「炎上した場合、投稿した内容を消してはいけません」。そう語るのはグリー株式会社「社会貢献チーム」マネージャ小木曽健氏。「ネットで絶対に失敗しない方法」をテーマに、日本全国さまざまな場所で年間300件以上の講演を行なっている。今回は小木曽氏に、子どもがもしネット炎上を引き起こしてしまったら、親としてどう対応すべきか、またその予防策を聞いた。

ネット炎上してしまったら、3段階の対応を

 
 
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――これまで、どのような子どもの炎上事例がありましたか?

小木曽:
男子の場合、飲酒や喫煙していることをSNSに投稿したり、電車内や店舗、公共の場でふざけている様子を動画撮影したりして、炎上するケースが多いですね。友人同士のふざけ合いのつもりが、ツイッターなどで拡散され、2ちゃんねるで話題になり、やがて個人特定学校に抗議の電話やメールが殺到し、炎上が発覚します。

女子では、『こいつ私のことジロジロ見てキモい!盗撮してるかも』といったコメントをつけて電車内の乗客を無断で撮影しSNSに投稿、炎上に至ったケースがありました。女子の場合は男子よりも炎上につながりやすく、炎上後もかなり粘着される傾向にあります。またこの事例は、最悪の場合、刑法上の名誉毀損罪侮辱罪という、慰謝料では済まされない事案に発展する可能性も含んでいます。

 
 

――もし我が子がそのような炎上を引き起こしてしまったら、どのような対応をしたらよいでしょうか?

小木曽:
インターネットの炎上への対応は、3段階あります。それが1『謝罪』、2『ペナルティの開示』、3『感謝』の3つです。

まずは謝罪。炎上している以上、なにかしらこちら側に落ち度があることは確か。まずは、炎上に引き寄せられて集まってきた数十万、数百万といった人たちに向けてしっかり謝罪し、反省していることを伝えてください。これをしないと始まりません。

次に可能な範囲で、自分に与えられた『ペナルティ』を開示します。炎上の場に集まってきている人々には『悪いことをした人間がペナルティを喰らっていないのは納得できない!』という気持ちがありますから、親や先生にこっぴどく叱られた、お店に謝りに行った、スマホを解約した…などの具体的なペナルティを開示することで、その人たちに納得してもらうのです。可能であれば、経緯や詳細なども伝えられると良いですね。

そして最後に『感謝』。意外に思われるかもしれませんが、この『感謝』こそが炎上を収束させるための重要な要素なのです。人間は、自分が攻撃している相手から『ありがとう』なんて感謝されてしまうと、ペースを乱されます。まさかお礼を言われるなんて思っていませんから、どうも調子が狂うんですね。炎上の当事者は、事態の主導権を失っているケースがほとんどですが、この『ありがとう』によって、失われた主導権を少しだけ取り戻すことができます。いずれにせよ、大人たちが子ども本人と連携しながら、しっかり対応することが重要です。


――なるほど。ちなみに、問題の投稿は消した方が良いのでしょうか。残しておくともっとたくさんの人が集まってくるんじゃないかと思いますが…。

小木曽:
基本的に、投稿は消さない方が良いです。例えば、炎上の初期段階で、慌てて投稿を消すということは、車社会でいう『ひき逃げ』に当たると思ってください。炎上に集まってきている人々は、投稿を消した瞬間に『コイツ逃げようとしているな、絶対に逃がさないぞ!』という心境になります。また、炎上に驚いてアカウントそのものを消してしまう人もいますが、アカウントを消すのは事故車を廃車処分にして誤魔化すようなものです。悪質な証拠隠滅と思われてしまいますから、絶対におすすめできません。

炎上から逃げずにちゃんと対処すれば、その様子も一緒に拡散していきますから、「炎上させたヤツ」ではなく「炎上させたけど、ちゃんと対処できたヤツ」という、少しはマシな情報が拡散してくれるのです。だから、消さない方が良いのです。

どうすれば炎上を防げるのか?

――では、子どもが炎上を引き起こしてしまうのを未然に防ぐ方法はあるのでしょうか?

小木曽:
唯一の方法は『ネットの本質を知る』ということです。日常とネットは、つながっている同じ世界。つまり、『日常でやっていいことはネットでもOK。そして日常でやらないことはネットでもやらない』ということ。私はこの説明を「家の玄関ドアに貼れるか」という例えでお伝えしています。玄関に貼れる内容をネットに投稿して、炎上するケースはありません。逆も然りです。

そして、インターネットは子どもがひとりぼっちで世界中を歩き回れるもの、お父さんもお母さんもいない世界なんだから、玄関にどんなものを貼るかは、自分の責任で考えなければいけないんだよ、ということを伝えてください。


――そういった話は、子どもがどのくらいの年齢になったら話すべきでしょうか。

小木曽:
自宅の内側・外側という概念をしっかり理解できるのは、だいたい小学5年生からです。私の経験上、4年生以下の子どもではなかなか理解が難しいですね。そもそも4年生くらいまでは、インターネットに興味があっても、やるのはゲームや動画視聴くらい。他人とのコミュニケーションに興味を持ち始めるのは5年生くらいからです。ですので、ネットモラルの問題について話しはじめるのも、私は5年生からで良いと思っていますよ。



――家庭内にはインターネットに関するルールは必要でしょうか?

小木曽:
子どもがネットを使うことで、なにかしらの弊害が生まれている状況ならば、ルールを作るべきですが、その際は「弊害」に直結したルール作りが重要になります。

例えば、夜遅くまでスマホを使っている子どもに、『21時以降はスマホ禁止!』というルールを設けても、21時以降に漫画を読み始めるだけですから(笑)。深夜や長時間のスマホ利用で睡眠不足という弊害が発生しているのであれば、『我が家では睡眠時間を◯時間以上とらなければいけない』というルールを作るべきでしょう。そして、もしルールを守れなかったら「なぜ守れなかったのか」を検証し、必要なら弊害解決へのアプローチを変更してもいいんです。一度決めたルールは『絶対』ではなく、状況の変化にあわせて改変させるくらいで丁度良いと思います。

また、ルールを設けるのならスマホを子どもに手渡す前に決められるといいですね。事前に、どのようなリスクがあるのかを知りたい時は、ネットで『小学生 スマホ ルール 失敗 トラブル』などのキーワードで検索すれば、先輩保護者の失敗談が見つけられます。

次回は引き続き小木曽氏に、我々大人も気をつけるべき炎上回避マネジメントについて聞いていく。

 
 


■小木曽健(おぎそ けん)
1973年、埼玉県生まれ。2010年グリー株式会社に入社し、ネットパトロール統括を担当。2012年から、ネット安全利用を促進するチームのマネージャとして全国で年間300回以上の講演を行い、受講者は40万名にも及ぶ。著書に「11歳からの正しく怖がるインターネット」(晶文社)「大人を黙らせるインターネットの歩き方」(筑摩書房)がある。



取材・文=サカイエヒタ
編集=ヒャクマンボルト
写真=高山諒
 

プライムオンライン編集部
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