京都の酒処である伏見で生まれた筆者は、お祝いの席で日本酒を楽しむ家庭で育った。初めて日本酒を飲んだときは、のどが焼けるように熱くなった印象を覚えている。
現在私はイギリス・ロンドンに赴任中だが、レストランやバーでは「Junmai Daiginjo(純米大吟醸)」「Junmai(純米)」という単語をよく目にする。
ビールやウイスキー、ワインが主に親しまれているイギリスでも、日本酒が広い世代に浸透しつつある。日本食以外の料理とのペアリングも研究され、なかには四合瓶1本14万円の高級品まで提供されているのだ。
日本と海外の両面から見た「日本酒の現在地」を探るべく、ロンドンで日本酒を提供する2人のソムリエを訪ねた。
広い世代に浸透「Junmai Daiginjo」「Junmai」
2025年の日本産酒類の全世界への輸出額は過去最高の1495億円を記録し、ロンドンで開かれた世界最大規模のワイン審査会IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門は今年20周年を迎えた。
日本酒はイギリスをはじめとするヨーロッパ市場で存在感を高めている。
はじめに訪ねた織田楽(おだ・らく)さんは、20年間ソムリエとして活躍し、ロンドンのミシュラン3つ星レストランでも日本酒を提供してきた実績の持ち主だ。
現在は、ロンドンでワインバーのオーナーとして、現地の人々に日本酒の魅力を知ってもらおうと、日本酒メニューも取り入れている。
織田さんは、日本酒はワインと同じカテゴリーに位置づけられつつあるものの、普及の初期段階であると話す。
日本酒が認知される前は、アルコール度数の高い焼酎と勘違いされることもあった。
近年はフルーティーで香り豊かな、比較的飲みやすい日本酒が増え、料理と一緒に楽しまれているという。
特に若い世代からの注文が増えているほか、「Junmai Daiginjo」や「Junmai」といった種類を指定して注文する客も見られるようになった。ワインのように銘柄が指定されることは少ないものの、「日本酒」そのものへの認知は少しずつ広がっているようだ。
日本酒は「香り豊かな水のよう」
次に、イタリア出身のフェデリコ・クインタバッレさんのもとを訪れた。
フェデリコさんは、ミシュラン2つ星レストランでヘッドソムリエを務め、日本食以外の料理との日本酒ペアリングを取り入れた人物である。
主に、「ジョロフライス」などアフリカの食文化に着想を得たスパイス主体の創作料理と一緒に提供されている。
また、ロンドンにおける日本酒の認知について、ゆっくりではあるものの、確実に広がっていると語る。
日本酒とワインの違いについては、日本酒は「口当たりが柔らかくてさっぱりしており、とても香り豊かな水を飲んでいるような感覚だ」と話す。
また、日本酒特有の“Umami(うまみ)”こそが日本酒の魅力だという。
フェデリコさんが日本酒に魅了されたきっかけは、同僚のソムリエから勧められたことだった。今では、気がつけばボトルの半分を飲んでしまうこともあると笑顔で語った。
日本酒の人気が高まる一方で、市場拡大は簡単ではないと指摘する。
背景には、世界中で生産されるワインと比べ、日本酒の生産の大半が日本に限られていることに加え、酒類市場そのものが飽和状態にあることを挙げている。

