「脱帽」か「退去」か 議長命令に応じず現行犯逮捕

宮城県栗原市議会で、議長からの再三の退去命令に応じなかったとして、傍聴席にいた77歳の男性が現行犯逮捕されるという異例の事態が起きた。

男は帽子を着用したまま議会を傍聴していたが、規則に従って「脱帽」を求められると、これを拒否。議長から「退去」を命じられても約40分にわたって居座り、最終的に警察官によって建造物不退去の疑いで逮捕された。

一見すると、ちょっとしたマナー違反やトラブルにも思える出来事が、なぜ「刑事事件」へと発展したのか。専門家に見解を聞いた。

栗原市議会(資料)
栗原市議会(資料)
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傍聴ルール違反が「不退去罪」に?

逮捕されたのは、栗原市内に住む無職の77歳の男。警察によると、9月22日午前11時ごろから、栗原市議会議場の傍聴席において、議長から繰り返し退去を求められたにもかかわらず、約40分間にわたり居座り続けた疑いが持たれている。

当時、男はハンチング帽をかぶったまま傍聴していた。市議会の傍聴規則では「帽子・コート・マフラーなどの着用は禁止」と明記されており、正当な理由がある場合は事前申請が必要とされている。

男は過去にも同様の行動を繰り返していた。7月と9月17日にも帽子をかぶって傍聴しており、17日には議長の脱帽要請に「却下」と声をあげて拒否。最終的に市議会職員に退出させられるという対応が取られていた。

今回は警察に通報があり、駆けつけた警察官が男を現行犯逮捕。取り調べに対しては「していません」などと容疑を否認しているという。

栗原警察署
栗原警察署

弁護士「10年で一度も見たことがない珍しい罪」

刑事事件としては非常に珍しいこのケースについて、仙台市内で刑事弁護を中心に活動する草苅翔平弁護士は次のように語る。

「不退去罪は、私が10年刑事弁護をしてきた中でも、扱ったことが一度もありません。それだけ珍しい罪だと思います」

通常、建物に正当な理由なく侵入した場合は「住居侵入罪」が適用されるが、今回のように「最初は適法に入っていたが、その後退去要請を無視した」ケースでは「不退去罪」が成立する可能性があるという。

「議会には平穏を保つための傍聴規則があります。そのルールを守らず、職員の再三の退去要請にも従わなかったという点で、不退去罪に問われたと考えられます」

新里・鈴木法律事務所 草苅翔平 弁護士
新里・鈴木法律事務所 草苅翔平 弁護士

昭和の「議会闘争」時代には例も…令和の今は「極めて珍しい」

草苅弁護士によると、過去には議会が荒れた「昭和の議会闘争」時代に、退去命令に従わなかった傍聴者や議員をめぐる裁判例があったものの、近年は極めて稀だという。

「昭和の時代には、議場内でのトラブルが裁判になるケースもありました。平成初期にもあったかもしれませんが、令和に入ってからはほとんど聞きません。今回のようなケースは非常に珍しいです」

また、「逮捕」という強制手段が取られたこと自体についても、次のように語った。

「過去に職員の声かけで退出していたのに、今回は40分間にわたって居座り続けた。もしかすると、声を荒げるなど、職員や議会に対して強い態度をとったのかもしれません。そうした前回との違いが、警察の判断に影響した可能性はあります」

起訴される可能性は?今後の焦点

不退去罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」とされている。ただし草苅弁護士は、今回の件が起訴に至るかは慎重な判断がされるだろうと見ている。

「初犯であれば、いきなり起訴というのは考えにくいと思います。仮に起訴されても、略式罰金で済む可能性が高いです」

今後、警察は男の動機や当日のやりとりの詳細を調べ、起訴の可否について検察が判断することになる。

ハンチング帽をめぐって 社会が向き合うべきもの

今回の事案は、たかが「帽子」、されど「帽子」。
服装を理由に議会から排除されることの是非、議会の規則は誰のためにあるのか。そして、公共空間での「ルールと自由」のバランスとは何か。

刑法という硬直的な線引きが、議会という民主主義の場で適用されることの意味を、社会全体が問い直す必要があるのかもしれない。

栗原市議会の傍聴席 ※容疑者とは関係ありません※画像を一部加工しています
栗原市議会の傍聴席 ※容疑者とは関係ありません※画像を一部加工しています
仙台放送
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