「私の抱く菅さんのイメージは安定や継続というより、菅さんイコール改革だ」

関係者によると、小泉進次郎環境相は6日、地元横須賀市の連合支部の役員会で、菅官房長官への支持をこう表明したという。8月30日に河野防衛相への支持を表明したが、河野氏が急転直下、出馬断念を明らかにしてからわずか1週間足らず。この間にいったい何があったか。

河野氏の次の選択をいうのは憚られる

筆者は8月31日の記事「なぜ小泉進次郎は河野太郎を支持したのか?」の中で、こう書いた。
(関連記事:なぜ小泉進次郎は河野太郎を支持したのか?

「今後、小泉氏にとって想定外の『変数』は何なのか?そもそも河野氏が出馬を断念した場合、小泉氏は再び選択を迫られることになるのが1つ。菅氏か、石破氏か、または岸田氏支持か」

その“変数”はすぐやってきた。1日河野氏は、所属する麻生派が菅氏を支持する方針を決定すると、出馬を断念したことを明らかにした。これで小泉氏の河野氏支持は宙に浮いたかたちとなり、周囲の関心は次に誰を支持するのかに集中した。

しかし小泉氏は、4日の閣議後会見でこう語っている。
「私は河野さんが出られたら河野さんを応援すると。河野さんの名前を挙げていった以上、河野さんが出なかったからこの方ですというのは、私の中で憚られるなと考えている」

菅氏は「隣町の大先輩」以上の存在

だがその2日後の6日、地元横須賀に戻った小泉氏は、菅氏への支持を“憚らず”表明。その理由をこう語ったという。
「菅さんとは一緒に農業改革に取り組んだ。石炭政策の見直しも後押ししてくれた」

連合支部では菅氏支持を決め、小泉氏の地元後援会は早速、菅氏支援の選挙準備に入るという。

よこすか自民党市議団フェイスブックより
よこすか自民党市議団フェイスブックより
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菅氏と小泉氏は同じ神奈川選出であり、横須賀には菅氏と関係の深い地方議員もいる。2017年の横須賀市長選では、反小泉の現職に挑んだ候補者を小泉氏が支援し、その選挙戦を応援したのも菅氏だ。

2019年には、月刊誌上で小泉氏と対談した菅氏が、小泉氏の入閣の可能性について「私はいいと思います」と発言し、小泉氏入閣に既定路線を引いた。だから小泉氏にとって菅氏は、「横浜、隣町の大先輩」(小泉氏)以上の存在なのだ。

小泉氏にとって菅氏は「隣町の大先輩以上の存在」
小泉氏にとって菅氏は「隣町の大先輩以上の存在」

総裁選で小泉氏は、党員投票を行うことを主張していた。その際にも菅・河野両氏の名前を挙げながらこんなことをいっている。
「菅官房長官も河野大臣も私も神奈川県連所属ということで、神奈川はいま、こういう総裁選なら投票したいという党員が多く出てくるんじゃないですかね」

この発言は、同じ県連所属である菅氏との親密さのアピールともとれた。

(関連記事:「自民党を変えるには権力を奪うしかない」党員投票“敗北”で若手議員たちの下克上始まるか

小泉氏はすでに“党内野党”ではない

1日の総務会に小泉氏は、党員投票を求める署名活動の発起人の1人として乗り込み、「総裁選を公選で行うことを前向きに考えるべきではないか」と発言したという。

しかし両院議員総会による選挙が決まった後、共闘した若手議員が悔しさを滲ませながら敗北の弁を語るのとは違い、小泉氏は淡々とこう語った。

「今日はそのスタートだと思う」と淡々と語る小泉氏
「今日はそのスタートだと思う」と淡々と語る小泉氏

「これで総裁選にいくわけですから、選ばれた総裁が誰であろうとも、より多様な党員の声、国民の声、それが反映されるような自民党を作っていくスタートにしたい。今日はそのスタートだと思います」

この発言にはもはや、かつての“党内野党“を感じさせるものはなかった。この時点で小泉氏の視線の先には、すでに総裁選に向けたシナリオができあがっていたのかもしれない。その数時間後、河野氏は出馬見送りを明らかにしている。

菅氏支持は小泉氏にとって“既定路線“

河野氏という選択肢が無くなれば、菅氏支持は小泉氏にとって“既定路線”だった。

今後の選挙戦において、小泉氏が菅氏を支持した党員票への影響は限定的といえるかもしれない。しかし前回の総裁選で支持した石破氏ではなく、菅氏支持を鮮明にしたことは、今後の“菅内閣人事”へ与える影響は大きい。

さらに言えば無所属の小泉氏が党内基盤を強くするためには、菅氏の持つグループはその大きな足がかりとなるだろう。菅氏にとっても後継として、小泉氏というカードを手に入れることになる。小泉氏は着々とまた一歩、目指す場へ踏み出している。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。