ひと昔前まで、コアなインターネットユーザーのみが使用するマイナーな用語だった「炎上」。いまやニュースで見ない日はないほどメジャーな言葉になっている。

「炎上」と聞けば、多くの人がおおよそどのような状態かイメージをすることはできるが、具体的な説明を求められた場合、答えに困るはずだ。そこで、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏に“炎上の定義”と、万が一“炎上の被害者”となってしまった場合の対応方法を聞いた。

「炎上」の定義とは?

「炎上とは、一義的には、『批判コメントが多数寄せられている状況』といえるでしょう。よって、『面白い』『かわいい』『納得の意見』といったものに『賛同』の意味でつけるコメントとは異なります。怒りのコメントがどれだけあるかという『熱量』に加え、『叩く論調』がある程度定まるものが炎上だと思います。たとえば、『この動画は“卑猥かつ女性蔑視的だ”という論調で攻めよう!』というのが定まるという意味ですね」(中川氏、以下同)

このように炎上の定義はあるが、「批判的なコメントが○件以上」のような、数の線引きはないという。また、人によってとらえ方が異なることも炎上が持つ特徴のひとつだ。

 
 
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「炎上慣れしていない人にとっては、批判的なコメントが3つつくだけで炎上だと思ってTwitterを鍵付きアカウントにしたり、ブログのコメント欄を廃止にしたりする。日々炎上している人は、批判的なコメントが100個ぐらいついていないと炎上したとはとらえない。そういったこともあり、私は記事を編集するにあたりよっぽど明らかに炎上している状況を除き、『炎上している』という表現は使いません。『批判的なコメントが多数書き込まれている』と書きます」

炎上はインターネット上の公開裁判

なぜ、毎日のように炎上が発生してしまうのだろうか。中川氏は、SNSの普及に原因があるという。

「SNSが普及し、余計なものを知ることができるようになったからでしょう。昔は田舎の高校生がコンビニのアイスケースに入っても仲間内の『バーカwwww』で済んでいたのに、良識ある人々に見つけられ、インターネット上で公開裁判を受けるようになった」

 
 

他には、政治、生き方といった議論が生まれそうなものについて、両極端の意見を知ることができるようになったことも影響している。加えて、Twitterで直接当人に意見を伝えられる、フォロワーという名の援軍を呼ぶことができるなど、気軽に第三者と争うことができてしまうのだ。

「政治、生き方関連のものって、大人は考えを変えることができない。となれば、あとは炎上まっしぐら。どちらが勝利するわけでもなく、無駄に怒ってばかりとなる」

同様に、アイドル、スポーツチームなど、ファンとアンチが争うことが可能になってしまった。「敵とふれあえるようになった状況で、炎上しないほうがおかしい」と中川氏は言う。

「インターネット×マスメディア」の合わせ技が、炎上を加速させる

もちろん、海外でも毎日のように炎上のニュースが報じられているが、日本の炎上には特徴がある。それは、日本語とマスメディアの存在だ。

「日本の炎上の特殊性は、海外の人が日本語を読めないという点にあると思います。全く違う視点から『オレの国では○○だから、お前ら2人のやりとりはどちらも理解できるぜ!』などと仲裁してくれる人がいない。それと、日本の場合はいまだテレビが圧倒的な力を持ち、しかも日本国内でしか通用しない芸能人のことを誰もが知っている」

週刊誌の不倫報道がテレビに流れると、その当事者のTwitterやブログを炎上させようとする人が押し寄せる。「インターネット×テレビ」「週刊誌×テレビ」の合わせ技の影響力が強く、炎上をより加速させてしまうのである。

炎上は日常に潜む恐怖

炎上は、有名人だけの特別なものではない。SNSの普及により炎上の発生件数が増え、一般人も巻き込まれるものになってしまった。中川氏が言うように、政治や生き方など、議論が生まれそうな発言をしなければ炎上する可能性は減るだろう。しかし、ゼロにはならない。もし炎上に巻き込まれたら、どのようなリスクが考えられるのだろうか。

「きっと、SNSの通知にびくびくしたり、ひどい場合は殺害予告があったりします。炎上していることを家族が知ったら、『お父さん、もうTwitterなんてやめて!』と家庭内不和が発生することも。また、炎上が原因で会社に苦情の電話が相次ぎ、『これ以上会社に迷惑はかけられない』と退職に追い込まれます」

 
 

本来、インターネットやSNSは便利なもの。圧倒的にデメリットのほうが大きい炎上は日常に潜む恐怖だが、文脈を理解し、危うい火に近づかなければ問題はないだろう。次回は炎上を広げる加害者側の人物像に迫る。

 
 


■中川 淳一郎
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。


取材・文=大川竜弥
編集=ヒャクマンボルト
 

プライムオンライン編集部
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