映画「犬神家の一族」の舞台となった長野県佐久市の老舗旅館。高齢化などの理由で売りに出されていたが、地元出身の女性が購入しリノベーションした。歴史と新しさを融合した宿として生まれ変わり、10月1日、再出発した。
名作「犬神家の一族」のロケ地
旧中山道・望月宿にある木造の建物。ここは「旧井出野屋旅館」、現在は「朔望(さくぼう)」という名前に変わっている。
この旅館の新しいオーナーになったのが、地元・佐久市望月出身の木次萌さん(30)。
朔望・木次萌さん:
「『築100年』『木造3階建て』、もう今では建築ができないような素晴らしい建物が手放されるということを知って、少し残念な気持ちがありました」
今も大正時代の面影を残すこの建物。
(記者リポート)
「実はここ、ある有名な映画の舞台になった場所なんです」
巨匠・市川崑監督がメガホンをとった映画「犬神家の一族」。
今から50年前(1976年)に、金田一耕助役・石坂浩二さんや女中役・坂口良子さんの登場シーンの舞台となった場所だ。
売りに出され…「存続したい」
建物は大正13(1924)年の建築で、当初は料亭だったが、戦後、旅館に改修。「犬神家」のロケが行われると全国から多くのファンが訪れるようになった。
しかし、前オーナーの高齢化などにより、営業の継続が困難に。建物は売りに出された。これに手を挙げたのが、木次さんだった。
木次萌さん:
「(建物が)これからどうなっていくんだろう、どんな人の手に渡って、どんなふうになってしまうんだろうというのを考えたときに不安な気持ちがあって」
木次さんは小学3年のころ(2006年)、新たに撮影された「犬神家」のロケ現場を訪れ、石坂浩二さんと記念撮影した経験も。
木次萌さん:
「石坂浩二さん、金田一さんが浅間山に向かって歩いていくシーンを撮る場所だった。(石坂さんは)すごく優しく一緒に写真を撮ってくれました」
高校卒業後、上京した木次さんは、帰省のたびに静かになっていく街に寂しさを感じていた。そこで旅館を活用し、人が訪れる拠点にしたいー。木次さんは、前のオーナーに手紙を書き思いを伝えた。
市川監督も魅了「階段」はそのまま
思いが伝わり、2023年に購入が決定。家族や友人の助けも借りながら、約2年かけて、改修を行った。
木次萌さん:
「もちろんプロに任せる部分もあったけど、自分たちで手をかけることで、この歴史を受け継ぐような感覚になった」
新しく生まれ変わった旅館。木次さんに案内してもらった。
木次萌さん:
「この階段が、市川崑監督がこれを見てここで撮ろうと決めた階段です。ここがアイコニック(象徴的)な場所であるので、八の字になっていて、そういった階段は珍しくて両側から上がれるというところに市川崑監督も引かれたと聞いているので、ここは絶対残さなくてはと思いました」
シンボルともいえる階段は今もそのまま。
「バランスを大事に」新旧を融合
リビングは―。
木次萌さん:
「吹き抜けをつくりました。ここはもともと2階に部屋があったんですけど、過ごしやすく、大人数が入っても苦しくないような天井の高い空間を目指して設計してもらいました」
メインリビングは「新旧の融合」を重視。建物を支える「梁」や当時の「土壁」はそのまま、モダンな雰囲気にした。
木次萌さん:
「どこまでやるかはすごく難しくて、古くさくて誰も来られない場所では困るし、新しくしすぎて、皆さんつまらないものになってしまうとか、そのバランスがすごく難しかった」
「映画そのまま」の“犬神部屋”
そして、階段を上ると―。
木次萌さん:
「お待ちかねの『犬神部屋』をご紹介したいと思います」
撮影に使われた部屋はできるだけ元の姿を維持したままで、作品の雰囲気にあった小道具も用意した。
木次萌さん:
「犬神家のファンの皆さんもいらっしゃったと思うので、そういった方たちもまたここに来て楽しめる。『結構変わってしまった』ではなくて、ここに来て、『映画の中そのままだ』と思ってもらえる場所になったらいいなと」
さらに、建物の外には―。
木次萌さん:
「ここはもともと土蔵だった場所を、今回サウナに改装しました」
手づくりのサウナは10トン以上の土を使い、壁や腰かけ、床などを厚さ30センチ以上に押し固めた。
「人が集まる起点に」
旅館には6つの寝室があり、宿泊は1日1組限定。最大21人が泊まれ、家族や団体、会社の研修などの宿泊を見込んでいる。
※予約は「朔望」HPより(1泊8万円~ 季節・人数により変動)
9月から、地域の人や知り合いに向け、旅館をプレオープン。
宿泊した客は―。
上田市から:
「映画を事前に見ていたので、ここが玄関かと、ここに横溝正史さんが迎えてくれた場所だと。下駄箱だとか、一つ一つテンションが上がる」
「地元の方に買っていただいて、こんなうれしいことはない」
部屋には「金田一耕助なりきりセット」も!
東京から:
「すごく楽しい、超楽しい、(利用者にも)絶対やってほしいですよね。(気分は?)気分はあがるね」
地元の活性化を願う人に受け継がれ、新たな旅館として生まれ変わった「朔望」。10月1日にオープンした。
朔望・木次萌さん:
「今、大勢で泊まれる宿だったりとか、家族全員が集まれる場所が減っていると思うので、そういった皆さんが集まって、ここを起点に望月の飲食店だったりとか、カフェやお店に足を運べるような場所になるといいなと」

