メダルが一瞬で!驚きの瞬間
銀メダルが一瞬で金メダルに変わる!? 2020年東京オリンピックを象徴する金メダルのデザイン審査から完成の瞬間まで、1年以上にわたって独占密着した。
大会1年前セレモニーで初披露
この記事の画像(12枚)東京オリンピックの開幕まで1年前となった7月24日、IOCのバッハ会長や安倍総理、メダリストなどそうそうたる顔ぶれが集まったセレモニー会場で東京オリンピックのメダルが披露された。
コンセプトは“光と輪”
直径8.5㎝、重さ556グラム。コンセプトは「光と輝き」。無数の光を集め反射させ、その光はアスリートや周りで支えている人たちのエネルギーを象徴しているという。角度を変えると様々な光り方をし、その輝きは世界中の人々が手をつなぐ「輪」もイメージしていている。
硬貨・メダルのプロフェッショナル集団
メダルを製造するのは桜の通り抜けでも有名な大阪市の独立行政法人造幣局。1円から500円まで硬貨の他、数々の記念硬貨や勲章、国民栄誉賞の盾まで製造している。1964年の東京オリンピックのほか、札幌冬季オリンピック、長野冬季オリンピックのメダルも造幣局で作られており、メダルに関してもまさにプロフェッショナル集団だ。
0.01㎜のカッター痕を削る
まずは採用されたデザインをもとに機械で模様を彫り「金型」を作る。この金型をプレス機にセットしてメダルのデザインを浮かび上がらせるのだが、機械で彫り出した金型には目には見えないカッター痕がレコード盤のように残っているのだとか。太さわずか0.01㎜。このカッター痕を顕微鏡を覗きながら極細の道具を使い手作業で1本1本削っていく。
目に見えない程の痕がメダルに影響するのか不思議だが…。
「プレスして物になった時にカッター痕があると微妙な違いが出るんです」
入局以来36年間この作業を担当している土堤内靖さん(55)は前回の東京オリンピックが開催された1964年生まれ。
「何か縁があるのかと思うところはあります(笑)。デザイナーさんの意思を崩さないように作業するのは難しいですが、みんなが注目するオリンピックだけに(メダルの製造も)成功させなければいけないと思います」
3回のプレスで足の指がくっきりに
出来上がった金型をセットしてプレス作業に。1回で一気にデザインを浮かび上がらせるのでなく、3回に分けて少しずつ地金に形を打ち込んでいく。
1回目から3回目を比べるとニケ(勝利の女神)の足指やすねが徐々にくっきりする。
ちなみに銀メダルだと1回目330トン、2回目380トン、3回目470トンと少しずつ圧を強めていくのも確実に模様を浮き上がらせる日本技術のきめ細かさだ。(銅メダルは4回にわけてプレス)
5000個のメダル1つ1つを“手作業”で
一度プレスした地金は堅くなってしまうため、熱を加えて柔らかくする。 800℃で15分間焼かれた地金はすぐに水で冷やした後、表面についた皮膜を洗い落とし再びプレスへ。
「模様に沿って洗わないときれいに膜が取れないんですよ。機械作業と言っても、細かい部分は1つ1つ手作業ですね」(装金課 中村達也さん)
最新技術の導入は進むものの、やはり“職人”の手作業は欠かせない。
「オリンピックもそうだけど、僕らもチームワークで流れるように、プレスする人の負担にならないようになるべく早くいい状態で渡さないと作業が滞ってしまう。時間との闘い」
一瞬で「銀メダル」が「金メダル」になる驚き
3回目のプレス後いくつかの工程を経て、いよいよ金を付着させる最終工程へ。ご存知の方も多いと思うが、金メダルはベースが銀メダルでその上に金がコーティングされている。
見た目は透明な金メッキの液に銀メダルを入れ、電気を通すと…「銀メダル」が一瞬で「金メダル」に変化する!一連の作業の中で一番驚いた場面だ。
「シアン化金カリウムとシアン化カリウムを溶かした液に電気を通すと液体中の金が一瞬で銀メダルに付着するんです」(装金課 北野哲さん)
知識の乏しい記者には説明はなかなか頭に入ってこなかったが、目の前で起きた“化学反応”には感動に近い驚きを感じた。撮影に立ち会っていた大会組織委員会のスタッフからも驚きの声が上がっていた。
東京オリンピック“最初の金メダル”
その後、さらに金を付着させるために金メッキ液に合わせて約2時間投入すると…
こちらが完成した2020年東京オリンピック最初の金メダル。ちなみに競技は「ソフトボール」。
重さは556グラムだが、実際に持ってみると不思議とそれ以上の重みを感じた。
表面(左)には1928年のアムステルダム大会以降、ギリシャ神話に登場する勝利の女神「ニケ」が描かれている。そして裏面(右)が今大会のデザインとなっている。掌の上で角度を変えるたびに放つ様々な輝きは、多様性を示すと共に、世界中の人々が手をつないでいる様子もイメージしているという。
1つのメダルの製作に要するのはおよそ1週間 。 5000個のメダル1つ1つを“職人”たちが手作業で仕上げていく。
日本の“匠の技術”が詰まったメダルが1年後、世界の頂点を極めたアスリートの胸に輝く。
(関連記事:2020東京五輪メダル コンセプトは“光と輪” デザイナーはどんな人?メダルに込めた思い)
(東京オリンピック・パラリンピック担当 一之瀬 登)