北海道東部に広がる釧路湿原で、土煙を上げて工事を進めるショベルカー。

特別天然記念物に指定されたタンチョウなど、希少な生物が多く生息する日本最大の湿原・釧路湿原の周辺でメガソーラーの工事が進み、その生態系が脅かされる事態になっている。
釧路湿原周辺で相次ぐ「メガソーラー」建設に野口健さんも危機感
釧路湿原の周辺では今、大規模な太陽光発電施設「メガソーラー」の建設が相次いでいる。

すでにあたり一面、ソーラーパネルだらけになっている場所に加え、新たな建設も進んでいて、広大な面積の工事現場では、ショベルカーが木を押し倒す様子や大量の土砂を下すダンプカーも確認できた。
現場から300メートルほどの位置にある猛禽類医学研究所で気象動物の保全活動に取り組む齊藤慶輔代表に案内してもらうと、

猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
すぐ隣、工事現場ですけど見てください、これ。このコンパネ(コンクリートパネル)が浮いているの分かりますでしょうか。こういうところに土砂を埋めちゃってるわけなんですよね。
25日朝の工事現場では、湿地とみられる地面の上に大きな板のようなものを敷く様子が確認できた。
また8月2日には、工事現場のすぐそばで餌を探すタンチョウの親子が撮影されるなど、生息地に近いところで工事が行われている。

猛禽類医学研究所・齊藤慶輔代表:
ことし、周辺で生まれたと思われるタンチョウのひなが、近いところではこの事業地から150メートルの近さまで近寄って定着して餌を取ったりしてるんですよ。彼らの生活をリスペクトして、今まで通りちゃんと自活できる環境を保全する、これが重要なんです。
こうした状況に、アルピニストの野口健さんがSNSで危機感をあらわにした。

「こんなことが許されるのか。メガソーラーは犠牲があまりに大きすぎる」 (18日のX投稿)
「山奥でメガソーラーが建設されれば森林が伐採され、クマなどの野生動物が棲家(すみか)を失い人里に降りてきてしまうのは容易に想像がつく」(23日のX投稿)
釧路市は「ノーモア メガソーラー」を宣言
著名人からも批判の声が相次いでいるこの問題。

湿原の周辺でメガソーラー開発が相次ぐ中、釧路市は2025年6月、「ノーモア メガソーラー」を宣言した。
希少生物の生息地が脅かされた結果、すみかを追われたヒグマなどが人里で被害をもたらす可能性もあるとしている。
ではなぜ、メガソーラーの建設が進んでいるのか。
釧路市市民環境部環境保全課・西村利春さんは、「釧路市におきましては、釧路湿原国立公園内においては太陽光パネルの設置は進んでおりませんけれども、その周辺の地域で太陽光パネルの設置が進んでいる状況にございます」と説明する。

今回の工事現場は、国立公園の外の民有地であるため、規制がかからない区域。
この土地を購入した大阪の会社を取材すると、「ガイドラインに沿った申請を市が受理したため、工事を進めている」と答えていて、また釧路市も受理したことを認めている。
それでは湿原周辺で工事を進めることが、タンチョウの生息に影響しないのだろうか?

メガソーラーの開発会社からヒアリングを受けたというタンチョウの保護を研究するグループの百瀬邦和理事長は 、「タンチョウにとって営巣例はないです。過去何年の間のわれわれの調査では記録した例はありません。餌場の一部は失われるけれども、それは大したことではない」と話す。
しかし、希少動物の保全活動に取り組む齊藤代表は、「ただヒアリングのみやっただけで、タンチョウについてもしっかりとした、必要十分な現地調査がなされていないんですね。本当に脆弱(ぜいじゃく)な湿地環境を埋め立てるなんてことをしたら、本当に取り返しのつかないことをしてしまうと思ってるんですよね」と問題を指摘する。

番組の取材に対し、釧路市の鶴間秀典市長は「こういった太陽光発電ですね、もうそろそろ止めなければ、自然が本当に狭まっていきますし…」と話した。

釧路市は、希少生物の安全措置を義務づけるほか、ソーラーパネルの建設を制限するため許可制にするなどの内容を盛り込んだ条例を9月、議会に提出する予定。
(「イット!」8月25日放送より)