今、関心の高い話題を詳しく解説する急上昇ニュースのコーナー。9月3日は物価が高騰する中、過去最大の引き上げが見込まれる最低賃金についてです。地域経済にどのような影響をもたらすのか。担当は森岡記者です。

(森岡紗衣記者)
「最低賃金が1000円を超える時代がいよいよ岡山・香川にもやってきます。岡山では12月1日以降、現在の時給982円から65円上がって1047円に、香川では10月18日以降、現在の時給970円から66円上がって1036円となる見通しです。

いずれも最低賃金を時給だけで示すようになった2002年以降最大の引き上げ額となりました。物価高に対応するため、岡山・香川でも大きな節目を迎えたと言えます」

◆最低賃金はどう決まる?

「そもそも、最低賃金は毎年、国の目安をもとに、都道府県の審議会で議論されています。岡山・香川ともに8月に開かれた審議会では労働者側が生活を守るために大幅な引き上げを求めました。

一方、経営を担う使用者側は、人件費の負担が増えるため反発し、労使の間で意見が対立しました。結論が出るまでに数日を要しましたが、結果として“過去最大の引き上げ”で決着しました。この決着について国や労使関係者、専門家を取材しました」

◆「最低賃金」の答申受けた岡山労働局長「食料品など物価高騰の現状が反映された」

労使間の決着を経て答申を受け取った国の出先機関、岡山労働局の森實久美子局長です。今回の議論を振り返りました。

(岡山労働局 森實久美子局長)
「議論の中で注目されたのが食料品など、物価高騰の影響が大きいという点。そういった現状が反映された額になったと思う」

物価高騰の中、この決着に対して評価をしています。

◆“1000円超”に労働者は「このまま上がってもらえたら」と期待の声

労働者側の意見も聞いてみました。

(30代・会社員)
「1000円超えたことはうれしく思う。まだ大阪や東京と比べると低い方になるので、このまま上がってもらえたら。お昼を食べたが、食費が年々上がってきていると感じる」
(10代・専門学校生)
「上がったのは良いことだと思うが、もう少し上げてもらいたい。物価高や奨学金をもらっているので将来的にも(上げてもらいたい)」

期待の声を上げる人が多く見られました。

◆恩恵はあるが…気になる“年収の壁” 専門家は「中期的に見て自分にとって良いことなのか考えた方がいい」

一方、地域経済に詳しい専門家は・・・

(岡山大学 中村良平名誉教授)
「消費者、特にパートで働く人にとって最低賃金が上がるということは使えるお金が増えるからありがたいことだと思うが、中長期的には必ずしもメリットが100%というわけではない」

懸念の背景にあるのが一定の年収に達すると課税され、働き控えにつながるとされる「年収の壁」の問題です。

(岡山大学 中村良平名誉教授)
「年収の壁が気になって労働時間を抑える人も出てくるので、不安を持っている人も多い。恩恵はあるが、中期的に見て本当にこれが自分にとって良いことなのか考えた方がいい」

賃金が上がっても働き控えにより収入アップになるとは限らないのです。

◆「非常に厳しい数字」・・・賃金アップに不安を抱く「使用者」の本音

そして大きな不安を抱くのが使用者側です。

(使用者代表委員 西谷治朗さん)
「使用者側にとって非常に厳しい数字だと思っている。2024年も50円の引き上げだったがさらに急激に上回るということは、地元の中小・小規模事業者にとって非常に厳しい数字」

一部の労働者からも懸念の声が上がっています。

(20代学生 アルバイト)
「うれしいとは思うが、今、物価高で店も運営が大変なので、従業員の給料が上がって店が回っていくのかなと思う」

(20代・会社員)
「急に上がったら大変なところもあると思うので気になる」

◆地方における使用者側を巡る環境は厳しく…対策によってはモノの値段に転嫁の恐れ

専門家は、地方における使用者側を巡る環境は、さらに厳しくなると指摘します。

(岡山大学 中村良平名誉教授)
「岡山県は都市部を中心に最低賃金の基準が決まっていく。どうしても県北は産業基盤が弱いし生産性も低い。生産性を上げるためにデジタル化を進めるとか、雇用調整をやっていかざるを得ない。働き手に取っては就業機会が減るので同じ県内でも地域間の格差が出てくるのではないか」

そして使用者側が様々な対策を進めると、影響を受けるのは多くの消費者だと指摘します。

(岡山大学 中村良平名誉教授)
「モノやサービスの値段に転嫁されることが怖い。消費者に跳ね返ってくる。経済全体の影響を見極め評価しながらバランスの取れた施策をしていくことが必要」

◆「最低賃金の引き上げ」は“持続可能な地域経済の未来”をどう描くか

(森岡紗衣記者)
「最低賃金の引き上げは、私たちの暮らしをより良くするためのものですが、単純に金額が上がれば良いというわけではありません。

岡山・香川の過去10年の推移を見ていきます。いずれも右肩上がりですが、全国平均を下回る水準でした。ただ、その差は10年でやや縮小しています。特に、ここ2年は縮小幅が大きくなっていて、岡山・香川でも深刻な物価高に機敏に対応しているのが分かります。

経済を回すという意味では、賃金が上がらない社会から、物価高に伴って賃金が上がる社会になったことは評価されます。ただ物価も、賃金も上がり続けるのが良いというものではありません。賃金の引き上げは労働者と使用者という単純な問題だけでなく持続可能な地域経済の未来をどう描くかという問題です。私たちの働き方や地域経済の在り方を今一度考えていく必要があります」

岡山放送
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