「マルショウ小西鮮魚店」は、函館を拠点に鮮魚の卸売りや飲食店への発送を手がける仲卸業者です。代表取締役の小西一人さんは、デザイナーとしての経験を生かし、魚の目利きや処理技術、品質管理に加え、魚に込められた価値を届ける取り組みを進めています。家業を継いだ経緯やブランドづくり、魚を通じた函館の観光振興について、小西さんに聞きました。
デザイナーから魚屋へ。家業を継いだきっかけ
――子どもの頃から魚屋を継ぐつもりだったのですか?
「まったく考えていませんでした。父が魚屋をやっていましたが、姉はたまに手伝っていたものの、僕は一切手伝わずに遊んでばかりいました。自分の好きなことをして過ごしていた、いわゆるドラ息子でした」
――その後はどのような道に進んだのでしょうか?
「勉強が嫌だったので、絵やものづくりが好きなことからデザインの分野に進み、そのままデザイナーとして社会に出ました」
――魚屋の仕事に戻ったきっかけは何だったのですか?
「父から電話があり、雑談の中で『お前の友達で魚屋をやるやつはいないか』と言われました。忙しくなっていたものの人が足りず、これ以上お客さんを増やせないという話でした。父は『あと5年もしたら辞めるから、お客さんを減らしていくか』とも言っていました。伸びているのにお客さんを断るのはもったいないと思いました。当時はデザインの役割も、ものを格好よくするだけでなく、マーケティングや経営を支えるものへと変わっていました。魚屋も経営です。そう考えて、魚屋をやってみようと思いました。ただ、戻ってからは父に『魚屋をやるなら最初からやれ』『大学なんか行かせなかった』と言われました。まずは自分の道を見つけて、父に認めてもらわないといけないと思いました」
鮭の魅力を伝える「龍銀」のブランディング
――最初に取り組んだのが鮭のブランディングだったのですね?
「大学時代、父が送ってくれた鮭を食べて、あまりにもおいしいことに驚きました。一般的な魚でも、これだけ品質が違うのかと思ったのです。父に、どうやって目利きや選別をしているのかお客さんは知っているのかと聞くと、『こんなのは当たり前だ。これをやるのが俺の仕事だ』と言いました。でも、それは当たり前ではないと思いました。父がどのように魚を選び、なぜおいしいのかをストーリーにして、ブランドとして伝えようと考えました。鮭が龍の鱗のように青く光り、銀色に輝いていたので、『龍銀(りゅうぎん)』と名付けました。選別の方法や父の目利き、なぜおいしいのかをタグに記し、魚そのものだけでなく、背景にある情報も一緒に届けようとしたのです」
――販売面でも成果があったのでしょうか?
「DEAN & DELUCAの秋のフェアに選ばれ、『龍銀を使わせてください』と言っていただきました。実際にフェアを行ったところ、『すべてのフェアの中で一番売り上げがよかった』と担当者から伝えられました。ただ、それでも父には『デザインをやっている意味がない』『大学に行かせた意味がない』とずっと言われていました。僕としては、デザインの経験には意味があると思っていました」
発信と技術で北海道の魚を遠くへ
――代表交代はどのように決まったのですか?
「入社した時、父が『あと5年で辞める』と言っていたので、その5年で代表交代するのだと思っていました。ところが5年後に聞くと、父は『俺もあと5年だな』と言いました。そこで『もう交代してもいいのではないか』と聞いたら、『じゃあするか』となりました。2017年に父が会長になり、僕が社長になりました」
――社長になってから力を入れたことは何ですか?
「FacebookやInstagramで、北海道の魚を扱っていることを発信しました。すると、東京や大阪の魚屋さんから『魚を送ってもらえないか』と連絡が来るようになりました。遠方の魚屋さんは、良い魚が市場に入ってこなくて困っていたのです。魚屋さんからの注文が10キロ、20キロと増え、『今日はこういう魚が良い』『これは安い』といった情報もタイムリーに共有できるようになりました。そこから売り上げが大きく増えました」
――魚を良い状態で届けるための技術にも取り組んでいますね?
「魚のポテンシャルを引き出すことが、僕たちの仕事だと思っています。神経締めを行い、酸素の含有率を高くした水槽も導入しました。活魚を一日、二日ほど水槽で過ごさせ、元気でリラックスした状態にしてから神経締めをします。魚の中のエネルギー成分を保ったまま保存できるので、送った後に24時間から48時間かけてイノシン酸などのうまみに変わっていきます。時間が経つほどおいしくなり、長く持つ魚になるので、飲食店さんにも喜ばれています」
魚を通じて函館の観光を盛り上げる
――飲食店の事業承継にも取り組んでいます
「創業40年ほどの人気店でしたが、人手不足で、70人ほど入る店舗を続けることが難しくなっていました。そこで僕が引き継ぎました。魚屋としての仕入れ力を生かし、良いものを安く提供できたことで、今では予約が取りにくい店になっています」
――父から受け継いだ経営の軸はありますか?
「父に仕事の目的を聞いた時、『うまいもんを食わせたい。それだけだ』と言いました。僕は売り上げを上げることを目標にしていましたが、父が求めていたのは良いもの、うまいものを届けることでした。父が亡くなってから、その違いに気づきました」
――社員と向き合ううえで、大切にしていることは何ですか?
「社員が大事な時間を会社に使ってくれていることへの感謝を忘れないようにしています。僕が楽しく魚屋をやっていたように、社員にも楽しく豊かに働いてほしいと思っています。仕事を通して成長できたり、面白いと思えたりする環境をつくることが、ボスとして大事な仕事だと思っています」
――これから、函館と魚の未来をどのように描いていますか?
「函館は観光資源が多い街です。観光と魚を組み合わせることで、魚の価値を高め、喜ぶお客さんを増やせると思っています。今は一棟の宿泊事業を始めていますが、来年は船着き場のある宿をもう一棟建てる予定です。船を出して定置網を仕掛け、朝食の魚を取りに行くような体験も考えています。魚は食べるだけではなく、体験としての価値もあります。魚全体を使ったエンターテインメントのような取り組みを通して、一匹の魚で喜ばせられる人の数を増やしていきたいと思っています」
北海道の活性化を目指すボス達と北海道の未来と経営を楽しく真剣に語り合うUHB「#BOSSTALK」(ボストーク)。廣岡俊光キャスターがBOSSの本音に迫ります。
