理不尽な要求を突きつける「カスタマーハラスメント」。
国は10月1日から企業などに対し対策を義務付ける。
大阪市はカスハラを繰り返し業務を妨害したとして、市民を相手取り損害賠償訴訟に踏み切る方針を固めた。
職員を守るために「ビジネスネーム」を導入した自治体や、怒声をリアルタイムで穏やかな声に変換するAIアプリも登場している。
どこからがカスハラになるのか、その線引きは…
カスハラの現場と最前線の対策を徹底取材した。
■大阪市が異例の提訴方針 3年間で641回の対応
大阪市は、カスハラを繰り返し業務を妨害したとして、市内に住む男性に対し損害賠償を求めて訴えを起こす方針を明らかにした。
大阪市 横山英幸市長:一線を越えたような対応については、毅然と『できません』という姿勢を示していかないといけない。
大阪市によると、職員が3年前からこの男性に電話と対面で対応した回数は、合わせて641回に上る。
その際、職員は「仕事を辞めてしまえ」「くそったれ」といった罵詈雑言を繰り返し浴びせられていた。
なぜここまで対応を続けたのか。その背景にあるのが、「どこからがカスハラなのか」という判断の難しさだ。市長も「それぞれ個別事案に応じて対応は考えていきたい」と述べるにとどめており、一律の線引きがいかに困難かをうかがわせる。

■10月から義務化 企業が直面する“線引き”の壁
カスハラをめぐっては、10月1日から大きな変化が訪れる。企業などに対してカスハラ対策が義務付けられるのだ。
しかし、当の企業側は準備に追われながらも、対応に苦慮しているのが実情だ。
企業の人事・労務担当者を対象にしたカスハラ対策セミナーに参加した受講者からは、こんな声が漏れる。
参加者:カスハラの明確な線引きというのが、イマイチ分かっていない。
参加者:現場のマニュアルを作成しても、現場の方の実際の対応をどういうふうにくみ取ってあげたらいいかと、その後の対応が未着手。
国の指針では、カスハラを次の3つすべてを満たすものと定義している。
・客などからの言動であること
・社会通念上許容される範囲を超えること
・働く人の就業環境が害されること
しかし、定義があっても線引きは容易ではない。
特定社会保険労務士 石川瞳さん:すぐに断定するのは難しい。カスハラというのは会社の外から会社に向けての攻撃というふうな認識になりますので、該当するかどうか客観的に、会社が組織として判断しないといけない。

■自治体と企業が進める最前線の対策
カスハラの判別が難しい中、現場では着実に対策が積み重ねられている。
関西テレビ「newsランナー」の取材チームが訪れた寝屋川市役所では、去年4月から「ビジネスネーム」の使用を導入した。職員が本名ではなく別の名前で市民対応できる仕組みだ。
寝屋川市人事室 上之園武訓室長:本来の名札なら本名を使うが、例えば市民の対応するときは“ねやがわ”という名前を使いたいとか、そういった場合にビジネスネームを活用している。
過去には窓口の職員が名前から個人を特定され、SNSで直接連絡を受けるという事態が発生していた。こうした経緯から、職員のプライバシー保護と市民対応の両立を図る取り組みとして導入された。

■AIが怒声を“穏やかな声”に変換 驚きの最新技術
さらに注目を集めているのが、AIを活用したカスハラ対策だ。
ソフトバンクがことし2月にリリースしたアプリ「SoftVoice」は、電話口での怒声をリアルタイムで穏やかな声に変換するというものだ。
ソフトバンク・AI事業開発室 中谷敏之担当部長:コールセンターのカスハラ対策として始めた。怒っている声をAIを使って怖くない声に変える。
取材記者が実際に体験したのは「冷蔵庫が壊れて修理を依頼される」というシチュエーションだ。別室からクレーマー役のスタッフが電話をかけてくる。

■内容はそのままで抑揚が抑えられたAIで
「修理の訪問が最短でも2日後になる」と伝えた途端、相手はヒートアップした。通常の状態では「はあ?あさって?」という怒声が耳に刺さるように届く。
そこでAI変換を選択すると、同じ言葉を発しているにもかかわらず、少し抑揚が抑えられた聞きやすい声に変わった。
さらに相手が「最初から責任者だせや」と怒鳴り声を上げると、変換後は語気が和らいだ状態で届き、その差は歴然だった。
声は男女数種類から選ぶことができる。ソフトバンクの実験では、このアプリによって「怒り」の感じ方が3割以上軽減されたという。すでに銀行などで電話対応に導入されている。
ソフトバンク・AI事業開発室 中谷敏之担当部長:内容はしっかり聞くのがコールセンターの本分。そこに関しては一言一句そのままにしている。怖くない声に変えることで、心理的負担を軽減する。

■「業務妨害レベルかどうか」が判断の一基準 弁護士が提唱
スタジオでは菊地幸夫弁護士が、カスハラの線引きについて実務的な視点から解説した。定義はあるものの「社会通念上」といった表現は分かりにくいとして、より具体的な判断基準について解説した。
菊地幸夫弁護士:“業務を妨害するようなレベル”になっているかどうかというのが、1つの判断基準。これ以下ならお客さまとして(対応する)、こうなってきたらもうお客さまではない、カスタマーハラスメントとして法的に対応する、こんな基準はどうか。
具体的には、クレームの期間が非常に長い、回数が非常に多い、言葉が非常にきつく大声であるといった要素が、受ける側のメンタルを深刻に傷つけると指摘する。
暴力は分かりやすい基準である一方、そうでない場合の判断は難しく、「業務妨害のレベルに達しているか」を組織として客観的に見極めることが重要だとしている。
働く人が安心して耳を傾けられる環境づくりが、いま強く求められている。
(関西テレビ「newsランナー」2026年9月17日放送)


