。つまり「妊婦はダメ」という現状に疑問を投げかけているのだ。
2020年12月にはイギリスの公的医療機関NHSは「妊婦のパートナーや親は病院への来訪者ではなく、妊婦をサポートするのに不可欠な人」として来院を許可すべきとのガイドラインを発表。しかし、付き添いは各病院の判断に任されているため、確実にパートナーが出産に立ち会えるのかはさだかではない。

こんな時だからこそ、パートナーが立ち会える自宅出産を希望するカップルが多いのだが、それも厳しいのが現状だ。イギリスの大部分の病院では自宅出産で何かあったとき緊急で対応が出来ないとしているほか、感染拡大で救急車が足りなくなっており、安全が保証できないとして自宅出産に対応しないとしている。
世界最高峰のロイヤルバレエ団はベビーブーム
この厳しい中、ベビーブームが到来している業種がある。イギリスが世界に誇るロイヤルバレエ団のバレリーナ達だ。公演中止が続くこの時期に出産を迎えるダンサーが相次いでいる。

ロイヤルバレエ団のオリビアさんはそんなバレリーナのひとりだ。
一般的な話だと前置きをしつつも、こう心の内を明かす。
「ダンサーのキャリアは短いし、やりたい役も沢山あるので中々、出産できるタイミングがみつからない」
しかし、コロナ禍で舞台に立てない日々が増え、多くのダンサーは自分を見つめる良い機会になったという。

オリビアさんもバレエから離れたことはストレスだったとしながらも、1回目のロックダウン明けに長男が誕生したことは最高の喜びだったという。
「公演中止でバレエへの愛をより強く感じるようになった。早くママとして舞台に戻りたい!」と話す。
生まれたばかりの長男に舞台を見に来てもらうため、1月から本格的なトレーニングを再開した。

同じくロイヤルバレエ団で4月に出産を控えるタラブリジットさんは、家族が増えると分かった時「とても興奮した!」と喜びが爆発したそうだ。しかしそれを友人や離れた家族と直接共有できないことを残念がった。一方でバレエへの情熱は変わらず、妊婦の今もトレーニングを欠かしていない。
公演中止という困難に直面したバレリーナ達は、最大の困難をきっかけにライフプランを改革していた。
【執筆:FNNロンドン支局 小堀孝政】