5月17日、福岡市の20歳の男子大学生がストーカー規制法違反で逮捕された。

逮捕容疑は、昨年9月末から12月初めまで、福岡市内在住の17歳の女子高校生の自転車のかごに交際を求める手紙などを入れて読ませたり、アルバイト先に押しかけてプレゼントを渡そうとするなどのつきまとい行為を繰り返し行った疑い。

ラブレターを渡したり、アルバイト先に行ってプレゼントを渡したり、といった行為は「恋愛のアプローチ」の一環のようにも思えるが、なぜストーカー行為に該当してしまうのか?
また、「恋愛のアプローチ」と「ストーカー行為」には明確な線引きがあるのか?

「法律事務所くらふと」の坪内清久弁護士に聞いた。

「ストーカー行為」に該当する行為は?

――処罰の対象となる「ストーカー行為」にはどのようなものがあるのでしょう?

ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下,法令名略)2条には「つきまとい等」として以下のように定められております。

特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行う次の行為

①つきまとい・待ち伏せ・押しかけ・うろつく行為

例えば
・被害者を尾行してずっとつきまとう
・被害者の自宅や職場,学校などで監視し,見張っている
・通学や通勤途中など被害者の行く先々で待ち伏せをしている
・被害者の歩いている道の前に立ちふさがり行く手を遮る
・被害者の自宅等の付近をわざわざ周回する

②監視していると告げる行為

例えば
・帰宅直後に「お帰りなさい」などと電話をしてくる
・被害者のその日の行動や服装など、細々したことを電子メールで告げてくる
・被害者がよくアクセスするインターネット上の掲示板に、被害者に関する他人が知り得ない内容の書き込みを行う。

③面会・交際の要求

例えば
・被害者が拒否しているにもかかわらず、面会や交際、復縁を求める。
・面会や交際を求めるメールや手紙などを送ってきたり、電話をかけてくる。
・自分勝手に贈り物を届け、受け取ることを強く要求する。

④乱暴な言動

例えば
・被害者に向かって「死ね」などの乱暴な言葉を浴びせる
・電話を掛けてきて,乱暴な言葉で怒鳴り散らす
・被害者の家の前で大声を出したり、車のクラクションをうるさくならしたりするなどの乱暴な行動をする。

⑤無言電話・拒まれたにもかかわらず、連続して、電話、ファックス、電子メールやSNSを用いたメッセージ送信、ブログやSNS等の個人ページにコメント等を送ること

例えば
・電話を掛けてくるが、何も言わず、被害者に不安を感じさせる。
・あなたが拒否しているにもかかわらず、自宅や携帯電話、会社などに何度も電話をかけてくる
・被害者が拒否しているにもかかわらず、何度も電子メールやSNS、ファックスを送信してくる。被害者のブログ等にコメント等を送る。

⑥汚物など不快な物の送付

例えば
・汚物や動物の死体など、被害者に不快感や嫌悪感を与えるものを自宅や職場に送りつけたり、玄関前に置いたりする。

⑦名誉を傷つける

例えば
・被害者を中傷したり、名誉を傷つけるような内容を告げたり、文書などを届けたりする(インターネットで投稿することも含む)

⑧性的羞恥心の侵害

例えば
・わいせつな写真やデータが入った記録媒体を自宅に送りつけたり、被害者と特的できるわいせつな内容等をインターネット掲示板に掲載したりする

といったものが法の規制対象になります。


①~⑤(⑤は電子メールの送信等に限る)については、相手方の身体の安全、住居等の平穏もしくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法によって反復して行われた場合に、処罰の対象となる「ストーカー行為」(法3条)に該当することになります。

この点で、普通の恋愛のアプローチまで処罰されないよう規制対象が限定されているといえます。
なお、⑤の電話の部分や、⑥~⑧は、反復しただけで該当することになります。これらは明らかに嫌がらせだからです。

そして、「ストーカー行為」をした者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(法18条)。また,つきまとい等について公安委員会による禁止命令等に違反してストーカー行為をした者は,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金になります(法19条)。



 

 
 
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福岡市のケースはストーカー行為に該当する

――明らかになっている情報が少ないのですが、福岡市のケースはストーカー行為に該当しますか?

報道内容が正しいという前提にすると、被害者の自転車のカゴに交際を求める手紙を入れた場合は上記③に該当します。また、アルバイト先に押しかけてプレゼントを渡そうとしたのであれば①の「押しかけ」に該当します。

加えて手紙やプレゼントの内容によって「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情…を充足する目的」を被疑者が有していると認められる可能性があります。

そして、被疑者の行為が繰り返され,客観的にみて被害者が行動の自由をひどく害される不安を覚えるものと言えれば、今回のケースはストーカー行為に該当すると思います。
 

「ラブレターを何度も渡す」はストーカー行為?

――今回のケースではなく、一般論としてお聞きします。好意を抱いた相手と交際したくて、ラブレターを何度も渡した場合、ストーカー行為に該当するのでしょうか?

上記事案と同じく、相手のラブレターを受け取った際の態度、ラブレターの内容、渡す頻度にもよりますが上記③に該当した上、ストーカー行為となる可能性があります。


――好意を伝えるメールを何度も送った場合は?

相手の態度からメールを拒否していることがわかっているにもかかわらず、上記メールを複数回送ったとすれば⑤に該当します。

また、好意だけでなく、交際要求まで入って入れば③に該当する可能性があるでしょう。
 

――待ち伏せして何度もプレゼントを渡した場合は?

待ち伏せしている行為については上記①、プレゼントを渡す行為については、自分勝手にプレゼントをし、受け取ることを強く要求していると認められる場合には上記③に該当します。

 
 

「恋愛のアプローチ」と「ストーカー行為」を分ける3つのポイント

――「恋愛のアプローチ」と「ストーカー行為」の線引きがよく分からないのですが、どうやって線引きをするのでしょう?

ここは難しい問題ですが、ポイントは
①相手の態度(明示・黙示)から相手がアプローチを拒否しているといえるか
②客観的に見て、アプローチによって、身の危険や行動が監視されていると強く感じるかどうか
③アプローチの頻度・方法が社会的にみて異常かどうか、だと思います。
 

――「恋愛のアプローチ」として許容されるのは、どういった行為までなのでしょう?

ここも難しい問題ですが、相手の表情等を含めた反応をよく見た上で、プレゼントを送る、交際を求めることは許されると思います。

この法律は何でもかんでも処罰するようなものでもなく、恋愛目的や法の2条3項における反復継続性によって適用が制限されておりますので….。(法21条参照)
相手の立場を尊重できることが恋愛のアプローチに必要不可欠なのではないでしょうか。

 

坪内清久
弁護士法人ソーシャルワーカーズ千葉支所法律事務所くらふと
パートナー弁護士
創価大学法学部法律学科卒。首都大学東京法科大学院を卒業し、2016年に弁護士登録(69期)。千葉県弁護士会所属。司法と福祉のより良い連携を目指し、特に子供の貧困、教育問題、外国人の子供の問題に注力している。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。