軽井沢のパンシーンは、老舗の歴史だけで成り立っているわけではない。ふるさとへ戻ってきた職人、パン作りの原点である「火と粉」に改めて向き合おうとするベーカリーが、この地に新しい風を吹き込んでいる。それぞれの哲学が宿るパンとは、どのようなものなのか。
修行時代から大切に継ぐ自家製酵母
長野県軽井沢町の西部・長倉地区、浅間山を望む標高1000メートルの高原に「シオルベーカリー」はある。
地元出身の小須田健二さんが、妻の未知子さんとともに、2021年4月に開いた店だ。
小須田健二さん:
「今年の4月で丸5年になります。ちょうどここで生まれ育って」
二十代でパン職人を志し、各地の名店で修行を積んだ後、京都の人気店で8年間腕を磨き、ふるさとの軽井沢に戻ってきた。
小須田さんが修行時代から大切にしてきたものがある。
「粉と水だけで起こした酵母で、10年間大事に継いで、うちのパンの要」と語る自家製酵母。
毎日「おいしいパンはなにか」を考え続けてきた修行時代の問いが、今も変わらず小須田さんのパン作りの根幹をなしている。
3日間かけて生地を作る食パン
「シオルベーカリー」の看板商品は食パン。
水分をたっぷり含んだ生地は、まるでお餅のような弾力を持ち、熟成と発酵を繰り返しながら3日間かけて作られる。
小須田健二さん:
「長い時間かけないと、でんぷんの甘みとか小麦のうまみとかそういった部分が出てこない」
窯での焼成は高温、短時間で仕上げ、しっとりもっちりした食パンに焼き上げる。
食べてみると、しっとりした生地の中に旨みがじわりと広がり、耳まで柔らかい。
素材と時間を丁寧に扱った先にしか生まれない味わいがある。
地元の常連客が毎週足を運び、「来るたびに今週も来てよかったなという気になります」と話す様子からも、その人気のほどがうかがえる。
「魔法をかけると違うパンになる」
食パン以外にも、「シオルベーカリー」にはこだわりが詰まった商品が並ぶ。
ブリオッシュ生地のメロンパンは、上のクッキー生地にメレンゲ菓子をイメージした独自の工夫を施している。
小須田健二さん:
「さっくりしてるんですけど、食べた時にしゅわっと消えてくような食感をイメージして作ってます」
食べると、サクサクした周囲の生地の食感とふわっとした中身、しっとりした底部が三段構えのおいしさを作り出している。
また、京都の修行先からヒントを得た「ほうじ茶あんパン」は、生地ではなく、あんこにほうじ茶を練り込むことで、より風味豊かに仕上げている。
甘夏にホワイトチョコを合わせた「甘夏ノア」は、くるみ入りの生地との組み合わせが秀逸で、甘酸っぱさとホワイトチョコの甘さが見事に調和。
どのパンにも「知恵と工夫」が詰まっているのが、シオルベーカリーの魅力だ。
「かっこいいパン職人になりたい」
夫婦二人三脚で営む「シオルベーカリー」では、小須田さんがパン作りを担当し、妻の未知子さんが販売を担当。
毎週のようにリピートする常連客が多く、「みんなおいしいよって言ってくれます」と未知子さんは笑顔で話す。
小須田さんが大切にしていることとして、未知子さんは「すごいきれい好きで、すべてをきれいにするところ」を挙げる。
パンの美しさも、その姿勢から生まれているのかもしれない。
小須田健二さん:
「今までコツコツと5年間地道にやってきましたので、少しでも長くお客様に喜んでいただけるように、これからも地道に頑張っていきたい。そしてかっこいいパン職人になりたいです」
新窯を新設「火と粉に立ち返る」
旧軽井沢ロータリーのそばに位置する「ベーカリー&レストラン沢村 旧軽井沢」は、2015年のオープン以来、軽井沢のパンシーンを牽引してきた店の一つだ。
軽井沢町内に3店舗、東京・名古屋に7店舗を展開する同店は、2025年、店舗の隣に薪窯と製粉機を備えたベーカリー薪窯工房を新設した。
その理由についてスタッフは「パン作りの原点、火と粉に、改めて立ち返るということで」と話す。
自家製粉だからこその香りとうまみ
薪窯には、フランスのレンガを使用し、蓄熱性と保温性を兼ね備えた構造になっている。
場所によって温度が変わるため、職人は入れ替えを繰り返しながら、手間を惜しまずパンを焼き上げる。
さらに、オーストリア製の石臼挽き製粉機を備え、県産をはじめとする国産小麦を厳選して、毎日必要な分だけ製粉している。
自家製粉にすることによって「フレッシュで香り高いパンになる」という。
職人の丁寧な作業が生むふわもち感
薪窯工房で焼き上げるパンのラインナップは、旧軽井沢店限定。
長野県小諸産の小麦「ゆめかおり」を全粒粉で使ったパンは、小麦本来の香りとうまみが際立ち、「なかなか食べたことがない」と思わず口をつくほどの風味があるという。
薪窯の特徴として、クラム(パンの中身)がもっちりと仕上がるのも見逃せない。
職人が一個一個焼き上がりを確認しながら焼く丁寧さが、そのふわふわ感ともちもち感を生んでいる。
国産小麦2種類を使った「バゲットクラシック」は、きれいなクープが開いた均整のとれたフォルムで、底を軽く叩くといい音がする。
皮がそれほど硬すぎないため歯切れが良く、シンプルながら旨みが詰まっているのが特徴。
長時間発酵させた生地を薪窯でじっくり焼き上げる「サワードウ」は、酸味と小麦の甘みが特徴的で、ビーフシチューやアヒージョなどの料理と合わせて食べるのもおすすめだという。
都内にも店舗を持つ沢村だが、「軽井沢でしか買えないパンを求めて来る客がすごく多い」という。
焼きたてのパンを並べる時、「その香りとともに幸せを感じる」というスタッフの言葉が、この店のパン作りの姿勢を端的に表している。
※この記事は、2026年4月10日にNBS長野放送でOAした「フォーカス信州 DJ KOOの軽井沢パン DO DANCE」をもとに構成した内容です。(全3回の記事その2)
