わいせつ教員数が過去最高を更新する中、喫緊の課題となっている教員免許法改正。

現行の教員免許法では、わいせつで懲戒免職となっても3年経てば再び免許取得が可能だ。萩生田文科相は教員免許法改正に意欲を示しているものの、教員免許再交付中止への動きがスピードアップしているように見えない。

「ポストコロナの学びのニューノーマル」第11回は、保護者らの教員免許法改正を求める声と医学的知見による解決策を探る。

60年間続く教員の性暴力を終わらせましょう

「1959年から記録が載っています。いま2020年ですから60年間ですよ。令和になった今こそ終わらせましょう」

全国学校ハラスメント被害者連絡会(以下、連絡会)の大竹宏美共同代表は、わいせつ教職員の裁判事例が書かれた紙を掲げながらこう訴えた。

連絡会では2020年9月4日から、わいせつ教員に二度と教員免許を交付しないことを訴えて署名活動を行い、28日時点で5万4000筆を超える賛同者が集まった。

この署名をもとに連絡会では28日、文科省の担当部局に「子どもへのわいせつの前歴(前科)のある人への教員免許を再交付しない」よう陳情を行い、その後、記者会見を行った。

(左から)大竹宏美さん・郡司真子さん・武田さち子さん
(左から)大竹宏美さん・郡司真子さん・武田さち子さん
この記事の画像(6枚)

連絡会の母体である「子どもの権利を守る会」は、2020年1月のフラワーデモ(※)で出合った母親2人が、子どもを性暴力から守るために起こした団体だ。

その後、一部報道で文科省が教員免許の再取得を3年から5年に延長することを検討していると伝わると、2人は連絡会を立ち上げ署名活動に向けて動き出した。

【関連記事】「わいせつ教員の免許再取得を5年に延長」案に異論…文科省は一体何を守ろうとしているのか

(※)2019年4月に始まった毎月全国で行われる性暴力根絶を目指すデモ

性暴力で不登校になる子どもはたくさんいる

大竹さんは次のように語る。

「“性的いたずら”という表現がありますが、いたずらではありません。わいせつ教師の免許再交付が3年から5年に変わると聞いて、5年後ならわいせつ行為をしない確約があるのかと思い、早急に署名キャンペーンを立ち上げました」

今回の会見では、陳情書と同時にいくつかの要望が公表された。要望の中には「各公立学校のトイレと更衣室以外のすべての場所に防犯カメラの設置」といった項目もある。

共同代表で不登校保護者会の事務局でもある郡司真子さんはこう語る。

「不登校の子どもをもつ親と話していると、学校の性暴力で不登校になる子どもはたくさんいます。学校の中で性暴力があっても、証拠がないという理由で不問にされます。でっち上げじゃないかと言われて、子どもがどんどん傷つくのです」

電車の中では助ける大人が学校では無視する

今回わずか1カ月足らずで5万筆以上の署名が集まった。中には子どもの保護者や学校関係者、また実際に性暴力にあった被害者の声も寄せられているという。

会見に同席していた教育評論家の武田さち子さんは次のように話す。

「ここ数年、国や司法と一般国民との間に考え方のギャップがあることが、判決で明らかになっています。国や司法の考え方を変えるのは大変ですが、署名の数を見てギャップがあることをぜひ認識してほしいと思います」

そして、こう続けた。

「子どもが主張しても教師が否定したら学校は認めません。そして、子どもは嘘つきと言われて学校に行けなくなり、それを見た同じ被害を受けている子どもは何も言えなくなるのです。電車の中で痴漢にあえば周りの大人が助けてくれます。しかし、学校では大人が何も無かったことにしてしまう。子どもが犠牲にならない仕組みを文科省に求めたいです」

小児性愛の治療に必要なのは「近寄らせない」

法務省によると、5年間の同種犯罪再犯率が最も高かったのは、痴漢が約40%、盗撮が約30%、そして小児わいせつは約10%だった。しかし、小児わいせつの前科が2回以上ある者の再犯率は80%を超えている。

10年以上に渡って性犯罪者の治療に携わっている筑波大学の原田隆之教授によると、WHO=世界保健機関やアメリカの精神医学会では、子どもに対して性的欲求を抱くことが小児性愛として精神障害の1つと分類されている。

【関連記事】わいせつ教員に再び免許を与えてはいけない 専門家が語る再発防止治療の難しさ

原田氏はこう語る。

「犯罪心理学的な観点からは、2つの点で教員免許を再取得させるべきではないと思います。1つは、性犯罪を起こした人はまた起こすリスクが高い。もう1つは、再犯を防ぐための治療上からも望ましくないことだからです」

原田氏によると、治療のために必要なのは犯罪を誘発する「引き金」に近寄らせないことだ。子どもがそばにいるだけで理性が及ばず、引き金が引かれる可能性がある以上、再取得をさせて学校に戻すということは再犯リスクにつながる。

10年以上に渡り性犯罪者の治療に携わる筑波大学・原田隆之教授
10年以上に渡り性犯罪者の治療に携わる筑波大学・原田隆之教授

医学的知見含めた制度と法整備が必要

3年から5年への延長が検討されていることについて、原田氏は「この問題は5年でどうにかなるというものではありません」という。

「かつて依存症はアルコールや薬物依存症だけを含む概念でしたが、数年前からギャンブル障害やゲーム障害も依存症として認められました。性の依存症は今のところ、正式な疾病分類の中にはありません。これはまだ研究が足りていないからです。ただ私を含めた研究者の中では、性的な依存症はあるという前提で研究が進んでいます」

原田氏は、十数年前から刑務所で「性犯罪再犯防止プログラム」の開発に携わり、再犯防止のための治療を行ってきた。

具体的な治療法は、他の依存症の治療をモデルにした「認知行動療法」だ。

「この治療の中核は、まず再犯に結び付く引き金を徹底して避けるということです。小児性愛であれば学校や公園などを避けたルートで通勤したり、児童生徒の通学時間帯を避けて電車に乗るなどの方法を徹底します」

児童生徒に対するわいせつ行為を繰り返す教員は重症の小児性愛のおそれがあり、治療を継続的に続ける必要がある。再犯リスクを避けるため、こうした教員を子どものそばにいさせてはいけないのだ。

「今回の署名活動で、教員免許の再交付を止めることは第一歩」と郡司さんは語った。

子どもを守るためにも文科省には、医学的知見も踏まえた制度と法整備が早急に求められている。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。