ドイツで取材を行っている宮司愛海キャスターが5日、2021年にノーベル平和賞を受賞したフィリピン人ジャーナリストのマリア・レッサさん(62)にインタビューをしました。

ドイツ・ミュンヘンから、宮司愛海キャスターが中継でお伝えします。

ミュンヘンでは、若者たちによる国際会議が開かれています。

その国際会議というのが「One Young World Summit」といいまして、世界各地の18歳から35歳の若者2000人が集結して、様々な課題について議論するというものです。

その規模から、若い人版のダボス会議「ヤングダボス会議」とも呼ばれています。

青井実キャスター:
世界の皆さんはどんな問題意識を持っているんでしょうか?

まず今回のサミットでは、責任あるAI(人工知能)技術や教育、ヘイトと戦うなど5つのテーマが設定されていたんですけれども、実際に参加者の皆さんに話を聞いてみますと、「教育や情報格差について議論を深めたい」というアフリカの方や、「女性の生理の貧困の問題についてのワークショップに参加した」という日本の方がいらっしゃいました。

ウクライナからの参加者もいらっしゃいまして、ウクライナで起きている人道的な危機や終戦後の経済成長についての課題も考えていきたいと話していました。

そしてこのサミットでは、政治家や著名人らがスピーチを行うことなども目玉の1つとなっています。

今回、2021年にノーベル平和賞を受賞したフィリピン人ジャーナリストのマリア・レッサさんも登壇しました。

マリアさんは、CNNのマニラ支局などで記者としてのキャリアを積んだ後に、自身のニュースサイトを立ち上げました。

ただ、当時のドゥテルテ政権の強硬的な姿勢やSNSを駆使した情報操作などを追及する調査報道を続けたために、政権側から圧力をかけられて複数回、逮捕された経験も持っている方です。

こうした弾圧にも負けず、表現の自由を守るために闘い続けてきたことが評価されて、2021年にノーベル平和賞を受賞されました。

そしてマリアさんに今回、特別にインタビューを行うことができました。

日本のメディアの取材に直接応じることは非常にまれということで、貴重なインタビューになっています。

マリアさんがSNSによる分断が起きている社会、そしてフェイクニュースがあふれる現状についてどのように思っているのか、30分にわたるインタビューを行いました。

宮司愛海キャスター:
2021年にノーベル平和賞を受賞されて以来、世界はますます分断が進んでいるように見えます。この状況をどのように見ていますか?

2021年にノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん:
良くなってはいません。むしろ悪化しています。今、私たちは「情報の最終戦争(ハルマゲドン)の中を生きています。真実を巡る戦争です。事実と虚偽の違いを見分けなければなりません。

マリアさんがこう語る理由は、自身の経験にも基づいています。

政府からの弾圧を受けながらも不正について報道を続けていると、ドゥテルテ大統領の支持者がSNSでデマなどを拡散してマリアさんを攻撃します。

SNSによってフェイクニュースが広がり、国民が分断していったことを身をもって経験し、さらにそれを分析しながら調査を続けました。

2021年にノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん:
フィリピンでは2016年に(SNSによる分断が)起きました。ドゥテルテ大統領(当時)の支持派はさらに右傾化し、反対派はさらに左傾化しました。人間同士による議論ではないことで分断が起きたのです。

宮司愛海キャスター:
フェイクニュースがまん延し、社会的分断が拡大する時代ですが、SNSとうまく共存することは可能だと思いますか?

2021年にノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサさん:
嘘がばらまかれ拡散されて事実のように扱われるのを止める法律がなければ、民主主義は死に、ジャーナリズムも死ぬでしょう。

青井実キャスター:
非常に大切なメッセージも伺ったようですが、話を聞いて率直にどう思いましたか?

まず、マリアさんのインタビューに応じてくださる姿勢がとても温かく、チャーミングな方だなというのが印象に残りました。

日本の方もよくご存じで、好きな日本語は「お疲れ様でした」だそうです。

そしてインタビューの中でマリアさんは繰り返し、法整備の重要性について指摘をしていました。

ただ一方で、個人個人ができることに対して目を向けていくと、なかなか現時点では多くはなくて、できることといえば私たちが今、置かれている情報環境がアルゴリズムの中にあって、知らず知らずのうちに偏った情報に触れているかもしれないということを自覚することの重要性を感じています。

それから、SNSサービスなどを提供するプラットフォーム会社に対するルール作りも、働きかけを強めていく必要性があると感じました。

青井実キャスター:
パックン、私たちが気を付けなければならないことはどういうことになりますか?

SPキャスター パトリック・ハーラン氏(パックン):
僕もレッサさんと同じように法整備が必要だなと思います。アメリカ政府はこの辺結構、仕事を放棄していると思います。フェイクとファクトを区別しない。しかも理解しようじゃなくて怒り合おう、ののしり合うような投稿を優先するアルゴリズムに対して、ぜひ規制を作って日本独自のものでいいから世界のプラットフォームを守っていただきたいと思います。

それからマリアさんは、ジャーナリズムが民主主義を守る重要性についても指摘をしていました。

もちろん、それぞれがファクトチェックなどを行うのも必要だと思うんですが、ジャーナリストそしてメディア全体が一体となって立ち上がる重要性を今の局面では感じます。

それからそれによって、国民自身が情報の信頼性を求めていくということにつなげていかなくてはならないとこの取材で感じました。