全世界が注目する中、日本時間の11月4日午前から始まったアメリカ大統領選挙の開票。トランプ大統領・バイデン前副大統領の両方が勝利を確信するとした演説を行い、開票序盤のトランプ氏優勢からバイデン氏優勢の声が聞かれるように移り変わるなど、接戦が続く。今後どのような事態が起こるのか、そしてアメリカはどうなっていくのか。今回の放送では、アメリカの政治事情に詳しい3人のジャーナリストに話を聞いた。

両候補「勝利宣言対勝利宣言」

ドナルド・トランプ 現大統領
ドナルド・トランプ 現大統領
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竹内友佳キャスター:
日本時間11月4日の午後、バイデン氏、次いでトランプ氏が勝利を確信するとした演説を行っています。バイデン氏は「勝つ方向に進んでいる」という表現。トランプ氏は「我々は勝った」。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
バイデン氏は「トランプには勝利宣言させないぞ」という意思表示をした。トランプ氏はそれを受ける。挑発して火をつけたのはバイデン氏。いい悪いではなく、公平に扱うべき。片方だけ非難するのはいかがなものか。まだアメリカのマスコミにバイアスは残っているが、日本のマスコミはそれに同調しちゃいかん。

反町理キャスター:
バイデン氏が「すべての票を数え終わるまで終わらない」と言い、トランプ氏はもうカウントをやめろと言っている。この部分については。

ジョー・バイデン 前副大統領
ジョー・バイデン 前副大統領

ジャーナリスト 木村太郎氏:
バイデン氏の「計算が終わるまで選挙は終わらない」はルール違反。大統領選挙は、開票があり、ある段階でコンシード(落選を認めること)する。敗者が相手に電話して負けましたとコメント。スピーチをして、それから初めて勝者が出てきてスピーチをして終わり。バイデン発言は、訴訟などになってもこのコンシードをしないという宣言と同じ。

ピーター・ランダース WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)東京支局長:
接戦となること、特にペンシルベニアの郵便投票問題、結果確定が遅いことは事前に予想されていた。バイデン陣営は、この4年間前代未聞のやり方をしてきたトランプ大統領がその中で異例な対応、つまり勝利宣言をすると予測したのでしょう。対抗して事前に異例なことをしなければと思ったのでは。民主党としてそれがよいかどうかは別として。
「すべての票が数えられるまで待つ」という言い方は確かにちょっと言い過ぎ。ただ未開票の部分がまだ多くあるので、とりあえず待ちましょう、ということ。

古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員:
投票が終わってから結果が分かるまでは一種の厳粛な時間帯。今回はすべての点において異例だが、やはりバイデン氏の行動が異例。トランプ氏からすれば、黙っていてはいけない、となる。だから「トランプがいきなり勝利宣言をした、けしからん」というのはちょっと無理な理屈だと思います。 

結果は大規模で複雑な裁判へ

竹内友佳キャスター:
これからどういった事態が予想されるのか、今後の日程について。まず来月14日には選挙人による投票が行われるため、この日までには各州の投票結果が確定している必要があります。しかし両候補とも過半数の270人に届かなかった場合は下院に選出が委ねられ、50州が1票ずつ投票して大統領が選出されます。混乱の可能性についてはどうお考えでしょう。

古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員:
やはり訴訟。民主党陣営は絶対に敗北宣言をするなとバイデン氏に言っている。トランプ氏は恐らく改めての勝利宣言をするのでは。逆にバイデン氏が勝利宣言をする場合も、トランプ氏ははっきり訴訟、裁判という言葉を使っており、訴訟になる。
どちらにしても、ブッシュ元大統領対ゴア氏の選挙で20年前にフロリダで起きたことの再現が、もっとずっと大規模かつ複雑に起こる。しかし国家だからいつまでも決められないというわけにはいかない。

反町理キャスター:
主な争点となるのは郵便投票の正当性でしょうか。今回は期日前の不在者投票全体で1億人以上が投票した。しかし、以前から郵便投票という制度はあった。制度そのものがおかしいとなれば、過去の大統領選挙・国政選挙も全部否定されてしまうのでは。

ピーター・ランダース WSJ東京支局長:
20年前のフロリダでベテランの記者に言われたことだが、多くの裁判というのはどっちが正しいかではなく、どっちが決めるかが問題になる。つまり全体として郵便投票の良い悪いを決めるのではなく、それぞれの州の細かい決め方に対して訴訟を起こす。特にトランプ陣営の場合は、今は保守系の判事が6対3の多数派になっているので、できるだけ最高裁まで持っていこうとする。複雑な法廷になる。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
両候補とも過半数の270人に届かず下院で選挙をするとなれば、各州に1票ずつの50票が投じられる。50州の割り当てを見たとき、今のメンバーであればたぶん共和党が26対22で勝つ。しかし今回の選挙で当選した下院議員が投票を決めるから、その結果によって展開は変わる。

反町理キャスター
大統領選挙と同時に行われている下院の選挙結果によって、どっちの陣営がどう大統領選挙の結果に対して選挙裁判を仕掛けるかは変わってくると。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
だって、自分が負けるような裁判は起こさない。

反町理キャスター:
乱訴みたいな状況にも見えるのですが、アメリカ国民からこの国を挙げた大騒ぎはどう見えるんですか。

ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長東京支局長
ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長東京支局長

ピーター・ランダース WSJ東京支局長:
合衆国憲法ができたのは230年も前。個人的には制度疲労している部分があるという気がします。その点にはある程度共通認識があるかもしれないが、どう変えるかという点で党派の激しい対立が起こります。
民主党は選挙人制度ではなく、投じられた票数で決めようという主張が強い。しかし共和党は、合衆国だから各州の票が大事で、一斉に全国民一票という形は建国の理念とそぐわないという立場。

分断はトランプ大統領が広げたのか、それ以前からあったのか

古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員
古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員

反町理キャスター:
トランプ大統領がアメリカの分断をより広げた、広げていないといった議論があります。そして、今回の大統領選挙でその分断を埋める動きが出ているようには見えない。今後この分断はどう展開していくのか、そしてその日本に対する影響は。

古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員:
政策の違いによる対立は昔からある。大きな政府の民主党リベラル、小さな政府の共和党保守。政治というのは政府と国民との関係をどうするかということだからこのように対立する。意見の違いがあること自体は、私は健全だと思う。
だけど今回、アイデンティティー・ポリティクス、つまり人種の要素がそのまま政治に入り込み、たとえば今回、黒人の女性でなければ副大統領候補になれないといったことがあった。社会的な地位や学歴もその要素になる。それがもともとあった保守とリベラルの政策の違いをより険悪にしてギャップを広げてきた、という二重の構造がある。僕はむしろ、オバマ政権時にこれが広がったと思う。トランプ大統領は妥協しなかった。

ピーター・ランダース WSJ東京支局長:
様々な問題での対立は当然で、民主主義があるからそれらが解決できるわけだが、人種によって何十年も分かれ続けているというのは、健全な状況とは言えないと思います。
一方で、分断による日本への影響はさほどない。民主党・共和党支持者とも、日本に対してある程度好意的なところがある。

今回の一番の敗者はアメリカのメディア

ジャーナリスト 木村太郎氏
ジャーナリスト 木村太郎氏

反町理キャスター:
視聴者の方からのメール。「今回のアメリカ大統領選挙は共和党と民主党の戦いではなくメディア対トランプという気がします。ほとんどのメディアは反トランプですが、トランプはSNSを使って国民に発信しました。アメリカ国民のトランプ支持が多いとすれば今後アメリカも日本でもメディアの在り方を考える時期ではないですか」。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
メディアはそれを考えることになる。今回の選挙の一番の敗者はアメリカのメディアだと思います。メディアの名のついたアメリカの世論調査は全部間違っていた。それを基に、トランプが勝てるわけがないという話をずっと流していた。日本でもそのまま流れた。それが全部崩れた。
少なくとも、ここまで接戦になるとは誰も言わなかった。単に興味本位で勝ち負けを語る話でなく、ビジネスの話、相場の話など全てに影響すること。この責任はどうやって取るのか。当然アメリカのメディアはいろんな責任が問われることになると思うし、メディアの将来は危うくなり、SNSなどに主役を奪われると思っています。

BSフジLIVE「プライムニュース」11月4日放送