12月1日、すべての従来型健康保険証の有効期限が切れた。
今後は原則、「マイナ保険証」か「資格確認書」で医療機関を受診することになる。
しかしこの間、厚生労働省は『保険証に関する“暫定措置”』を連発している。
医療現場で相次ぐトラブルにその都度対応している形だ。
全国保険医団体連合会(保団連)が実施した「今年8月以降のマイナ保険証利用状況の実態調査」では、回答した全国9580医療機関の7割に「なんらかのトラブル」が発生している。
しかも、今年7月末に国保と後期高齢者の保険証の有効期限が切れたことで、窓口で“いったん10割負担”となる事例が増加しているというのだ。
調査を担当した保団連の上所聡子さんに話を聞いた。
■「いったん10割負担」が倍増
【全国保険医団体連合会 上所聡子さん】
昨年12月に健康保険証の新規発行が停止されたことで、今年7月末、多くの自治体の国民健康保険と後期高齢者医療制度の健康保険証が有効期限を迎えました。
今回の調査は、保険証の有効期限が切れた8月以降の状況を把握するために実施したのですが、窓口で「いったん10割負担」の件数が1年前と比べ2倍近くに増加。3カ月程の間に3403件以上も発生していたのです。
マイナ保険証をめぐるトラブルはまだ多数発生しています。
「カードリーダーの不具合」や「資格情報の無効」などによって、『マイナ保険証で保険情報(資格情報)の確認が出来ない』ケースも数多く起こっています。
そういった場合に備えて、政府は「資格情報のお知らせ」をマイナ保険証とセットで持ち歩くようアナウンスしています。
「資格情報のお知らせ」とは、マイナ保険証の利用登録者に送られるA4サイズの書類で、自分の健康保険の記号・番号などの資格情報が書かれています。
マイナ保険証が不具合等で利用できない時に一緒に提示するためのもので、単体では受診できません。
つまり、仮にマイナ保険証で保険情報(資格情報)の確認が出来ない場合でも、「資格情報のお知らせ」を一緒に提示すれば、保険診療を受けられるというわけです。
しかし残念ながら、このことを正確に理解している人はあまり多くありません。
「いったん10割負担」が増えている背景には、保険証の有効期限が切れたことで、マイナ保険証だけで受診する患者さんが増え(資格情報のお知らせは持っていない状態)、トラブルに見舞われた時に保険情報(資格情報)を確認する手段がなく、やむなく10割支払うケースが増えているのではないかと考えられます。
■“スマホマイナ”に医療機関から「勘弁して」の声
今年9月から新たに「スマートフォンでの保険証利用(スマホマイナ)」が始まりました。
スマホマイナを利用するには、『スマホ対応カードリーダー』が必要です。
しかし、保団連の調査では11月時点で導入している医療機関は27.6%。およそ4分の1程度の医療機関でしかスマホマイナは利用できません。
「導入予定」は15.9%。
「導入しない(16.6%)」と「検討中(38.4%)」が5割を超える結果となりました。
つまり半数以上が「導入に向けた動き」にすら進んでいないのです。
スマホマイナ対応のカードリーダー設置は義務ではないため、今後、導入医療機関が順調に増えていくとは限りません。
医療現場からは「マイナ保険証だけでもトラブルが頻発して、しかも未解決なのに、これ以上は無理」との声が多くあがっています。
また、保団連理事のクリニックでは「導入したものの3か月間で1件の利用もない」という現状もあります。
■「有効期限切れ大量発生」は2027年まで続く
そしてマイナンバーカードの「電子証明書」の有効期限切れも増加しています。
電子証明書とは、オンラインでマイナンバーカードを使用する際に本人であることを電子的に証明するもので、有効期限は5年。
有効期限が切れた状態では、「マイナ保険証」として利用できません。
マイナ関連のキャンペーンが始まったのが2020年9月で、その時にカードを作り2025年度に更新が必要となる人は2768万件とされています。
この状態は2027年まで続き、毎年2000万件を超える有効期限切れが発生します。
手続きは自治体の窓口で行うことになっていて、職員立ち合いのもと、専用機器を利用し、暗証番号の入力などをおこなって更新します。
所要時間はスムーズに進んだ場合は10~15分程度。
しかし、現状、多くの自治体で専用機器の台数が少なく、窓口での混雑がおこっています。
平日にしか手続きできないところも多いので、スムーズにできない人もいるのではないでしょうか。
■“場当たり的対応”が招いた混乱
医療現場での混乱を受け、厚労省はその都度“暫定措置”を出しています。
特例により、来年3月までは「有効期限切れの保険証」「資格確認のお知らせだけ」でも保険診療を受けることができます。
しかしその先はどうなるのでしょうか。
4月は引っ越しや就職で保険資格が変わる人が大勢います。3月末で暫定措置をやめてしまったら、その後、さらに混乱することは必至です。
実際に、今回の調査で「有効期限切れ保険証」や「資格情報のお知らせだけ」で受診した患者さんがいた医療機関は66.6%ありました。
「来年3月までは使えるという暫定措置」が取られていなければ、医療現場も患者さんも大混乱だったのではないでしょうか。
移行期間だから仕方がないという意見もあります。
ただ、「移行期間だからうまくいかないこともある、それが前提だ」というのであれば、「そういった時に誰もが困らない状態を作っておく」ことが、命、健康にかかわる医療現場である以上、絶対に必要ではないかと思います。
(全国保険医団体連合会 上所聡子さん)