有明海で採れる“幻の魚”エツ。乱獲や環境変化などで漁獲量が減少するなか、人工孵化に取り組む人たちを取材した。
日本では有明海にのみ生息する“幻の魚”
キラキラと銀色に輝く魚にミリ間隔で細かく包丁をいれていく職人技(『魚政』久留米市)。調理しているのは、初夏から僅か1~2か月間ほどしか味わうことができない魚、エツだ。

口にした人は「美味しいですね。食感がいいですね。小骨が多いと言われるけど、これだけ小さく切ってもらえると食べやすい」(男性)や「淡泊で、すごく美味しい。ビックリです」(女性)と舌鼓を打つ。

エツは、日本では有明海にのみ生息する体長30センチほどのカタクチイワシ科の魚。体は植物の葉のように前後に細長く、左右から押しつぶされたように平たい。

採れる場所も時期も限られていることから“幻の魚”とも言われていて、毎年5月から8月にかけて産卵のために筑後川を遡上する。

エツは「むかし、1人の僧侶が筑後川を渡る際、渡し舟の船頭に払うお金がなかったので、近くに生えていたヨシの葉を川に浮かべたところ、たちまち魚に変わった。この僧侶が、のちの弘法大師(空海)」という伝承が、筑後川下流域に伝わる魚だ。
国内の分布狭く絶滅危惧種に指定
下筑後川漁業協同組合の北村潤・組合長によると「産卵する時には、みやき町(佐賀県)と久留米市、ここでしか産卵しません。理由として考えられているのが、砂地とプランクトンが豊富なので産卵するのに一番、適している」という。

しかしエツの漁獲量は年々減少。日本での分布は狭く、絶滅の危険が増大している絶滅危惧II類(環境省レッドリスト)に指定されている。そのため漁協では30年ほど前から人工孵化に取り組んでいる。

北村組合長は「年々、少なくなってきているから我々としては産卵場の確保と種苗生産ですね。これしかないので一生懸命やるしかないです」と話す。
エサを食べると体がオレンジ色に光る
エツの受精作業が行われるのは川の上。川を遡上してくるエツを網で捕らえ採卵する。採れる卵は1匹あたり3万個から4万個ほど。新鮮なうちに船の上ですぐに受精させる。

下筑後川漁業協同組合の古賀晃さんは「メスから卵を採ってオスの精子をかけてやる。2日くらいでふ化する。なるべく採ってすぐ。新鮮なうちに作業せんといかんけんですね、孵化率が悪い。とってすぐやるのが基本になっている」と話す。

孵化した稚魚は、大きなタンクがずらりと並ぶ漁協の育成施設に運び込まれる。北村組合長によると種苗生産は日本全国でここだけ。ひとつの水槽に5千尾、大きい水槽で1万尾が入っているという。

小さなエツの稚魚に与えられるエサはプランクトン、それに小さなエビ。体がオレンジ色で光っているのは、エサを食べている証拠なのだという。
30年に及ぶ経験から稚魚にライトを当て、体を念入りに確認して1日3回のエサの量を調節する。

「2センチほどで、大体1か月から1ヶ月半ほど。それくらいになって放流しています」(下筑後川漁業協同組合・北村潤組合長)。
2026年は50万匹ほどの放流予定
孵化から放流までの一連の作業は1シーズンあたり7~8回。2026年は50万匹ほどを放流する予定になっている。

北村組合長は「筑後川のエツを守っていかないといけないという気持ちでいっぱいです。ぜひ筑後川の恵みのエツを食べてもらいたい」と話す。

地元で愛されている初夏の味覚、エツ。この地域でしか採れない希少な魚を後世に繋げていくための取り組みが続けられている。
(テレビ西日本)

