仙台放送では今週、巨額の復興予算の使い道を検証するシリーズ企画、『復興検証42兆円のゆくえ』をお伝えしています。最終回の9月4日は災害が起きる前から、被災後の街づくりを考える、「事前復興」についてです。
8月、宮城県石巻市北上地区を愛媛県の高校生が訪れました。東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城で、『災害への備え』を学ぶためです。
ウィーアーワン北上 佐藤尚美さん
「皆さん『復興』と一言で言われても、実際、復興っていつ、誰が何をどうやって決めているのかって意外と分からないというところで、私たちは復興のプロセスを中心に伝承活動をしています」
石巻市出身の佐藤尚美さんは震災からおよそ1年後、復興まちづくり活動を行う団体を立ち上げ、高台移転の際の住民の合意形成などに取り組みました。
今、佐藤さんの元には全国から講演の依頼が届きます。
伝えるのは「常日頃から災害に備えること」。
『事前復興計画』の重要性です。
ウィーアーワン北上 佐藤尚美さん
「やはり大きな災害があってからだと、全てが人命最優先で進みます。私たち自身もそうだった。そうなる前に、平時にもっと未来を見据えた計画作りが本来できるはずだなというところで、私は『事前復興計画』、すごく良い制度と思っている」
『事前復興計画』とは災害が起きた後に街づくり計画を立て、復興事業に着手するのではなく、災害が起きる前に、どこにどのような街を造るのか、住民と行政があらかじめ考えておくもので、1995年の「阪神・淡路大震災」をきっかけに生まれました。
策定は義務ではありませんが、被害の最小化だけではなく、迅速な復興や予算削減などにつながると考えられています。
『事前復興計画』の重要性が、いま再認識されています。
近い将来、高い確率で起きるとされる「南海トラフ巨大地震」。
国の被害想定によりますと、神奈川県から鹿児島県にかけて、震度6弱以上の激しい揺れや、最大34メートルの大津波が発生。
最悪のケースでは死者が29万8000人。
経済的な被害・影響額は292兆2000億円に上り、かつて経験したことのない規模の災害になる見込みです。
こうした中、国はガイドラインをつくり、『事前復興計画』の策定を全国の自治体に促しています。
しかし、すでに策定しているのは「32」の自治体のみ。割合にすると「2パーセント」に留まっています。(国交省:2026年1月末時点)
村井知事は、これまで最前線で復旧・復興のかじ取り役を担ってきた経験を振り返り、『事前復興計画』の重要性を痛感していると話します。
宮城県 村井知事
「防潮堤を最初は皆さん『ぜひ造ってくれ』と。ところが造り始めたら『いやいや、俺は海が見たいんだ』と一人一人色々な意見が出てきた。結局災害が起こった時に、県民、住民の皆さんに一人一人確認する時間が無かった」
宮城では次の災害の発生も懸念されています。
利府町周辺から仙台市を通り村田町までおよそ40キロにわたる「長町ー利府線断層帯」。
県がまとめた「第五次地震被害想定調査」では、宮城県内で最大震度7を観測し、死者数は最大で1100人。このうち、火災による死者は930人など甚大な被害が出ると予測されています。
しかし、宮城県内でも『事前復興計画』の策定は進んでいません。
仙台放送が宮城県内の全ての市町村に確認したところ、唯一、亘理町が「地域防災計画」を『事前復興計画』として位置づけているだけで、ほかに策定している自治体はありませんでした。
「専門知識を持つ職員の不足」という理由や、「策定するかの議論もしていない」との答えもありました。
策定の難しさは村井知事も感じています。
宮城県 村井知事
「地震ひとつとっても揺れ方や断層によって、同じ震度5や6でも全く変わってくる。大雨だって雨の降る場所によって変わってくるわけですよね。なかなか画一的に作るというのは非常に難しい。ケース・バイ・ケースです。その時に国がどういう支援をしてくれるかという保証も無いですから」
未曾有の災害となった、東日本大震災。
東京電力福島第1原発事故からの復旧・復興も合わせ、巨額の国費が投じられ、15年間で、その額は「42兆円」にも上りました。
割合ではインフラ整備を中心とした「住宅再建」と「復興まちづくり」が最も多く、およそ13兆6485億円が投じられました。
もし、東日本大震災の前に『事前復興計画』が策定できていれば…。村井知事はこう話します。
宮城県 村井知事
「復興予算の半分以下でできたんじゃないでしょうか。半分以下でできたかもしれません。今世紀最大の災害と言っても過言ではないと思う。正解はどこにもなかった。その中でがむしゃらに走ってここまで来たが、反省すべきところはしっかり反省する。税金の使い道を今度、同じような災害があった時に、少しでも低く抑えて復興できるようにする。何が良くて何が悪かったのか、しっかり分析をしていく。そして次に備える。これは大切です」
津波で267人が犠牲になった石巻市北上地区。被災した宅地の跡にあるのが「平地の杜」です。
「暮らすことができなくなった跡地をまた訪れたくなるような美しい場所にしたい」
まちづくり活動を続けてきた佐藤さんが『復興の終わり』としてたどり着いたのが、「杜づくり」でした。
佐藤さんは津波で夫を亡くしました。被災者でありながら、『復興の意味』を問い続けた佐藤さんが、将来を担う高校生に、伝えます。
ウィーアーワン北上 佐藤尚美さん
「私たちは自分たち世代のことばかり考えて決めたから、自分たちが暮らしたい場所に限界集落を10個作ったんです。他に選択肢があったんじゃないか。私たちはもう少し10年後、20年後、ここで暮らす人たちを思ってあの時、選択すべきだったというのをすごく思っている。だから皆さんがこれから決めること全ては少し未来の人のことを思って、想像して今決める、そういうことなんだってことを考えてほしい。それはきちんと見極めるというのは平時だからこそ必要なもの」
愛媛県の高校生
「私たちの地域は南海トラフ地震が起こることになっているから、教えていただいた経験を生かして考えていくことが必要だと思いました」
ウィーアーワン北上 佐藤尚美さん
「今はピンと来なくても一度でも考えたことがあるかどうか大きいと思って、何かあったときに開く引き出しを持っているというか、それが大事かなと思っています」
『42兆円』という巨額の予算を元に、創り上げられた『復興の完成図』は、果たして正しかったのか…。
震災から15年以上が経った今の被災地から浮かび上がる課題を、次の大災害の備えにつなげる必要があります。
