西日本豪雨から7年、あの災害で警察官の兄を亡くした弟が、今年の4月から警察学校に入校しました。
兄の思いを継いで奮闘する姿に密着しました。

「お願いします!」

10代、20代が多くを占める警察学校。
その中に30代の新人警察官がいます。
晋川賢也(しんかわ けんや)さん。31歳。晋川さんには肌身離さず身に着けている大切なものがあります。

【晋川賢也さん】
「高校の時かなんかにもらって、ずっと残ってますね。つらいことあったときは、一緒におるんかなみたいな感じに今つけて頑張ってます。これはもう大事ですね」

時計の元の持ち主は兄・晋川尚人(しんかわ なおと)さん。
2018年の7月6日に発生した西日本豪雨で、同僚の警察官とともに崩れてきた土砂に巻き込まれ亡くなりました。
仕事が終わり帰宅途中だった尚人さん。
その時、尚人さんは率先して住民を安全な場所に誘導していたといいます。

賢也さんは兄の死を信じることができませんでした。

【晋川賢也さん】
「警察官として最後まで仕事を全うしていたという兄に関しては、誇りにも思うんですが、やっぱ家族としては帰ってきてほしかったというのが一番ですね」

賢也さんにとって、4つ離れた兄・尚人さんは憧れの存在でした。

【晋川賢也さん】
「小さいころから自分が剣道始めたのも兄がやっていたからきっかけで兄の真似をしてやるというか。すべて兄の背中をおっていったような感じなので、いつも仲良くしてくれて、頼りがいのある兄でした」

賢也さんは大学卒業後に兄と同じ警察官の道を志しましたが、ケガがきっかけで思うように訓練についていけなくなり、退職しました。
再挑戦を決めたのは兄の7回忌。
遺影を見ながらふと思い出した言葉がありました。

「(警察官を辞めたときに)最初結構説教だったんですけど、その中で『自分の人生なんじゃけん』っていう風に言われて。いざ、いま30代になった時に、あの言葉の意味を考えたときに、兄は今回もう亡くなったけど、こうやって自分も今、生きさせてもらっているなかで、人生一度きりしかないってところと、兄のその言葉で今回、警察官にちょっともう一回チャレンジしたいなという気持ちになりました」

結婚して子供もいる…。いまから警察官に挑戦できるのか。
悩む賢也さんを後押ししてくれたのは…その家族でした。

「妻が最終的には一番後押ししてくれたので、妻に一番感謝してます。『やりたいと思うことがあるんなら、お兄ちゃんも言ってくれたんだし、そこは私は諦めてほしくない』と言ってもらえて」

今年4月入校式で、警察官や一般職員を代表し述べた決意。

「良心のみに従い不偏不党かつ公平中正に警察職務の遂行にあたることを固く誓います」

卒業まで残り3か月…この日は、指紋の取り方を学ぶ鑑識の授業です。
一人前の警察官になるため逮捕術などの体力的な鍛錬に加え、捜査に重要な専門知識も身に着けなければなりません。

【晋川さん】「お願いします」
【教官】「これとこれくらいはいい」
【晋川さん】「ありがとうございます」
【教官】「台形を目指す。ここら辺の欠けたら使えんけん。指先がきれいに写っとるけえ、ここらも比較的とれとる。まだいい方」
【晋川さん】「ありがとうございます!」

「初任課、第263期第一班合唱。あ、第二班も合唱!」
「いただきます!」

警察官にとって必要な心技体を学ぶ毎日ですが、食事の時間はほっと一息つける時間です。

「今日のメニューは豚キムチです。最高です」

年下の同期からも慕われています。

【同期 20代】
「たまに厳しく叱ってくれることもあるので、晋川さんがいてくれてよかったなと思ってます」
【晋川さん】「めっちゃええこと言うやん」

6日、賢也さんの姿は父・芳宏さんとともにありました。
現在、尚人さんが発見された場所には慰霊碑が建てられています。

【晋川賢也さん】
「7年経って、自分が警察官という職に就いたので、兄も同僚の方にも上の方でしっかり見守ってくださいっていう気持ちで手を合わせていました」

時間があれば兄のもとに通ってきた賢也さん。一人前の警察官になると誓いを立てました。
ただ、父・芳宏さんの思いは…

【父 晋川芳宏さん】
「聞いたときはやっぱり複雑な気持ちで何とも言えん。やはりお兄ちゃんのことがあったりするので。何とも言えん気持ちではあった。みんなとコミュニケーションとりながら一生懸命頑張っているというところだけは褒めてやりたいかなと」

兄が命を落とした場所でもし同じ状況に遭遇したら警察官としてどうすべきなのか、その答えにずっと向き合っています」

【晋川賢也さん】
「今こうやって訓練をする中で、人のために行動するっていう風になるんで(災害時は)兄と同じような行動はとると思うんですが、地域の方々の命も守るし、自分の命もしっかり守れるように。すごい大雨などの時には無理な行動せず、外に出ないっていうのがすごく一番大事だと思う」

西日本豪雨から7年。
警察官として道半ばで亡くなった兄の思いを胸に賢也さんはその道のりを一歩ずつ進んでいきます。

「兄ちゃんの分まで自分が頑張るから安心していいよって」

【コメンテーター:JICA中国・新川美佐絵さん】
「お父様の複雑だという気持ちに本当に胸を打たれました。こういった方々の被害が少なくなるように、私たち住民一人一人も今一度この時の記憶を思い出して自分で出来る防災を考えていきたいと思います」

テレビ新広島
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