12年前、「餃子の王将」の社長が殺害された事件の公判が、26日からいよいよ始まる。
謎多き事件の真相は、どこまで明らかになるのだろうか。
■謎多き事件の関係者を取材
12年前、日本中の大きな注目を集めた、「王将社長射殺事件」。
被告として法廷に立つのは、「一般人にも殺害に及ぶ凶悪な組織」、「脅しが入って、最後は命をとる」という暴力団「工藤会」の男だった。
多くの工藤会組員の犯罪を捜査してきた元警察官は、個人的な理由で犯行を行った可能性について「100%ないと思います。必ず組織的な関与があると思う」としつつ、「無罪もあり得ると思う」と意外な見方をする。
刑事訴訟法の専門家は「筋書きが成り立つか成り立たないか」がポイントになると言いう。
いまだに多くの謎を残すこの事件。
真相は明らかになるのだろうか。関係者を、独自取材した。

■王将社長射殺事件 第一発見者が語る事件当時
2013年、京都・山科区の閑静な住宅街でおきた事件。
胸や腹を4発銃撃され死亡したのは、当時の「王将」社長・大東隆行さんだった。
王将フードサービス 大東隆行社長(当時):駐車場キレイにしとかなね、店まわった時、言われへんし。商売言うのは、朝が勝負ちゃう?昼からはもうそれ惰性やんか。
毎朝、本社前の掃除を日課にしていて、事件があった日も、午前5時半ごろに会社へ向かったという大東さん。
その直後の状況を知る男性に、話を聞くことができた。
富岡正和さん:いつもこんな顔やね。めちゃくちゃ楽しいおじいさんやなと思っていた。お茶目、お茶目。(朝ごはんに)パンとか作ってくれていた。社長が焼いてね。
毎朝、大東さんの趣味であったハトの世話などを任されていた、富岡正和さん(70)。事件の第一発見者です。
事件の第一発見者 富岡正和さん:その日、生まれて初めて寝坊して。あっと思って慌てて行って、そのときに社長を見つけた。うつぶせになって、左手に携帯持って。
駐車場で倒れていた大東さん。富岡さんは懸命に蘇生を試みたが、反応はなかった。
事件の第一発見者 富岡正和さん:心臓マッサージして大声で『社長!社長!』って言うてるから、まわりみんな出てきて。もう瞳孔が開いていた。

■事件から9年 工藤会・傘下組織の幹部を逮捕
一時は「迷宮入り」かとも思われた事件。
ところが発生から9年後、急展開を迎える。
京都府警の会見(2022年):本件被疑者として田中幸雄。この男性1名を逮捕いたしました。
記者リポート:午前4時です。事件発生からおよそ9年。田中容疑者の身柄が山科署に入ります。顔をあげてまっすぐ前を向いています。
逮捕されたのは、工藤会・傘下組織の幹部、田中幸雄被告(逮捕当時56歳)。
現場近くで見つかった、たばこの吸い殻のDNA型が、田中被告のものと一致したことなどが、決め手となった。

■福岡県警のOBが語る工藤会とは?「一般人に対しても殺害に及んでいく」
田中被告が所属していた、工藤会とは。
取材班は、福岡県へ向かった。
まず話を聞いたのは、工藤会捜査に携わった福岡県警のOB2人。
工藤会について、「他の暴力団とは“決定的な違い”がある」と口をそろえる。
福岡県警OB 尾上芳信さん:指定暴力団の中でも唯一の“特定危険指定暴力団”。(他の組でも)抗争事件で対立する組員を殺害することはある。工藤会はみかじめ料を払わない一般人に対しても殺害に及んでいく。
福岡県警OB 藪正孝さん:女性に対しても卑劣な暴力を繰り返してきた。
実際に工藤会は、民間人が被害者となる事件を、いくつも起こしてきた。中には、信じられないようなきっかけで、傷つけられた人もいる。
そんな組織に所属していた、田中被告は、どのような人物だったのか。

■丁寧な人柄…一方で凶暴な一面 「組長に対しての忠誠心はすごかった」と元工藤会組員
取材班は、「音声を使用しない」という条件で、過去に工藤会に所属していた男性と接触。
すると、聞こえてきたのは、意外な印象だった。
元工藤会組員:物腰もやわらかくて、いつもニコニコしていて、ヤクザって感じじゃなかったですね。
2016年に田中被告が所属する組に家宅捜索が入ったときの映像では…。
田中被告:近隣に車はとめていないですか?
捜査員:大丈夫です。
田中被告:いったん全部入れます。うちは応援を呼びません。いる人間で対応します。
捜査員に声を荒げることなく、丁寧に対応している様子が伺える。
その一方で、凶暴な一面も。
過去には、大手ゼネコン社員が乗る車に拳銃を発射する事件を起こし、実刑判決が確定。背景には、組織の関与があったとみられている。
元工藤会組員:組長に対しての忠誠心はすごかった。
「王将事件を起こしたのは田中被告だと思うか?」そう記者が問うと…。
元工藤会組員:彼ならやるだろうなとは思う。
(Q.彼ならというのは?)
元工藤会組員:自分の意思っていうよりも、親分に対しては絶対だったと思います。

■被告と会ったことがある元捜査官は「ヤクザに向いている性格」
捜査の中で田中被告と会ったことがあるという元捜査員も、「仕事」をするときの姿勢について、こう話した。
福岡県警OB 花田英治さん:ヤクザに向いている性格やなとは思った。クヨクヨしてないというか。『工藤会のITとか私が全部している』『私が詳しいんですよ』って自慢しとったもんね。
組織に従順な田中被告が、引き金をひいた「犯人」で間違いはないのか。
ただこの裁判は、そう簡単には、終わりそうもない。

■裁判は弁護側と検察側の全面対決の様相 無罪「あり得る」と元警察官
裁判では弁護側と検察側の、全面対決になると見られている。
田中被告の弁護人:田中さんは、『やっていない』、『指示も受けていない』という趣旨のことを話している。無罪主張だ。
検察側は、犯行を立証できるのか。
多くの工藤会組員の犯罪を暴いてきた元警察官も、「この裁判は難しいものになる」と感じている。
福岡県警OB 藪正孝さん:ちょっと立証面については、厳しいものがあると感じている。
(Q.無罪もありえる?)
福岡県警OB 藪正孝さん:ありえると思う。

■自白や目撃証言なし「間接証拠」のみ 「動機」も不明
専門家も同様に検察側の立証の難しさを指摘する。
近畿大学法学部 辻本典央教授:現場に(DNA型が一致する)たばこの吸い殻が落ちている、吸い殻が落ちているから、ただちに犯人とはならない。少なくとも(それだけで)被告人が射撃を実行したとはいいがたい。
この事件ではこれまで、田中被告のものとDNA型が一致するたばこの吸いがらや、乗り捨てられたバイクは見つかっているが、自白や、目撃証言はなく、いわゆる「間接証拠」のみとなっている。
さらに、最大の謎といえる「動機」も、いまだ不明。
事件後には、王将の創業家一族と、九州の実業家だった男性の間で260億円をこえる「不適切な取引」があり、大東さんがこの問題を解決しようとしていたことが明らかになっているが、関連は分かっていない。
近畿大学法学部 辻本典央教授:被告人が犯人でないとしたら、説明がつかないような事実関係が、検察側の立証に含まれているかどうか、これが1つの基準になる。

■すべての謎が明らかになるのか 26日から裁判始まる
激しいやりとりが予想される裁判。
ただ、残る謎の全てが明らかにならない限り、関係者の気持ちは晴れない。
事件の第一発見者 富岡正和さん:(田中被告は)答えないと思いますわ。ほんまは、事件はよ終わらしたいよ。終わってほしいよ。
(Q.本当に起きた全てのことを知りたい?)
事件の第一発見者 富岡正和さん:思います。
真相解明の糸口は見えるのか。注目の裁判が、26日始まる。
(関西テレビ「newsランナー」2025年11月25日放送)

