香港デモのスローガンは“Be Water” 革命の「水」はどこへ流れていくのか

ジャーナリストが現地取材で見た混沌

カテゴリ:ワールド

  • 3カ月も続いているデモは明確なリーダや指導組織が存在しない
  • 運動のスローガンは“Be Water(水のようになれ)”
  • 暴力的な衝突の先に「水」はいったいどこへ流れるのか・・・?

香港では「逃亡犯条例」の改正に反対する大規模な街頭運動がすでに3ヶ月も続いている。人口750万人の香港で200万人(主催者発表)が参加した集会もあり、反対の声が圧倒的だ。香港政府トップの林鄭(りんてい)行政長官はついに9月4日、逃亡犯条例改正案の正式な撤回を発表した。ところが街頭運動は収まっていない。いったいなぜなのか。

明確なリーダーや指導組織が存在しないデモ

8月31日 催涙弾や放水よけの傘をさして政府庁舎ににじりよる若者たち ゴーグルや防塵マスクを着用

条例改正案撤回という香港政府の方針転換のきっかけとなったのは8月31日(土)のデモだった。警察は31日の集会・デモを違法とし、前日30日(金)、日本でも知られた若き女性民主活動家、周庭氏(22)らを6月の違法集会を扇動したなどの容疑で逮捕した。警察が強い警告を発したわけである。ところが、この日は雨の中、多くの市民が繁華街のデモを敢行。政府庁舎に向かったデモ隊の一部が警官隊とぶつかった。デモ隊側は歩道の敷石を砕いて投げつけ、警官隊はこの日だけで241発の催涙弾を発射、これにデモ隊が火炎瓶を投げて応酬するなど大荒れになった。

この日のデモに、今の香港の民主化運動が息長く続く強みを見ることができる。まずは明確なリーダーや指導組織が存在しないことだ。市民はSNSで集会やデモの時間、場所を知り、自発的にやってくる。演説も開始の号令もなく、自然に隊列が膨らんで歩道から車道に人があふれていく。誰かが勝手にスローガンを叫び、近くの人が唱和。別のグループは歌を唄っている。若い人が多い。友達と連れ立ってきた高校生など、どこにでもいるごく普通の若者たちだ。参加者に飲み物を差し出したり、ペットボトルを回収したりする人たちはボランティアだ。途中、ヘルメットや催涙ガス対策の防塵マスクなどを配るグループがおり、希望者はそれらを着けて進む。「前線」が近づくと「これから先は安全ではないので装備のない人は行かないでください」とお触れが回る。「前線」に行くも帰るも個々人の自由だ。警官隊とぶつかっているのは「勇武派」と呼ばれる人々で、穏健な「和理非派」とは意見を異にするが、互いに非難することは避けている。

「水のように」闘う

運動の合言葉は”BE WATER”(水のようになれ)だ。水滴が集まって川になり、自ずから流れ、捉えどころがなく、時には激しくぶつかることもあるという意味だという。この3カ月で逮捕者は1000人をはるかに超えるが、いまも運動がつぶれないのはリーダーがおらず「水のように」闘っているからだ。

8月30日 保釈直後の周庭氏 裁判所前にて

問題は、長期にわたる闘いの過程で、運動参加者が政府に対して決定的に不信感をもってしまったことだ。周庭氏は、条例改正案撤回の発表があっても闘いは続くという。

「条例の撤回は喜べません。遅すぎました。この3ヶ月間、8人が自殺。3人が警察の暴力によって失明。2人がナイフを持つ親北京派に攻撃され、重傷。1000人以上逮捕。100人以上起訴。怪我した人は数えきれないです。私たちは、5つの要求を求めています。これからも戦い続けます。」(9月4日のツイッター)

逃亡犯条例改正への反対から始まった運動だが、いまや「5つの要求」すべてを実現するまで突き進むという。それは1. 改正案の完全撤回、2.警察と政府の、市民活動を「暴動」とする見解の撤回、3. デモ参加者の逮捕、起訴の中止、4. 警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施、5. 林鄭月娥の辞任と民主的選挙の実現である。とくに民主的選挙の実現など、とても簡単に実現するとは思えない要求まで掲げている。

さらに気になるのが、政府を動かすには実力行使しかないと考える運動参加者が増えていることだ。8月12~13日、香港国際空港のロビーをデモ隊が占拠し全便が欠航になるなどの事態を招いたがこれを国際世論へのアピールと応援した市民は多い。

警官隊はデモ参加者を特定するため青い蛍光塗料入りの水を放水 写真はこれを洗う人々

警察の暴力の酷さは人々の怒りをかい、連日、警察署への抗議行動が深夜まで行われていた。抗議する側が石や火炎瓶を投げると警察側から催涙弾やゴム弾が発射され、逮捕劇が繰り返される。私たちの取材中、旺角(モンコック)警察前で、警官隊に向かって「恥を知れ!」と大声で叫んだだけの若者を数人がかりで警官が地面に押し倒して逮捕した。どこか怪我をしたらしくTシャツの首のあたりが血に染まっている。また私のカメラの目の前で、通りがかりと思われる若い女性を警官が何度も突き飛ばしていた。こうした警察の暴力はネット記者らの投稿によってまたたくまに拡散し、市民の憤激を募らせている。

「暴徒はいない、暴政あるのみ」

周庭氏は私に「沒有暴徒,只有暴政」(暴徒はいない、暴政あるのみ)というスローガンを見せて、これを日本のみなさんに知ってほしいという。今の暴力の連鎖は、どっちもどっちではなく、暴政に責任があるというのだ。

保釈後の周庭氏 レノンウォールというメッセージを壁一目に貼った地下道で

ある集会に制服姿で参加した女子高校生に、デモ隊の一部が暴力的な行為をすることをどう思うかと聞いたところ「完全に平和的な方法では解決しないと思う」との答え。さらにこう言って私を驚かせた。

「これは革命なので、流血は避けられないのではと思う。歴史をみてもそうだ。」

「水のような」運動にはリーダーはおらず、参加者は平和的な交渉で要求が実現するとは思っていない。暴力的な衝突を繰り返しながら、いったい「水」はどこに流れていくのか。若者たちの澄んだ目を見ながら、先行きへの憂慮が募っていった。

警察の横暴に抗議する人の中には勤め帰りのOLや学生も 顔認証による不利益を避けるためマスク着用

【執筆:ジャーナリスト 高世 仁】

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