令和の時代に“スパルタ修業”。

「宮大工」になるための修業をする塾が大阪にあります。

塾では、スケジュールは分刻み、個室はなく大部屋で仲間たちと寝食を共にし、携帯電話はもちろん、私語も一切禁止。

個人のスペースは、畳1畳分と、衣装ケースだけ。

厳しい環境で伝統を守る技を学んでいます。


■文化財の修復作業 日本の伝統を守る宮大工への道

京都の市街地を望む高台に建つ寺で、江戸時代から続く文化財の修復作業が行われていました。

【宮大工養成塾 大阪道場 金田優棟梁】「ここ測れ!はよ!書かんでええ!」

指示を飛ばすのは金田優さん(39)。宮大工の棟梁であり、宮大工の卵を指導中です。

【金田棟梁】「何ですか?これは本気なんですか?」
【塾生】「本気じゃない…」

日本の伝統を守る宮大工。その道は決して楽なものではありません。修業は、“令和の常識”ではありえないものでした。

■私語厳禁、携帯禁止、娯楽なし…厳しい環境で宮大工を学ぶ塾

金田さんが2016年に開いた、大阪府太子町にある「宮大工養成塾 大阪道場」。

全寮制で3年間の共同生活。

朝の午前4時半から、塾生一同で声を張り上げ、1日が始まります。

「思いやりのある人から仕事があります!自分の立場を理解できる人から仕事があります」

スケジュールは分刻みで、個室はなく、個人のスペースは、畳1畳分と、衣装ケースだけ。

大部屋で寝食を共にし、プライベートは一切ありません。私語も禁止。携帯電話も禁止。娯楽もありません。

厳しい環境ですが、ここは、年間75万円を払って学ぶ「塾」なのです。

■とにかく実践 「今のうちにあがいて」と棟梁

【金田棟梁】「ここから仕上げて、両側の面と」

ここの特徴は、とにかく実践経験を積めること。

例えば、お寺の棚になる、ヒノキの板の仕上げ…

【金田棟梁】「何で右手に軍手しているの?」
【石井誠人さん(21)】「あ、すみません」

3年生ですが、まだまだ頼りない石井さん。30分ほどのはずの作業が、いつまでも終わらず、それどころか、削りすぎて厚みが足りなくなってしまいました。

【石井誠人さん】「削りすぎてしまって、すみません」
【金田棟梁】「作り直してください」
【石井誠人さん】「すみません」

【金田棟梁】「板なので、まだ何とかなる。もっと太い材料は簡単に交換と言えない。それを任せられないので、今のうちにあがいてもらって」

樹齢70年のヒノキの板。4万円もする高級品でしたが、まな板になりました。

【石井誠人さん】「くっそ…」

■「引きこもりニートみたいな…」 宮大工に憧れ道場に

石井さんは、ものづくりが好きで宮大工への憧れから、この道場に。

【石井誠人さん】「家でずっとゲームしかしてなかった。“引きこもりニート”みたいなことしてました」

石井さんが食事の準備をしている所に、金田さんがやってきました。

【金田棟梁】「何これ?」
【石井誠人さん】「(大根)厚く切りすぎた」
【金田棟梁】「はぁ?はぁ?何やってんの?洗ってないし、しかも」
【石井誠人さん】「厚い部分はとらないといけない」
【金田棟梁】「ここ?とったらあかんやん。当たり前やん、バカじゃないの?(笑)」

■「内弟子制度」は離職率9割 後進の育成に立ち上がった「宮大工養成塾」

高校を卒業した後、宮大工の世界に入った金田さん。

師匠の家に住み込み、雑用をこなしながら修行する「内弟子制度」が当たり前でした。しかし、今の時代、若者が耐えられず、離職率は9割と、後進の育成が課題です。

さらに、“発注側”の神社仏閣も、地方では経営難で、修繕費の工面に苦労しているのが現実です。

【金田棟梁】「宮城県角田市の震災復興に行き、休みの日に神社を見た時、地方の神社仏閣はボロボロ。 どうやって直そうかなって。若い宮大工を目指す人たちを集めて、何とかできないかと」

宮大工を目指す若者たちと、神社仏閣を結び付けることで、技術と文化財を後世に残そうと、2016年に養成塾を立ち上げました。

【金田棟梁】「塾生から授業料を頂く。雇うわけではない。その授業料を使って、寺・神社の工事金額の不足分を補う、それで再生していく。若い子たちに、その代わりにチャンスをあげて下さい」

■合宿で宿題忘れ…厳しいときは厳しく

この日は、全国5カ所にある養成塾から、塾生が集う合宿です。

【金田棟梁】「これから春季合同合宿始めます。先に宿題、ここ出しといてくださいね」

優しさだけでは人は育ちません。厳しいときは厳しく接します。

【金田棟梁】「金輪継ぎの宿題は?」
【3年生 片山奨悟さん(20)】「えっと…自習の段取りが悪くて…」
【金田棟梁】「今まで持ってきたことありますか?」
【片山奨悟さん】「ない」 

当たり前のことができていないと…。

【金田棟梁】「何をするの?何するんですか?何しにここに来たの?自分がやる気がないわけやろ?自分で持ってきてない。やることない」

みな、合宿の新たな課題にとりかかる横で、片山さんが遅れを取り戻そうと「宿題」を始めると…。

【金田棟梁】「お前何してんねん。そんなの自習でやるねん。お前やりだしたら、皆やりだすやんけ。悪い影響与えるな。やってる人の作業見とけ」

■頭角を現す3年生 韓国出身の佃さん

塾生の中で頭角を現すのが、3年生の佃(つくだ)さん。韓国で生まれ育ち、日本人のお母さんの勧めで宮大工の道へ。

【金田棟梁】「買い出し行ってくる」
【佃周亮さん(21)】「はい!」
【金田棟梁】「1年生終わったら見たって」
【佃周亮さん】「はい!」

日本語もままならない状態で来日して丸2年。同期の中で一番、上達しました。

早々に課題を全て終わらせ、1年生のもとに…。

【佃周亮さん】「ど真ん中狙っていかないと、きれいな仕事はできない。墨付けミスったら終わり。『芯墨』つけていきましょう」

■私語厳禁”解除”合宿の夜も… 宿題せず涙の塾生は「今からでも頑張るしかない」

合宿の夜にはバーベキューも。私語厳禁の掟も、この日だけは特別です。

一方、宿題をしていなかった片山さんは…。

【片山奨悟さん】「俺は(棟梁に)気を遣われている。できてなさすぎて。今からでもいいから頑張るしかない」

■「技」だけではなく「先人たちの技術」、「人々の信仰の歴史を感じ取る」

棟梁の金田さんが伝えたいのは、「技」だけではありません。

塾生を連れてきたのは、奈良・吉野山にある、世界遺産の金峯山寺。

宮大工の歴史は長く、飛鳥時代から1400年にわたり、師匠から弟子に、脈々と受け継がれてきました。

【金田棟梁】「四手先組み物であるという特殊例であることに気づかないとダメ。だいたい三手先で構成するが、四手ださないといけないぐらい、屋根を大きく」

先人たちの作品に込められた技術と、人々の信仰の歴史を感じ取ることも大切です。

【金田棟梁】「劣等感しかない。なんという感性の持ち主、なんという度胸があって、これだけのものを作ったのか。我々は便利になっているはずなのに、到底その上を行くことはできない」

■過信、怠慢…“失敗の緊張感”は実戦でしか学べない

5月。佃さんが木を担ぎ、向かったのは、京都・東山区のお寺の修復。

【金田棟梁】「文政6年(1823年)、天保大飢饉(ききん)の前ですね」

200年前の柱を継ぐ仕事。金田さんが、この大役を任せたのは佃さんです。

(Q.古材に墨付けしたことある?)
【佃周亮さん】「ないです。きょうが最初。現場仕事いっぱいしている僕からしたら、これの方が慣れてはいる」

朽ちた古い柱も、使える部分を残して修復するからこそ、文化財として後世に残っていくのです。

江戸時代の宮大工が建てた柱に、新しい木を組み上げます。

しかし問題が…それぞれの中心が合いません。

【佃周亮さん】「この柱がこう…」
【金田棟梁】「墨出したんじゃないの?『芯墨』」 
【佃周亮さん】「はい?」
【金田棟梁】「『芯墨』出してないの?」
【佃周亮さん】「出してない…」
【金田棟梁】「出さなあかんやつを出してなかったら、無理じゃないですか?」
【佃周亮さん】「はい」
【金田棟梁】「無理じゃないですか?」
【佃周亮さん】「はい…」
【金田棟梁】「過信・怠慢がこういう結果になります。ぶっつけ本番でできると思った?」
【佃周亮さん】「そこまで考えてなかった」
【金田棟梁】「バカだね」
【佃周亮さん】「はい」

【金田棟梁】「古いものなるだけ残したいというのと、塾生の成長を考えてやってみたんですが…。失敗の緊張感、これを学べるのは実践しかない」

【金田棟梁】「何ですか?」
【佃周亮さん】「自分の準備不足で、同じことを何回もミスしてしまって、すみません」
【金田棟梁】「僕に謝られても、こっち(木)に謝らないと」

1週間後、新品の柱が入ります。

【金田棟梁】「よし」

今度は、棟梁の金田さんが仕上げました。

【佃周亮さん】「うれしいことは、うれしいんですけど、もっと学べたな、自分で考えてやってたら…」

未来を背負う、令和の宮大工たち。

「責任感のある人から仕事があります」

1400年続く伝統の道のりを、一歩ずつ進んでいます。

(関西テレビ「newsランナー」2025年7月22日放送)

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