フジテレビ報道局の調査報道プロジェクト「スポットライト」では、皆さんから寄せられた身近な困りごとや疑問にお答えします。今回は「膵臓がんの新薬の国内承認を求める署名」についてです。
【投稿】(抜粋)
「初めてご連絡させて頂きます。2025年7月に膵臓癌ステージ4の診断を受けた46才の夫ですが、辛い診断、辛い抗癌剤治療を乗り越えながら、懸命に前進しております。
大学二年生と中学三年生の息子達と家族で心をひとつにして、頑張っております。
闘病しながら、10月2日には、経営する飲食店の三店舗目を茅ヶ崎でオープンさせて頂く事となりました。
病と戦う方の励みとなる事が出来れば…と思っております。ぜひ取材して頂ければ幸いでございます。
先日、アメリカで承認されました膵臓癌の新薬、ダラクソンラシブの日本での早期承認に関しましても、多くの方にご周知頂き、ご署名が頂ければ、多くの膵臓癌患者さんの助けになると思います。
日本で輸入し、内服するには、ひと月分の内服薬代で、500万円以上にもなります。
今月から、夫は自費でダラクソンラシブを内服する予定です。
少しでも早く日本でもダラクソンラシブが承認されると良いのですが…
ぜひ取材のご検討を宜しくお願い致します」
末期の膵臓がんと診断されながら、新たな飲食店をオープンさせたという夫について、取り上げてほしいという投稿者。
また、8月にアメリカで承認された膵臓がんの画期的な薬について、日本での早期承認を求める内容の投稿でした。日本での早期承認は可能なのか、その声を受けて取材しました。
気が付いたらステージ4 膵臓がんとの闘い
神奈川県茅ケ崎市にある中華料理屋。ここで料理をふるまうのが、依頼主の夫・髙橋良仁さん46歳です。2025年7月に“膵臓がん”ステージ4と診断されました。
髙橋さんは、大学生と中学生の2人の息子と、妻の4人家族。飲食店を経営しながら、現在も膵臓がんと闘っています。

色々な抗がん剤を試したものの、効果の出ない日々が続く中、膵臓がんの患者が集まるという会で、とある情報を聞きつけたといいます。
「ダラクソンラシブという新薬が、8月にアメリカで承認された」
米国で承認「画期的な新薬」
“ダラクソンラシブ”は8月にアメリカで承認され、「画期的新薬」として注目されています。
これまで最も治療が難しいがんの一つとされてきた膵臓がんに対して、臨床試験で生存期間を2倍に引き延ばすという、驚きの成果を示したというのです。
どんな薬なのか、膵臓がん治療の経験を持つ、やまおか内科クリニックの山岡祥院長に聞きました。
――ダラクソンラシブとは何か?
がん細胞の増殖に関わるラスというタンパク質があるのですが、そのラスというタンパク質を抑えることで、がん細胞が増殖するシグナルを抑えて、がんの進行を抑制する、新しい抗がん剤になります。
――ラスを退治する薬は今までになかった?
ラス自体は、細胞が増殖する時のスイッチのような役割を果たしているもので、いろんながんの種類、膵臓がん以外でも、このラスというタンパク質に異常が起こって、細胞増殖がどんどん起こってしまう。
この薬以前にも一部のラスをターゲットにした抗がん剤はあったのですが、今回ダラクソンラシブという薬は、より広いタイプのラスをカバーできるということで、より効果を発揮すると言われています。
――具体的にはどのような効果?
生存期間が2倍に伸びたという今回の臨床試験は、特に一次治療、一番初めの抗がん剤治療の効果がなくなってしまった方が対象になっていますので、そういう方の残された時間が6カ月から約13カ月になるというのは、我々膵臓がんの診療に携わってきた身からすると、非常にびっくりする数字です。
――ダラクソンラシブが使えるようになる意義は?
やはり膵臓がんという病気が、転移が出てきてしまっている方においては、治療の選択肢が極めて限られる、かつ進行のスピードが非常に速いがんです。ですから、一次治療1回目の抗がん剤治療の効果がなくなってしまった方でも、さらに有効な治療がその後にあるというのは、患者さんやそのご家族にとっても、非常に意義のあることかと思います。
「早期承認を」闘病中の俳優も署名
日本での承認時期が見通せないことから、患者らは画期的な薬を特例で早期に承認する「条件付き早期承認」という制度を適用するようにと、オンラインで署名活動を行なっています。
ドラマ「問題物件」(2025年フジテレビ系)にも出演し、自身も膵臓がん患者である俳優の保田泰志さんは、8月にXで「膵臓癌の新たな治療薬ダラクソンラシブが米国で承認されました。希望の光と言われています。日本でも一刻も早く承認され多くの人に届きますように」と、署名に賛同したことを明かしました。
保田さんのメッセージもあってか、10月16日現在、4000人以上の署名が集まっています。
国内はいつ承認?厚労省「回答できない」
国内での承認の動きはどこまで進んでいるのか。
実はアメリカでの承認に向けた臨床試験は、世界と同時に進める「国際共同治験」が行われていて、国立がん研究センター有明病院など、日本の専門病院も参加していました。
また、日本での承認審査機関であるPMDAもオブザーバーとして参加するなど、情報共有をしているため、国内承認のハードルは低いと言われています。
さらに、ダラクソンラシブはアメリカでの承認に先立つ5月には、日本の厚労省から「希少疾病医薬品」に指定されていて、国から開発の補助金が出る上、承認審査が優先的に行われるということです。
国内承認の手続きはどこまで進んでいるのか、厚労省に聞くと「個別の申請状況については回答できない」 との説明でした。
個人輸入なら月500万円以上 のしかかる負担
投稿者の夫・髙橋さんは今月オープンした店に息子さん2人の名前の頭文字をつけたと言います。前向きに生きる姿で息子たちにまだまだ背中を見せていきたいという思いで、国内では未承認のこの薬を個人輸入で服用する予定です。
その費用は500万円以上。
一日も早く、新薬が承認され、保険適用になることを望んでいます。
【執筆:フジテレビ調査報道統括部 栗山みゆ】

