鉄道と経済 仙台を見つめた森永さんのまなざし
「仙台はまだ大都市ではない」。そう語ったのは、経済アナリストとしてテレビやラジオで活躍した森永卓郎さんだった。
生前、鉄道ファンとしても知られた森永さんが、2015年の仙台市地下鉄・東西線開業に寄せて語った提言と警鐘。その内容はいま、都市交通と地方経済の未来に向けた「宿題」のようにも響く。
森永さんは2025年1月28日、がんのため67歳で亡くなった。訃報から半年。あらためて、あの時の言葉に耳を傾けたい。

「東西線開通でようやく仙台は“一人前の大都市”に」
2015年12月、仙台市地下鉄・東西線の開業に際し、森永さんは仙台放送の取材に応じていた。
森永卓郎さん:
「仙台は南北線はあったが、一方向に一部の乗客を運ぶだけだった。面的な展開をしないと、大きな都市交通としての機能は担えない」
「東西線の開通によって、ようやく仙台が“一人前の大都市”になったと思う」
弟の勤務地が仙台にあったこともあり、森永さんは幾度となく仙台を訪れていた。都市交通に加え、まちづくりや経済の視点からも仙台の将来に注目していた。

「移動手段の整備は、産学官連携の基盤にも」
森永さんは、東西線の開業によって生まれる新たな可能性にも注目していた。特に、大学や研究機関が多く集まる仙台において、移動手段の整備は研究や産業振興の追い風になると語っていた。
森永卓郎さん:
「研究を企業だけでやるという時代ではなくなった。役所と大学と企業が頻繁に交流し、新しい研究成果を売るという形が主流になりつつある。そういう意味では、いい移動の手段が確保できたと思う」
都市交通の整備は、単なる利便性の向上だけでなく、地域の産業基盤や知的資本の活用にも直結するというのが森永さんの見立てだった。

「仙台なら“失敗しない鉄道”になり得る」
さらに、当時から議論されていた東西線の経営赤字リスクについても、森永さんは次のように冷静に分析していた。
森永卓郎さん:
「東日本大震災以降、東北の経済はますます仙台集中を強めている。他の県で同じことをやったら不良債権化というリスクはあったかもしれませんが、仙台の場合はあり得ないと思っている」
一部で懸念されていた“過大投資”ではなく、仙台という都市の特性を活かした成長の土台になりうると位置づけていた。

「地下鉄に“エヴァ発想”を」
森永さんは、鉄道事業が単体で利益を生む時代ではなくなっているとしたうえで、「どう活用するか」に焦点を当てるべきだと説いていた。
森永卓郎さん:
「単に鉄道だけでビジネスしようと思わない方がいい。基盤ができたのだから、それをきっかけにいろんなビジネスに展開していく。トータルとしてコストを賄う発想が必要だ」
その具体例として、森永さんが言及したのがアニメと交通を融合させた企画列車だった。
「あまり人が乗っていない山陽新幹線を、エヴァンゲリオンを使用しただけで、新大阪のホームに人があふれている」
2015年11月に運行を開始した「エヴァ新幹線」は、山陽新幹線の全線開業40周年と、人気アニメ「エヴァンゲリオン」放映開始20周年を記念して企画されたもの。主人公が搭乗する「エヴァ初号機」を模した外装や、作品世界を再現した内装がファンの心をつかみ、新幹線の利用促進につながった。
仙台市地下鉄・東西線もまた、地域資源やコンテンツとの連携によって、ただの「交通インフラ」ではなく、人を引き寄せる“場”として機能し得ることを、森永さんは示唆していた。
森永卓郎さん:
「東西線の開業は、単なる基盤作り。本当の経済効果は、その上にどんなビジネスを乗せるか。これからはアイデアと知恵の勝負になる」

2023年度の乗客数はコロナ前超えも 収支は依然赤字
仙台市交通局の2023年度決算によると、地下鉄東西線の1日平均乗客数は前年度比10.2%増の8万2938人となり、コロナ前の2019年度を上回った。南北線も含めた乗車料収入は前年度比9.7%増の約155億円だった。
一方で、物価高騰の影響なども重なり、収支は8年連続の赤字決算となった。
イベント時に合わせた1日乗車券の導入など、需要喚起の取り組みは進んでいるが、運営の持続性と財政健全化の両立という課題は依然として残されている。
こうした状況は、まさに森永さんが語った「運行そのものではなく、何を“乗せる”か」という提言の重みをあらためて浮き彫りにしている。

森永卓郎さん プロフィール
経済アナリストの森永卓郎さんは、2025年1月28日、原発不明がんのため埼玉県所沢市の自宅で死去。67歳だった。東京都出身。
東京大学卒業後、日本専売公社(現・日本たばこ産業)を経て、独協大学教授やシンクタンク研究員として活動。2003年の著書『年収300万円時代を生き抜く経済学』がベストセラーとなり、わかりやすく暮らしに根ざした経済解説に定評があった。
軽妙な語り口でテレビやラジオにも多数出演。2023年にがんを公表した後も、亡くなる前日までラジオ番組に出演を続けた。
