プレスリリース配信元:国立大学法人千葉大学
千葉大学大学院融合理工学府博士前期課程の三上修作氏、同大大学院工学研究院の宮本克彦教授、東北大学大学院理学研究科の大野 誠吾助教、バルセロナ自治大学のAdam Valles助教らの国際研究グループは、テラヘルツ(THz)波(注1)において、物体の縁に現れる「影(シャドウ効果)」を利用して光の位相(注2)情報を可視化する新たなイメージング技術を開発しました。光の位相情報は、物質の厚さや屈折率の違いを反映する重要な情報ですが、これまでTHz波の位相計測には干渉計やテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)などの複雑な装置や計測手法が必要でした。研究グループは今回、スパイラル位相フィルタリングによって生じるシャドウ効果(注3)をテラヘルツ領域で初めて活用し、強度画像のみから位相情報を再構成できることを実証しました。
本成果は、THz波を用いた非破壊検査や材料分析、生体計測において、「強度」に加えて「位相」の情報を利用する新たな計測・イメージング技術への発展につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年9月2日にOptics Expressに掲載されました。
(論文はこちら:10.1364/OE.610381)

図:シャドウ効果画像から位相画像への再構成
■研究の背景
近年、THz波は、非破壊検査や材料分析、医療・バイオ計測などへの応用が期待されています。THz波は多くの材料を透過する性質を持つため、対象物を壊さずに内部構造や状態を調べることができる有望な計測手段として注目されています。物質の状態を詳しく調べるためには、光の「強度」だけでなく「位相」の情報も重要です。位相を利用すると、物質の厚さや屈折率のわずかな違いを検出できるため、強度画像だけでは見えない情報を可視化できる可能性があります。一方で、THz波の位相情報を取得するためには、従来はTHz-TDSや干渉計を用いた複雑な計測系が必要でした。そのため、単色のTHz波を用いて簡便に位相情報を取得する手法の開発が求められていました。そこで研究グループは、物体の輪郭付近に特徴的な明暗パターンが現れる「シャドウ効果」に着目し、その位相に敏感な性質を利用した新しいテラヘルツイメージング技術の研究に取り組みました。
■研究成果のポイント
本研究の最大の特徴は、「影」の情報だけから光の位相を読み取れる点にあります。スパイラル位相フィルタリングによって生じる「シャドウ効果」を利用し、THz波の位相情報を強度画像だけから再構成する新たなイメージング手法を実証しました。シャドウ効果は可視光領域では知られていましたが、その位相に敏感な性質をテラヘルツ領域で活用した例はこれまでありませんでした。研究グループは、単色性の高い周波数可変テラヘルツ光源と単一画素イメージング技術を組み合わせることで、干渉計を用いずに位相情報を取得できることを示しました。さらに、光渦の向きによる明暗パターンの反転や、スパイラル位相板の回転に応じた位相分布の変化を観測し、強度画像から空間位相分布を再構成できることを実験的に確認しました。これにより、本手法がTHz波の位相情報を利用した新しい計測・イメージング技術として有効であることを示しました。
■今後の展望(研究者コメント)
近年普及が進む単色テラヘルツ光源では、通常は強度情報しか取得できません。本研究は、そのような光源においても位相情報を取得できる可能性を示したものです。
THz波の大きな特徴である位相情報を、より簡便なシステムで活用できるようになれば、テラヘルツ計測技術の普及を大きく後押しできると期待しています。今後は非破壊検査や材料分析、生体計測などへの応用を進めていきます。
■用語解説
注1)テラヘルツ(THz)波:電波と光(赤外線)の中間に位置する電磁波。物質を透過する性質や物質ごとに異なる応答を示す性質を持ち、非破壊検査や材料分析、次世代無線通信、医療・バイオ計測などへの応用が期待されている。特に、THz波を用いて物体の内部や表面の情報を画像として取得する「テラヘルツイメージング」は、X線などとは異なる特徴を持つ非破壊計測技術として注目されている。このTHz波を物質に当てて、波の形が時間とともにどう変化したかを測定する手法を「テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)」と呼ぶ。
注2)位相:光の波が空間の中で「どの位置まで振動しているか」を表す情報。光の強度が光の明るさに相当するのに対し、位相は波の進み具合や遅れを表す。物質を通過すると位相が変化するため、その変化を測定することで、物質の厚さや屈折率など、強度だけでは得ることが難しい情報を調べることができる。
注3)シャドウ効果:光を4f光学系と呼ばれる光学配置に通すことで生じる、物体の輪郭付近に特徴的な「影」のような強度分布が現れる現象。4f光学系では、レンズによるフーリエ変換作用によって光の空間的な情報が変換され、入射した光の初期位相に応じて、輪郭強調の現れる方向や影の分布が変化する。本研究では、この性質に着目することで、THz波の初期位相に関する情報を影の形として可視化した。
■論文情報
タイトル:Terahertz phase-sensitive imaging via spiral-phase filtering and single-pixel detection
著者:Shusaku Mikami, Yusuke Odagiri, Wataru Senzaki, Adam Valles, Seigo Ohno, Katsuhiko Miyamoto
雑誌名:Optics Express
DOI:10.1364/OE.610381
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23K23248,JP24KK0108,JP22K18979,JP23K04567)
・JST FOREST Program JPMJFR2036 など
企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ
データ提供 PR TIMES
本記事の内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES (release_fujitv@prtimes.co.jp)までご連絡ください。また、製品・サービスなどに関するお問い合わせに関しましては、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。
