魚介類の不漁や、夏の猛暑など異常気象の原因として指摘されてきたのが、太平洋沖の黒潮の流れの変化、「黒潮大蛇行」だ。2025年5月、ついに「終息の兆しがある」と発表されたが、かつての豊かな海に戻るのは、容易なことではないようだ。

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■『黒潮大蛇行』ついに終息か?漁師からは“期待”も

三重県尾鷲市沖の太平洋、沖合およそ2キロの定置網から、大量の魚が引き揚げられていた。

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春から初夏にかけては、サバの水揚げの最盛期で、一見、大漁のようにも見えるが、取れたのは小さなアジばかりで、お目当てのサバは、ほとんど入っていない。

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尾鷲市の漁師:
「(数は)少ない。自然のものだから分からないですね」

尾鷲市では2016年、年間835トンあったサバの漁獲量が、2022年には5分の1以下に減少した。その原因として考えられているのが「黒潮大蛇行」だ。

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太平洋側を流れる暖かい黒潮は、日本列島に沿うように流れていたが、2017年の夏から、紀伊半島から南に離れる現象が続いている。これを“黒潮大蛇行”と呼ぶ。

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黒潮大蛇行は、過去最長の7年9カ月続き、サバなどの漁獲量に影響を与えるだけでなく、近年、猛暑の一因ともされてきた。

しかし、気象庁は2025年5月、これまで続いていた黒潮大蛇行が、5月8日の時点でみられないとして、「終息する兆しがある」と発表した。

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8月に再び調査し、この状態が続いていれば、正式に終息を発表するという。

尾鷲の漁師:
「黒潮大蛇行が終息して、来年の3月4月、ブリの豊漁があればいいと思います」

別の漁師:
「どかーんと獲って、サバ100トンとか、高価な魚がばーっと来てくれたら最高です」

■シラスウナギの『謎の豊漁』 黒潮大蛇行の兆候か

2025年3月、岐阜県海津市を流れる揖斐川の支流で、シラスウナギ漁が行われていた。暗闇の中、透明なシラスウナギを、網ですくっていく。

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毎年2月から4月に漁が行われるが、2025年は近年にない豊漁だった。

漁師の伊藤肇さん:
「いつもの年のこと思ったら想像以上にたくさんいました。何十年に1回あるかないかです。100倍くらいは、いってるんじゃないかな」

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岐阜県では2024年、わずか5.5キロだった漁獲量が、2025年は138.4キロとおよそ25倍となった。この豊漁が、黒潮大蛇行の終息と関連があるとも言われている。

漁師の伊藤肇さん:
「黒潮の流れが陸の方にきたもんで、流れが変わったので、シラスがたくさん取れたと言う事だと思います。それに乗って上ってくる感じじゃないかなと思ってますけど」

二ホンウナギは太平洋のマリアナ海溝で産卵し、海流に乗って移動しながら、シラスウナギとなり、黒潮に乗って日本にやってくる。

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黒潮の流れが再び陸の近くを流れるようになったことで、東海地方で獲れるシラスウナギが増えたのではないかとも考えられている。

■荒れ果てた海…伊勢志摩の海女も「2~3年アワビ見たことない」

三重大学大学院の松田浩一教授の研究チームは、4年前から志摩半島沿岸で海底の観察を続けている。

教授自ら海に潜り、海底に生える海藻の生育状況を調査すると、岩場には、海藻がほとんど生えていない。

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10年前は青々とした海藻に覆われた豊かな海だったが、今はごつごつとした岩が目立ち、寂しい姿に変わってしまった。

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三重大学大学院 松田浩一教授:
「大蛇行が始まる前は、このずっと南の方まで藻場が広がってたんですけれども、短い海藻は生えてるんですけれども、アワビのエサとなるようなそういう大型の海藻がないので」

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海藻が育たなくなった原因とされているのが、「海水温の変化」だ。

黒潮大蛇行により、黒潮は紀伊半島から南に離れたが、伊豆海嶺と呼ばれる海底山脈によってできる渦で、黒潮の支流ができ、志摩半島の沿岸に暖かい水が流れこんでいるという。

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松田教授:
「水温が上がってしまうと、本来だったら南の方にいた海草を食べる魚とかが北上してしまって、三重県の沿岸にもずっと居ついてしまうという状況になって、夏も冬も海藻を食べてしまう」

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さらに、黒潮の海水は栄養分が少ないため、海藻が育ちにくく、特産のアワビの減少にも、つながっているという。

松田教授:
「黒潮大蛇行が収まる兆候というか、そういうのが気象庁から報告されましたけれども、まだ海の状態としては、そんなに改善しないという状況で。時間がかかると思うので、継続して調査していきたいと思っています」

アワビが採れなくなったことで、志摩の海女たちも深刻なダメージを受けている。この日も採れたのはサザエのみで、その数も少ない。

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志摩市の海女:
「本当はアワビが採れたらいいんですけど、ないんですよ。1個もないの。もう2~3年ないな、2~3年アワビ見たことない」

志摩市のアワビの水揚げ量は、黒潮大蛇行が始まる前に比べ、1割以下に激減した。再び海藻が育ち始めても、豊かな海に戻るには、長い時間がかかる。

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志摩市の海女:
「海が元に戻って、みんなが一緒に入れてアワビがたくさん採れて、それを楽しみにしてるけど、あと10年以上かかるんじゃないかなと思う」

■黒潮大蛇行“終息”で…猛暑はどうなる?

黒潮大蛇行は漁業だけでなく、猛暑やゲリラ雷雨など、異常気象の一因とされてきた。

気候変動について研究を続ける立花義裕教授は、黒潮大蛇行が終息せず、今後もまだ続く可能性があるとしたうえで、終息することによる影響をこう指摘する。

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三重大学大学院 立花義裕教授:
「黒潮大蛇行が終息すると、東海沖の海面水温は下がります。そうすると夏は涼しくなります。そして、豪雨の心配が少し減ります。ですから『いいこと尽くめ』なんですけどね。しかも、魚も取りやすくなります」

本来、終息すれば『いいこと尽くめ』だというが、立花教授によると、現在の日本の異常気象は、それだけでは解決しないところまで、進んでいるという。

日本近海の海水温の変化を示した気象庁のデータでは、平年より海水温が高いことを示す赤色が、列島をぐるっと囲んでいる。

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立花教授:
「黒潮があろうとなかろうと、日本周辺の海面水温が異常に高くなってしまったので、これだけ高い海面水温に挟まれているから、日本列島に吹く風は暑くて、つまり暑い夏で、かつ豪雨が降るという事に関しては、あまり変わらないような気がしますね」

抗うことはできない自然の力、恵み豊かな海は、戻ってくるのだろうか。

2025年7月4日放送

(東海テレビ)

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