伊那谷で林業に取り組む外国人がいます。中学校のALTから林業の世界に飛び込んだアメリカ出身の男性が、一人前を目指し奮闘中です。関西弁の日本語と明るい性格で職場からも愛されています。

樹齢60年ほどのカラマツ林。チェーンソーで幹に三角形の「受け口」を作り、倒れる方向を見定め、反対側を切ると、30m近い木が倒れました。

ドーン・サムエル・フランシスさん(32)、通称・サム。アメリカ出身の新人フォレストワーカーです。

ドーン・サムエル・フランシスさん:
「長野はとても美しくて、全てが素晴らしい。水も、空気も、木々の香りも、本当に美しい場所で幸せな気持ちになる。この仕事、ほんまにいいから、おれ、ずっとやりたい」


サムさんは2023年、長野県伊那市の平沢林産に入社。一人前を目指し日々、奮闘中です。

職場の先輩:
「やる気があるのでどんどん覚えてくれるので、上達したと思うよ」

サムさん:
「新しい人は危ない。周りの人の仕事も危なくなっちゃうから、ほんまに。すぐ(基本を)習わないと」

流ちょうな関西弁を話すサムさん。一体何者なのでしょうか。

自宅を訪ねると、庭に20羽ほどのニワトリが。

3人の子どもたちと、おからや米ぬかを混ぜて餌作り。

サムさんは妻の真菜さん、長男・純登(すみと)ちゃん(6)、次男・ウィリアムちゃん(3)、長女・望央(みお)ちゃん(11カ月)と長野県宮田村の古民家で暮らしています。

できた餌を鶏小屋へ。

長男・純登ちゃん:
「エサがあるってわかったから、ついてきてる」

のどかな暮らしを楽しんでいます。

サムさん:
「出身はちょっと長野っぽいところ、ペンシルベニア州。涼しいところ、めっちゃいい、自然あるところ。(自分は)外の仕事やる、子どもは(外で)毎日遊んでる。めっちゃ楽しいです」


ペンシルベニア州出身のサムさん。地元の大学で教育や歴史を学び、交換留学生の真菜さんと出会いました。

その後、真菜さんがいる奈良の大学に留学し、2015年に結婚。英会話教室で働きました。

日本の印象は?

サムさん:
「すごく自由なところだと思った。公園とか、安全、全然心配しない。日本のドーナツおいしい、うどんおいしい、ピザおいしい、全部うまい。ブラックサンダー(菓子)とか(笑)」

妻・真菜さん:
「どこに行っても、誰とでも仲良くおしゃべりできるタイプというか、盛り上がるというか」

ただ、奈良での生活にも悩みが―。

サムさん:
「マンションでしたから、休みの日、子どもとどうするって思ってた。家の中とか、テレビとか、それは嫌だと思った」


2023年、コロナ禍をきっかけに信州へ移住。

宮田村の築100年ほどの古民家をリフォームしました。

サムさん:
「『古民家』、この言葉は知らなかったけど、古い、伝統的なところが欲しかった。家を見つけた時、柱は全部隠れてた。だからびっくりしました、こんなきれいな柱」

子どもたちも村の生活にすっかりなじんでいます。

長男・純登ちゃん:
「レタスとピーマンとパプリカとか、見て、唐辛子なってるじゃん」
「桑の木!(桑の実)ぼろっと採れたら甘いってことで、これ、採れたからおいしいと思うよ。あまい!」

2026年からはコメ作りもする予定です。

サムさん:
「おれ日本のコメ、ライスめっちゃおいしいから、自分のができたら、めっちゃうれしい」

移住後は中学校で外国語指導助手・ALTとして働いていましたが、次第に「自然に携わる仕事がしたい」という気持ちが強くなります。

サムさん:
「長野県、伊那谷の山はめっちゃきれいだから、山の中で何かやりたい」


7月2日―。

朝7時半、平沢林産に出社したサムさん。この日は、造成前の土地で不要な木の伐採作業。

「伊那谷の自然に関わる仕事がしたい」という思いを持ったサムさんは「林業の世界」に飛び込みました。

2年前、偶然、飲食店の窓から平沢林産の社員の伐採作業を見かけ、くぎ付けになったことがきっかけです。

サムさん:
「帰ってからずっと考えてた。でも『よし、やる!」ってその日の夕方に電話して」

平沢林産・平沢崇専務:
「すごくテンション高い電話がかかってきて、『僕やりたいでーす!』って。半信半疑ではありましたけど、一度来てお話しする?ってことで、そこからはやる気があるんだろうなと」

すぐに入社が決まり今は勉強の日々です。


この日の午後は箕輪町の山林へ。

倒木を片づけ、倒れる危険があるカラマツを伐採します。

林業は担い手の確保と育成が課題で、国は3年間で必要な知識や技術を教える研修制度「緑の雇用」で就業を後押ししています。


サムさんはその2年目。

重機を扱う資格を取るため、講習を受けつつ現場では先輩たちから技術を学びます。

先輩:
「きのう講習で寝とったもんで」

サムさん:
「寝てへんよ!寝てへん!寝てる人と、俺がちゃんと頑張ってるのは、(レベルが)一緒くらいだから」

すっかり打ち解けたサムさんですが、伐採が始まれば真剣なまなざしに。

高さ約30m、幹の直径約40cmのカラマツを伐採。

サムさん:
「(うまく切れました?)まあまあ、最初の1本はツルを残しすぎた」

切り口のバランスが悪く、幹が少し割けてしまいました。

指導にあたる先輩の小牧義裕さん。技術はもちろんですが何より「安全確保の徹底」を教えています。

サムさん:
「小牧さんはよく、おれがやってる危ないことを教える」

平沢林産・小牧義裕さん:
「最初はね、何が危ないか分からないから」

サムさん:
「全然分からなかったから、『サム!死ぬぞ!』」

小牧義裕さん:
「最初に安全に作業してもらうことが大事なので」

この道27年の小牧さんは、サムさんの憧れです。

サムさん:
「小牧さんは全部の仕事するから、重機!クレーン!ヒー イズ ザ・マン!林業マン!(そうなりたい?)うん、絶対!でも小牧さんのレベルまでなかなかいけないと思う。(頑張って!)はい、頑張ります!スーパーマンに!」


2本目以降は順調に伐採。

今は基本の作業だけですが、今後は難易度の高い伐採や重機を使う作業にも挑戦しないといけません。

一人前になるにはまだまだ遠い道のりですが、サムさんは楽しみながら一歩ずつ前に進んでいます。

サムさん:
「林業ははすばらしい!仲間と外で仕事をするのは楽しい!すべてがいい!」

この日の作業は午後4時半ごろ終了。

ドーン・サムエル・フランシスさん:
「(終了ですか?)おれ、よく時間分からん!それもめっちゃいいポイント。この仕事、時計がない。おれ、それ大好きです!」

愛する家族と、熱中できる仕事。伊那谷の自然の中で、サムさんの奮闘が続きます。

長野放送
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