知られざる皇居のお仕事…馬と伝統守る「主馬班」

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  • 皇居で“走る美術品”馬車の馬を飼育・調教
  • インターハイ優勝経験の19歳新人「今は勉強する時期」
  • 「気持ちをしっかり引き継ぎたい」この道42年のスペシャリスト語る

皇居のお仕事「主馬班」

平成から新しい時代へ、お代替わりまであと1年足らず。

新天皇の即位という一世一代の儀式に欠かせないもののひとつが、美しい装飾が施された歴史ある馬車。
その馬車を操る馬のスペシャリスト軍団、宮内庁車馬課主馬班では、伝統の技と心が若い世代へと受け継がれようとしている。

皇室と馬

天皇陛下は8歳から乗馬を習われ、高校時代は馬術部の主将としてご活躍。
1959年4月、美智子さまとの世紀のご成婚パレードも、優雅な馬車列。
ご結婚後もご家族で馬に親しんでこられたが、即位後はケガで公務に支障が出ないよう、乗馬はされていない。
訪問先などで、いとおしそうに馬の鼻を撫でられるご様子からは、陛下が本当に馬がお好きであることが伝わってくる。

皇室と馬には長く深い縁がある。

走る美術品

陛下のご公務の中で、新たに日本に赴任した外国の大使とお会いになる「信任状奉呈式」。
憲法に定められた国事行為に、馬の出番がある。

東京駅と皇居との往復、ほとんどの大使が宮内庁の用意した馬車を利用する。

漆塗りの車体に、美しい装飾が施された「儀装馬車」。

信任状奉呈式に使用される馬車は大正2年製造で、もはや新規製造は不可能と言われ、修理を繰り返しながら100年以上にわたり大切に使用されてきた、いわば「走る美術品」。

宮内庁車馬課主馬班

この馬車を曳く馬や乗馬用の馬たちを飼育・調教し、騎乗するのが、宮内庁車馬課主馬班。総勢21人。

皇居の一角に厩舎やパドックなどがあり、24時間体制で33頭の馬の世話にあたる彼らは皆宮内庁の職員で国家公務員だ。

一体どんな人たちなのだろうか。

スーパー新人下積み中

主馬班で最も若手の新人、19歳の髙橋宇宙さん。
去年8月に採用されたばかりで、厩舎の清掃や馬の手入れなどが主な仕事。

取材に訪れたのは信任状奉呈式の当日。
朝6時すぎに出勤すると、馬の寝床から湿った重い藁を何度も運びだしては天日干し。
次第に汗がしたたり、空腹でお腹が鳴る音も聞こえてきた…。
1人暮らしで朝食抜き。若者らしい一面が垣間見える。

下積み生活が続く髙橋さん、実は高校時代は馬術部に所属し、高3の夏のインターハイでは優勝した実力の持ち主。
幼いころから馬が好きで、父の勧めでこの道に入ったが、今は先輩が使用する馬の世話に徹しており、就職してからまだ一度も馬に乗っていないという。

高度な乗馬技術がありながら、馬に乗れない生活に不安は無いのだろうか。

髙橋さんは、「今は色々と勉強する時期。先輩に教わり知識を高めて馬との信頼関係を築きたい」「儀式はやはり恰好良いです」と語る。

いつか華麗に馬を操る日を夢見て、ひたすら修行の日々が続く。

この道42年…馬のスペシャリスト

ヘルメットや制服に菊のご紋が

研修に10年、一人前と認められるまでにさらに10年かかると言われる主馬班の仕事。

そのトップとして率いるのはこの道42年、最年長の齊藤昭雄さん(59)だ。

新人・髙橋さんとは対照的に馬が好きではなかったという齊藤さん。
先輩の勧めで宮内庁に就職し、主馬班で0から馬について学ぶうちにどんどん馬にのめりこみ、今では古式馬術でも圧倒的な技術を誇る「馬のスペシャリスト」。

信任状奉呈式では「監督者」として白馬に乗り、号令をかけ、馬車列を指揮していた。

菊のご紋が付いたジャケットを見せて頂くと、かなり厚地だった。
夏冬兼用なので夏場は任務を終えると数キロ体重が減るそうで、かなりの重労働だと分かる。

一番大事なことは「馬の心をつかむこと」。

そう話すこの道一筋の大ベテラン、激動の昭和から平成へ、42年間で最も印象に残っている出来事は「平成2年の親謁の儀」だという。

親謁の儀で馬車を誘導する齊藤さん

「親謁の儀」は天皇陛下が即位後に伊勢神宮に参拝された儀式で、齊藤さんは若手技官として陛下をお載せした儀装馬車の誘導を行い、馬車列の一員として直接経験した現役唯一の職員。

ところが、来年3月、お代替わりの直前に定年を迎えるため、新天皇の即位に当たってはその経験を活かすことが出来ない。

「経験者として、儀式に対する気持ちや心構えを後輩にしっかり引き継いでいきたい」と、齊藤さんには、無念さではなく、気概が溢れていた。

来年、確実に訪れる時代の変革。
馬と心通わせ、まさに心技一体で脈々と続いてきた儀式を支える主馬班。

伝統や仕事への誇りは、確実に次の世代へと紡がれている。


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