福岡を訪れる外国人観光客に“ショー”ではない本物の剣道を伝える“体験プラン”が注目を集めている。外国人たちに“刺さる”剣道の魅力とは。
剣道の体験を通じて世界と繋がる
福岡市南区の剣道場『福岡一信館』。

30年以上続く道場で、幼児から中学生まで約70人が稽古に励み、全国大会に出場する選手も数多く育ててきた。

この道場で2026年6月から始まったのが、外国人向けの剣道体験プラン『Kendo EXP』。

「ショーのようなものをするのではなくて、本当の剣道を体験してもらっている」と話すのは、『福岡一信館』の森藤啓介さん。

開始から2カ月で40人以上が参加。この日もタイから来たという外国人観光客が訪れていた。

なぜ、剣道なのか?参加者に尋ねると、「日本の文化は、本当に興味がある」(タイ人女性)「剣道は伝統的な日本の武道だから、とても興味があります」(タイ人男性)と笑顔で答えた。
言葉を越える『気・剣・体の一致』
剣道着に袖を通し道場に入ると、まずは基本の『摺り足』から学んでいく。

「ライトフット、ファースト!グッド、グッド、オーケー!」片言の英語で身振り手振りを交えながら熱心に指導する森藤さん。「英語が流暢に話せるわけじゃないですけど、剣道って“心”と“体”があれば、ほとんど伝わります」と気にする様子はない。

そもそも森藤さんが外国人に剣道を伝えようと思った背景には、自身の留学時代の経験がある。父親が剣道場を営んでいたため、10歳から剣道に打ち込んでいた森藤さんだが、高校進学を機に一度、剣道から離れたという。

しかし、大学時代に留学したフランスで転機が訪れる。学校のイベントで剣道を披露する機会があり、それを見た現地の道場から指導を頼まれたのだ。

「その時まで剣道がこんなに海外で受け入れられているとは、全然知らなかったので、非常に驚いて嬉しく思った」と森藤さんは懐かしそうに振り返る。
帰国後は外資系企業に就職し、20年以上会社員として働いた森藤さんだが、2026年5月に退職。“脱サラ”した。

「海外の人に剣道を体験してもらう事業をやってみようと思いまして…」(森藤さん)。背中を押したのは、家族だった。

「剣道を子供たちに教えるのも、凄く楽しく教えるので、外国で教えたという経験もあるので、ずっとやって欲しいなと思っていました」と妻の里美さんは、夫の決断を応援した。
“本物”を体験したい世界の人々
この日は、アメリカ・メキシコ・インドから剣道の体験希望者が訪れていた。「面白そうな体験だと思いましたし、これまでやったことがなかったので挑戦してみようと思った」と話すのは、アメリカ人のニースさん。

メキシコから来たというアレックスさんのきっかけは、アニメだったという。

「日本のアニメによく出てくるじゃないですか?それがおもしろそうだと思って。今日をきっかけに剣道を体験したい」。

初めての剣道着に身を包み、竹刀を握る参加者たち。いざ、森藤さんが実際に手本を見せると、目の前で初めて見る剣道の迫力に圧倒された様子だった。

体験は、『礼』から始まる。外国人と言えども基本の教えは変わらない。
「特別なことをしているわけではない。一般的に剣道を学ぶ者は、全て『礼に始まり、礼に終わる』を通常の中でやっている。これを嘘偽りなく、本当の姿を海外の人に届けたい」と森藤さんは話す。

最初は少し戸惑い、遠慮がちだった参加者たちも森藤さんの指導を受けながら、少しずつ“感じ”を掴んでいった。

実際に、剣道を体験した参加者に感想を聞くと、みんな一様に満足した様子。
「少し難しいところもあったが、教え方がとても上手だったので、かなり早く覚えることができたし、何より凄く楽しかった」(インド・アヌシュカさん)

「ぜひ、またやらせてもらいたい。本当に楽しくて毎日やりたいと思って」(メキシコ・アレックスさん)

「これまでテレビやYouTubeでしか見たことがなく、実際に体験したことはありませんでしたが、実際にやってみて、その過程や伝統に触れることで、剣道に対して新たな敬意を抱くようになった」(アメリカ・ニースさん)。

日本語学校に通っているアメリカ人のブライアンさんは、大きな夢があるという。

「目標は、それなりの『段位』に到達すること。6段くらい欲しい。そして、アメリカに帰る時に剣道の先生になりたい」と語った。
テクノロジー活用でもっと世界へ
剣道を通じて日本の文化や精神にも触れた外国人たち。森藤さんは、剣道の魅力を更に世界に広げたいと話す。「正しい剣道の知識を海外の方に届けたい。まだまだ世界に広がっていい武道だと思っているので、少しでもその力になれればと思う」。

森藤さんは、現在、AIスマートグラスという最先端のテクノロジーを活用することで、インストラクターは、リアルタイムで正確な英語表現を確認しながら解説し、体験者は説明を理解することにストレスを感じず、剣道そのものに集中できる環境を整えたいとしている。
目指すは、完璧な英語に頼るのではなく、体験そのものを通して文化を伝えることが森藤さんの目標だ。
(テレビ西日本)

