第1回では“炎上の定義”と、“炎上の被害者”となってしまった場合に考えられるリスクを明らかにした。被害者がいるということは、対象となる人物や企業に攻撃をしかける加担者もいるということ。

どのような人物が炎上の加担者になりえるのだろうか。『ネット炎上の研究』の著者・山口真一氏に話を聞き、近年発生している炎上の傾向と、インターネット上で攻撃的な行動をとる人の人物像に迫る。

今日もどこかで誰かが炎上

「株式会社エルテスの調査では、“ツイッターで50回以上リツイートされ、特定のまとめサイトにまとめられたもの”を炎上の定義とすると、年間1,000件以上の炎上が発生しているといわれています。つまり、1日あたり2件以上。今日もどこかで誰かが炎上している状態といえます」(山口氏、以下同)

炎上は、2004年に多くの無料ブログやSNSがサービスを開始したことに端を発する現象だ。当時の炎上発生源は、巨大掲示板の2ちゃんねるが主な舞台。現在は、「バカッター」「バカ発見器」などと呼ばれるTwitterに場所を移している。山口氏によると、炎上の発生件数とTwitterの普及には関連性があるという。

2011年頃から急速に炎上発生件数が増加しています。これはTwitterが普及し、一般的に使われるようになったためと考えられます」

炎上が実社会に与える影響

炎上発生件数だけではなく、炎上が与える影響にも変化が見られる。

「昔の炎上というのはインターネット上の現象で、実社会に影響を与えることは稀でした。ところが最近では、インターネットユーザーのすそ野が広がっただけではなく、大手マスメディアが炎上を取り上げることが増えたため、大きな炎上となるケースが増加しました」

たしかに、テレビのニュースを見ていても、「炎上」という言葉を聞かない日はない。

「炎上した結果、個人であれば退学や解雇、結婚の取り消し、著名人であれば活動自粛、企業であれば株価下落にいたるケースもしばしばでています」

 
 
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炎上に加担した動機は「許せなかった」

未成年飲酒の告白、無免許運転の告白、コンビニのアイスケースに入った写真の投稿、パトカーの上に乗って遊ぶ写真の投稿――。

コンビニのおでんに指を入れる動画をYouTubeにアップロードした結果炎上し、逮捕された事件も記憶に新しい。炎上を伝えるニュースでは、炎上の標的になった被害者のみがクローズアップされるが、被害者に攻撃をしかける加担者の存在を目の当たりにする機会は少ないかもしれない。

「2014年、2016年と2回にわたり統計分析を行った結果、炎上に加担した経験がある人は、ネットユーザーのわずか0.5%にとどまります。『年収が多い』『男性』『主任係長クラス以上』などの人が、炎上に加担しやすい傾向にあることがわかりました。一方で、加担経験者は『ネットでは非難しあって良い』『世の中は根本的に間違っている』『ずるい奴がのさばるのが世の中』などの考えを持っており、社会に対して否定的で、攻撃的というプロフィールも見えてきました」

 
 

これらの人物像から、社会的地位があり、さまざまな事柄に対して確固たる考え方を持っている人が、行き過ぎた正義感から攻撃をしかけていることがわかる。

その証拠に、山口氏の調査によると、炎上に加担した動機は、どの事例でも60〜70%の人が「許せなかったから」などの正義感だったと回答しているのだ。

炎上加担者が犯罪の加害者になってしまうことも

多くのユーザーにとって、インターネットやSNSは楽しく、便利に利用したいもの。炎上加担者から狙われないために、どのようなことに気をつければよいのだろうか?

「炎上しやすい話題、タイミングを知っておくことが重要です。炎上しやすい話題は、『政治』『軍事』『性別(ジェンダー)』『格差』『社会保障』『食べ物』『若者論』など、多肢にわたります」

また、コミュニティの規範を知っておくことも重要だという。炎上加担者にとって大事なことは法律違反かどうかではなく、彼らの中に流れる規範に反しているかどうか。そのコミュニティの規範に反していても、炎上の対象になってしまう。

そして、炎上加担者の経験がある人は注意してほしい。匿名利用だからといって、個人が特定されないわけではないし、「これくらいなら大丈夫だろう」と思った書き込みが罪に問われ、炎上加担者から犯罪の加害者になってしまう可能性もあるからだ。

インターネット上で攻撃的な行動をとる、炎上加担者の人物像が明らかになったところで、次回は近年急増している企業CMの炎上に迫る。



■山口真一
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師。2010年慶應義塾大学経済学部卒、2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得し、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教を経て、2016年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、フリー型ビジネスモデル、プラットフォーム戦略等。「おはよう日本」「あさイチ」(NHK)をはじめとして、テレビ・ラジオ番組にも多数出演。組織学会高宮賞受賞(2017年)、情報通信学会論文賞受賞(2017年)。主な著作に『ネット炎上の研究』(勁草書房)『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(勁草書房)などがある。



取材・文=大川竜弥
編集=ヒャクマンボルト
 

プライムオンライン編集部
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