夫に欠けている「あること」

コロナ禍で夫婦が家で過ごす時間が増え、必然的に家事の量が増え、我が家では家事がらみの喧嘩が頻発しましたが、ライフコーチの私のところにもこれまで以上に「喧嘩が増えた」という夫婦仲に関する相談事が増えました。夫は家にいるのに「家事育児を手伝ってくれない」「どんなに手伝っても妻は満足してくれない」。みなさんのご家庭はいかがでしょうか?

私はアメリカ人と結婚しワシントンDCに住んでいますが、アメリカ人男性の家事育児分担率は37.1%で日本人男性の18.3%より高い(※注1)とはいえ、数字では説明のつかない何かが私をイラつかせるのです。コロナ禍で増えた家事を夫もそれなりに分担してくれるのですが、なんだか私ばかりがやっている感が拭えません。

(※注1:家事育児分担率参考資料https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php)

楽しそうに夕食作りを手伝ってくれる夫(右)だが・・・
楽しそうに夕食作りを手伝ってくれる夫(右)だが・・・
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そしてまた「なんでもっと手伝ってくれないの!」と爆発したある日、はたと不満の原因に気がついたのです。それはここ数年アメリカで言われている「エモーショナル・レイバー」です。

実際の家事育児分担率や労働時間のように数値化されない目に見えない家事育児作業が、私の不満と夫の理解不能の原因だったのです。

時々喧嘩をするとはいえ家事にも協力的な夫と娘
時々喧嘩をするとはいえ家事にも協力的な夫と娘

エモーショナル・レイバー(感情労働)とは

「エモーショナル・レイバー」とは1983年にカリフォルニア州立大学バークレー校のアーリー・ラッセル・ホッチチャイルド教授(Arlie Russell Hochschild)が定義した概念です。辛い時に辛い顔ができなかったり、笑いたくもないのに笑顔でいる、など職場でスムーズに仕事をするために自分の感情を抑える目に見えない感情労働を意味します。

ですが、ここ最近は全く違った意味で使われることがあり、家庭生活を円滑に運営するための目に見えない労働を意味することが多いです。エモーショナル・レイバーはいわば家事育児の実際の作業に付随する見えない「ついでの作業」とも言えるかと思います。

例えば「夕飯の準備」で夫が想像するのは「とりあえず何かを食卓にのせる」という目に見える実際の作業でしょう。妻はメニューの工夫や栄養のバランス、好き嫌いへの対応、食材の確認、作業時間の捻出、残り物の再利用、調味料の準備、後片付けなど、実際の作業を円滑に進めるための「ついでの作業」を考えます。その上で実際に「何かを食卓にのせる」のです。

メニュー、栄養バランス、買い出しリストという「ついでの作業」をするのは夫。買い出しに行く「実際の作業」は私
メニュー、栄養バランス、買い出しリストという「ついでの作業」をするのは夫。買い出しに行く「実際の作業」は私

長年娘として母・妻が家庭運営を円滑に図るお手本を見てきた女性は、家庭内の「ついでの作業」を一手に引き受けがちです。頭と心で行われるからいちいち説明するより自分でやったほうが早いからです。でもコロナ禍で在宅ワークやオンライン授業が増え、圧倒的に家事育児の量が増えた妻にとっては「ついでの作業」も増えます。

それなのに夫は「ついでの作業」には気づかず、十分手伝っているような顔をする。やってるつもりの夫はどうして妻が文句を言うのか納得できない。そうして喧嘩になります。

夫を「ついで夫」にする

喧嘩の原因が「ついでの作業」にあることに気がついた私は夫婦で「あること」をしました。私のところに相談に来る方々にも「あること」の実践を提案しています。そうしたらやっぱり我が家と同じように「喧嘩が減りました!」「夫婦の距離が縮まりました」という報告が来るようになったのです。

その「あること」とは、夫を「ついで夫」にすることです。実際の作業の裏にある「ついでの作業」も分担することで妻の精神的な家事育児作業を減らす。これが家事が増える在宅ワーク時代のサステナブルな夫婦の秘訣です。

では実際にどうするか?「ついでの作業」の見える化です。

「ついでの作業」の可視化

ステップ1:

妻はこれまで頭と心の中で行ってきた「ついでの作業」を家事育児全ての項目に関して書き出します。醤油はまだあったかな、子どもの冬服は間に合うかな、トイレットペーパーはどこで買うのがいいかな、先生への連絡事項には何を書こう、義実家へのお歳暮は何を送ろうか、など、実際の作業以前の「ついでの作業」を全て書き出します。

ステップ2:

妻は1つ1つ夫に説明します。夕飯の準備ならメニューを考えるところから始まり実際に食卓にのせるまで、やる順番から内容まで何度も優しく教えてあげましょう。

ステップ3:

「ついでの作業」を分担します。そうして夫は立派な「ついで夫」となり妻をサポートしサステナブルな関係を築きます。

イベントに行く際、会場まで車を運転するという「実際の作業」は夫。計画してドレスコードをチェックして準備する「ついでの作業」は私
イベントに行く際、会場まで車を運転するという「実際の作業」は夫。計画してドレスコードをチェックして準備する「ついでの作業」は私

「ついでの作業」の分担がこれからのサステナブルな夫婦の秘訣です。

【執筆:ICF会員 ライフコーチ ボーク重子】

新刊:子育て後に「何もない私」にならない30のルール

ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。