投資家向けのクラウドサービスが不正アクセスを受けた問題をめぐり、GMOインターネットグループは、政府に対し、被害の拡大を未然に防止するための「能動的サイバー防御」を緊急要請したと明らかにした。
「国主導で実効的措置を」
不正アクセスがあったのは、FX=外国為替証拠金取引などの自動取引ができるサーバーを投資家向けに提供しているサービスだ。GMOは、一部の利用者で身に覚えのない不正な取引が確認されたとしている。攻撃者とみられる者から金銭の要求を受け、応じない場合は会社や顧客の情報を公開するとの連絡を受けたが、「要求には応じない」と表明、サービスの利用者に対しては一律で5000円の見舞金を支払うとともに、不正な取引が確認された場合は発生した損失を補償する方針を示した。
また、GMOは政府に対し、サイバー被害の拡大を未然に防止する「能動的サイバー防御」の発動第1号として位置づけ、国主導で攻撃基盤の追跡・遮断や無力化に向けた実効的な措置を講じるよう緊急要請したという。
“重大な危害”の恐れでアクセス無害化
「能動的サイバー防御」をめぐっては、10月1日に関連する法律が施行され、攻撃元のサーバーに入り込み、プログラムを停止するなどして、アクセスを無害化する措置が実施できるようになった。人の生命や身体、財産に重大な危害が及ぶ可能性があり、緊急の必要がある場合、独立機関である「サイバー通信情報監理委員会」の事前承認を得たうえで、警察や自衛隊が対処することになっている。政府関係者は「自衛隊と共同対処する範囲は防衛産業や基幹インフラに限定されている」とし、「今回能動的サイバー防御に動くとすれば、警察が、という話になる」との認識を示している。
アメリカで「能動的サイバー防御」をめぐる対応が色濃く打ち出されたのは、第一次トランプ政権下で策定された「国家サイバー戦略2018」だ。2018年9月に発表され、アメリカの国益に向けられた、破壊的、妨害的なサイバー活動を防止するため、ネットワークやシステム、データを保護し、同盟国やパートナーと連携して、サイバーツールを悪意ある目的で使用する者に対して、抑止力を働かせ、必要に応じて制裁を科す能力を強化するとされた。政府、民間部門、そして一般市民は、それぞれがサイバーセキュリティを強めるため、即座かつ断固とした行動をとらねばならないとして、互いに協力し合う必要性が強調され、重要インフラ全体のサイバーセキュリティの基本レベルを向上させていく方針が一段と明確化された。
脅威を効果的に抑止するため、法執行機関は民間部門と連携し、匿名化や暗号化技術をめぐる課題に対処し、適切な法的プロセスに従って緊急性の高い証拠を収集し、悪意ある主体がアメリカやパートナー諸国に害を与えた場合、迅速に大きな代償を払わせるという統合的な戦略を用いると警告し、これには、外交、情報、軍事(物理的手段およびサイバー手段の双方)、金融、諜報、法執行といった能力が含まれるとしている。
アメリカは司法当局が通信遮断
効果的な「能動的サイバー防御」が行われたとされているのが、2021年半ばごろからアメリカの重要インフラ組織を対象に、悪意のある活動が見られた「Volt typhoon」の事例だ。中国政府と関係があるとされる攻撃者が、ネットワークへの侵入を繰り返していると指摘され、マイクロソフトは2023年5月、できるだけ長く検知されない形でスパイ活動が行われ、通信・公共事業・海事・教育など幅広い分野に影響が及ぶと警鐘を鳴らした。
こうしたなか、アメリカ司法省は、FBI(連邦捜査局)などとともに、裁判所に承認された作戦を実行し、2024年1月、乗っ取られていた数百台の小規模オフィスなどのルーターのボットネットを妨害し、マルウェアを削除してほかのデバイスとの通信を遮断するなどして、再感染防止の措置を講じたと発表した。
これに先立って、パイプラインを担う会社へのランサムウェア攻撃をめぐっても、当局の強力な対応があった。2021年5月、アメリカ東海岸で燃料供給を担う民間企業コロニアル・パイプライン社は、一部操業停止に追い込まれ、社会経済活動に大きな影響が出る事態となったが、FBIなどのタスクフォースは、わずか1週間ほどのうちにデータ送信先のサーバーをテイクダウンさせる一方、会社がビットコインで支払った身代金の8割以上を押収し、犯罪グループ「ダークサイド」の関係者が使うのを防いだ。
サイバー安全保障を欧米以上に
カナダでサイバー防御を担い、成果を上げてきたのが、CSE(カナダ安全保障機関)だ。CSEのチームは、2026年、医療や製薬などの分野で25件以上の事件を引き起こしたランサムウェア犯罪グループを稼働不能にし、ダークウェブで販売広告されていた大量の盗まれたデータを削除するのに成功したとする報告書を作成した。
国家安全保障戦略で「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」と謳ってから約4年。関連法の施行に至った「能動的サイバー防御」をどのように運用し、脅威の排除や被害の拡大防止に、国がどこまで踏み込んでいくのか。事態は新たな局面を迎えている。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

