高知県立大学で、ある著名な工芸作家の作品が10年近くも人目に触れぬまま「トイレの壁」に隠されていたことが判明した。皇族の御印のデザインも手掛けた作家の魂が込められた作品は、なぜこのような目に遭ってしまったのだろうか。
高知を代表する工芸作家・吉田左源二
高知県安芸市出身の吉田左源二(よしださげんじ)は、漆工芸やアラビア書道などで多彩な才能を発揮。皇族が身の回りの品に付ける御印などをデザインした、高知を代表する作家の1人である。
そんな彼が高知県立大学の前身である高知女子大学に依頼されて制作したとされているのが、縦横2メートルの漆工芸作品である。1988年の図書館増築の記念とされ、現在の学生会館のロビーに展示されていたが9年前、永国寺キャンパス整備工事でこの作品の前に多目的トイレを設置。その結果、トイレの壁で作品を隠してしまっていた。
なぜ芸術は「トイレの壁」に塞がれたのか
事の発端は9年前にさかのぼる。永国寺キャンパスの整備工事に伴い、なんとこの作品のすぐ目の前に多目的トイレが設置されてしまったのだ。
無惨にも作品はトイレの壁によって完全に隠され、その姿を見ることはおろか、存在すら認識できない状態へと追いやられてしまったのである。
工事関係者からの「作品を壁から取り外せないがどうすればよいか」という声に対し、当時の大学や県の担当者は「そのまま進めてよい」と判断を下していたという。
背景には、この貴重な作品が備品台帳に登録されておらず、多くの人がその「価値」を理解していなかったという現実があった。
謝罪、そして作品が再び光を浴びる日まで
この事態を受け、高知県立大学の甲田茂樹学長は「芸術作品への敬意に著しく欠ける行為」と深く陳謝した。高知を代表する作家の作品が忘れ去られてしまった10年間はあまりに重いが、希望もある。
大学は2025年度中にトイレの撤去方法などを検討し、再びこの作品を一般の人々に公開する方針を示した。吉田左源二の遺した魂が、再びキャンパスで温かい光を浴びるその日を、心待ちにしたい。