14人が死亡、6000人以上が負傷したオウム真理教による地下鉄サリン事件。
31年たった今も全身にしびれるような痛みや刺すような痛みを24時間感じ続けている被害者がインタビューに応じた。
「他の人がもしこの体を借りたら、1週間で死にたくなると思う」と語る。
目の前に「サリン」
東京都内に住む野坂秀幸さん(67)は、1995年3月20日朝、通勤のために池袋駅から地下鉄に乗った。
車内の床には新聞紙が落ちており、液体が流れていた。
シンナーのような臭いがしたが、「誰かの嘔吐物を処理したのかな」と思った。後になって、それが猛毒のサリンだったと知った。
ほどなくしてせき込み始め、周りの人達も同じようにせき込んでいた。
「おかしい」と思い、別の車両に移動した。
今度は、視界がすっと暗くなった。
なんとか勤務先にたどり着き、事件のことを知った。
地下鉄にサリンがまかれるという、前代未聞の事件だった。
「寝たら死ぬかも…」
野坂さんは「サリンの影響で、いつ心臓が止まるかも分からないし、いつ脳の機能が停止してしまうかも分からない。寝たらそのまま死んでしまうかもしれないという恐怖をずっと持って生きてきました」と話す。
体や精神の不調は絶え間なく続いてきた。全身の痛みや腫れ、だるさ。疲れやすいという症状もあった。
PTSDもあり、地下鉄に乗るのにも、精神的な負担があるという。
全身の痛みについて野坂さんは「皮膚の表面から、細胞から、神経から骨まわりまで、全部に痛みがある感覚。ただ普通にしているだけで痛いのです」
なんとか症状を改善させようと、医師と相談しながら、様々な薬やサプリを試した。
数年前から「バクロフェン」という薬を服用すると、痛みが軽くなった。
根本的な治療法は見つかっていないが、いまはこの薬を服用しながら、仕事をなんとか続けている。
「地下鉄サリン事件は解決していない」
野坂さんは、語気を強める。
「事件があってもなお、サリンの後遺症をどうやって治すのか、治療法が確立していない。サリンがどれだけ人体に影響を及ぼすのか、研究がされなければ、再び同じような事件が起きても対策のしようがないのではないか。国が主導して、研究を進めないといけない」
7割の人に“後遺症”
オウム真理教による地下鉄サリン事件から31年。いまも、後遺症のような症状やPTSDに悩まされている人は少なくない。
オウム真理教犯罪被害者支援機構などが2025年に実施した調査によると、アンケートに回答した被害者276人のうち、7割ほどになんらかの「目の症状」や「忘れっぽさ」があった。
さらに、3割弱の人にPTSD症状があったという。
アンケートの自由記述には、「疲れやすい状態が続いている」「明らかに後遺症と思われる症状が残っているが、思い出したくない気持ちもあり通院はしていない」「報道を見ると過呼吸や涙が止まらない」といった回答があった。
調査をした筑波大学の松井豊名誉教授は、「化学的なテロは、自分の症状がどう変化するか分からないという未知の不安を強く持つ。これが、PTSD症状が緩和しない原因の一つかと思います」と話す。
さらに、こう指摘する。
「高齢のために出てきた症状なのか、サリンの後遺症が遅れて出る症状なのかという不安をずっと抱え込んでいるのだと思います。これだけ苦しんでいる人がいることを知ってもらうことで、周囲からの支援に繋がって頂ければと期待しています」
(フジテレビ社会部司法担当・野﨑智也)
