熊本地震の発生から2カ月。大きな被害を受けた九州新幹線が、僅か52日という短い期間で、全線での運転再開となった。前回の熊本地震を超える約1000カ所もの被害箇所を猛暑の中、どのように復旧させたのか?舞台裏を取材した。
震度7の揺れが再び熊本県内を襲ってから2カ月。シルバーウィーク直前の9月18日、九州新幹線、新水俣―熊本間の運転が再開された。

新幹線のホームには、この日を待ち侘びていた大勢の通勤・通学客で混雑し、口々に運転再開を喜んでいた。
「これまでバスと電車で2時間半ぐらいかけての通学だったけど、1時間弱にまで時間短縮できるので、凄く助かりますし有難い」(女子高校生)。

これにより九州の大動脈である九州新幹線が52日ぶりに博多から鹿児島中央まで全線で運転再開となり、震災からの復興が着実に進んでいることを印象づけた。
線路や橋梁の被害 約1000カ所
2016年に発生した『熊本地震』以降、熊本県内では震度7の激震は、今回で3度目だが、九州新 幹線にとっては前回を上回る甚大な被害だった。

『熊本』と『新水俣』間で確認された線路や橋などの被害は、約1000カ所にのぼるとJR九州の古宮洋二社長が記者会見で明らかにした。

「高架橋の周りで約600カ所。線路が沈下したり歪んだりなど線路周りで約300カ所。電力関係の設備が約100カ所。土木の構造物自体が、30~40cm、断層で動いたのは、これはもう、今までに見た記憶がない」。

実際に今回の復旧工事にあたったJR九州新幹線部工務課の松元巧さん(46)は、発災直後、「10年前の熊本地震のことがすぐ頭に浮かび、当時ぞっとしたのを覚えている」と話す。

そして、「まずは『脱線してるのかしていないか』というところが一番気になった」と振り返る。

今回の地震では、松元さんが心配した車両の脱線はなかったが、線路の被害が想像以上だった。

「新幹線の線路は、凄く綺麗に作られてる。直線なら綺麗に真っすぐだし、曲線なら綺麗なカーブをしている。

誰が見てもレールが歪んでいるのが分かるぐらい設備が被害を受けていたので、これは復旧には、相当時間が掛かるな」と覚悟したという。

また、トンネルや橋など鉄道の構造物を担当する土木部門の原田賢吾さん(46)は、熊本市在住だが、発災時は福岡市の本社にいたため、子供のことが真っ先に頭をよぎったと話す。「(熊本の新幹線)車両基地の近くの富合地区に住んでいるので、『子供は大丈夫か』と思った。子供がちょっと泣きそうな声で電話に出たので、無事を確認できて本当にその時は、心底良かった」と胸をなでおろしたという。

その後、確認が進むにつれて、新八代駅の周辺の状況が非常に厳しいことが分かったと原田さんは、当時を振り返る。

「橋の真ん中に断層が走っていたので、本当に橋全体が動いていた。どうやって直すかというのは、分からなかったというのが本当の気持ち」。

活断層の真上の『水無川橋梁』修復
新八代駅の南にある『水無川橋梁』。日奈久断層の真上にあり、4本の橋脚のうち3本が約40センチ動き、更に最大で36センチ沈むという前代未聞の事態が起きていた。

これをどうやって復旧させるのか?その検討には、かなりの日数が掛かったという。

「地震が発生してすぐ、鉄道総研という専門機関や協力会社、橋梁メーカーの方にも来てもらい、現地を見ながらどう復旧していくかを検討していった。やはり、皆さんが経験したことがないような被害だった。

桁が沈下していたので、それを上げるというところと、一部で橋桁が横方向にも動いていた。そのため『応力が溜まっている』という、橋の構造物の内部にちょっと力が溜まっているような状態だったので、そういったものを解放しながらジャッキを上げるという難易度が高い作業だった」と原田さんが復旧工事について説明する。

猛暑の中、驚異のスピード復旧
工事の難しさに加え復旧作業の妨げとなったのが、連日40度に迫るこの夏の猛烈な暑さだった。

「レールは鉄なので、熱くなるとどうしても伸びようとする。昼間の復旧作業は、軌道(レール)の関係で、なかなか手が付けられなかった。

あとは暑さ。左右も防音壁のコンクリートに囲まれているような構造物なので、作業員の健康も心配だったので、なかなか昼には手が出せない状況だった」ので復旧作業のほとんどを夜間に集中させたと話す松元さん。

しかし、夜でも気温は期待したほどには下がらず、過酷な作業が続いたという。

「レールとレールを繋ぐ溶接部の溶剤、ゴールドサミット(溶接)というが、溶剤を熱して溶かしてレールの形を作る。高温で熱いのは、もう間違いない」と過酷な作業状況を改めて口にした。
地震からの復旧を後押しするためにも9月のシルバーウィーク前には全線再開を!

10年前の熊本地震では、新幹線の車両が熊本駅の南で脱線したが、橋などの施設には、それほど大きな被害がなかったこともあり、地震から13日後には全線復旧した。

しかし、今回は、『九州新幹線の歴史の中で、最も過酷』と言われる状況を乗り越え、発災からわずか52日で全線再開に漕ぎつけたことは、驚異のスピード復旧と言っても過言ではない。

運転再開日の始発列車が走る時間は、指令所に詰めていたというJR九州新幹線部工務課の松元巧さん。「何も問題がなければ、普通に走るのだが。『なんとか普通に走ってくれ』『無事に走ってくれ』と祈るような思いだった」と話す。

また、同僚の原田賢吾さんも運転再開を喜ぶと同時に“本復旧”に向けて気を引き締める。「今回一部徐行による運転再開はできたが、これから本復旧というところ。通常通り今までのスピードでの九州新幹線を取り戻すように、しっかりと仕事をしていきたい」。

新幹線は通常200キロを超えるスピードで走るところ、新八代駅の前後では、70キロで徐行運転をしているので、地震前のダイヤには完全には戻っていない。

JR九州によると、まだ橋桁を応急的に仮の柱で支えていたり、線路の形も仮の状態だという。徐行を解除するには、こうした仮の部分を本来の形に戻していく必要があるが、新幹線は朝から夜まで営業運転で走っているため、慎重な作業が必要で、本復旧までにはまだ時間が掛かる見通しという。

熊本地震から2カ月。九州の大動脈である九州新幹線が、全線開通したことで、今後の被災地復旧や復興も更に加速していくことが期待されている。
(テレビ西日本)

