電気代の高騰や飼料価格の値上がり、後継者不足など、全国の酪農家を取り巻く環境は年々厳しさを増している。特に沖縄県では、輸入飼料や各種資材の海上輸送費がダイレクトに重くのしかかる。

1985年には212件あった県内の酪農家は、経営悪化や後継者不足により2024年には55件にまで激減した。そんな逆境の中、沖縄県八重瀬町にある「平仲牧場」では、毎日約80頭の牛からおよそ2トンの牛乳を生産し、県産牛乳の“ともしび”を守り続けている。
40年の積み重ねと跳ね上がる生産費

平仲牧場はわずか4頭の牛からスタートし、40年の歳月をかけて少しずつ規模を拡大してきた。
現在は創業者である平仲正彦さんと、経営を引き継いだ娘の田場未知代さんを中心に、家族総出で毎日の作業にあたっている。
正彦さんは「酪農をずっと40年ぐらい続けていますけどね。厳しいけどまだまだ頑張ればできると思うんです」と語り、長年培ってきた知見と粘り強さで日々の仕事に向き合う。

しかし、経営環境はかつてない厳しい局面を迎えている。
近年の国際情勢や円安の影響を受け、県内に流通する乳牛用飼料の価格は令和2年の1トンあたり6万円台から、令和7年には9万円超にまで跳ね上がった。光熱費も2倍近くに高騰している。未知代さんは離島ならではのコスト構造の難しさを明かす。
「餌とか草など、食べさせるものの9割ぐらいが船で渡ってくるので、ダイレクトに生産費が上がります。もちろん電気、機械に使う燃料も水道も上がりますから、生産費は確かに痛手ではあります」

特に夏場は、暑さによる牛の食欲低下やストレスで搾乳量が落ちることに加え、学校給食が休みになるため牛乳の余剰が発生しやすい。
九州などの工場へ輸送して加工されるが、用途によっては買取価格が大幅に下がってしまう。
正彦さんは「早く秋になってもらいたい」と漏らし、この季節特有の苦悩を覗かせる。
両親の財産を受け継ぎ、未来へ届ける覚悟
それでも、牛舎にはたっぷりの草が敷き詰められ、熱中症対策の扇風機やミスト設備が絶え間なく稼働している。

未知代さんは日々一頭一頭の状態に気を配っている。
「やっぱり食欲とストレスで生産は落ちるんですよ。全然違います。乳房の張りで牛の健康度とか、まずわかります」
組合の理事としても活躍する未知代さんにとって、両親が築き上げてきた歴史は何物にも代えがたい財産だ。

「私たちが幼い頃は規模が小さくて…。とても覚えているんです。本当にこじんまりした牛舎だったんですね。小さい規模から両親がここまで希望をもって改革を続けてきたっていうことは、すごいエネルギーだと私は思うんです。それをまさか私たちの代で『減』にするわけにもいかない」
小さな努力を結実させて、消費者とつながる

平仲牧場が数々の困難を乗り越えてこられた背景には、飼育方法の絶え間ない改善や積極的な省力化機械の導入など、時代に応じた変化を恐れない姿勢があった。
現状に甘んじることなく積み重ねてきた小さな工夫が、高品質な生乳生産を支えている。
未知代さんはこれからの展望をこう語る。
「毎日の“少しづつ”を積み重ねて、小さく努力したものが実を結んだ時は本当に嬉しい。今後はもっと積極的に地域の酪農を発信しながら、消費者とのつながりが広げられたらなと思います」

正彦さんも「綺麗なところで生産して消費者に飲んでもらいたいと、その一心ですね」と続けた。
家族の絆と牛への深い愛情を糧に、変化の波に立ち向かう平仲さん親子。今日も八重瀬町の牧場からは、沖縄の食卓を支える新鮮な牛乳が出荷されている。

