日本が太平洋戦争に敗れて80年の節目である2025年、TSKニュースイット！では山陰に残る戦争の体験や記憶を映像で残す企画をお伝えしています。
今回は、山陰にも存在した「特攻部隊の発進基地」です。
戦争末期、本土決戦に備えた特攻隊専用の飛行場が、全国各地に秘密裏に造られました。「秘匿飛行場」と名付けられたその一つが鳥取・倉吉市にも作られ、建設には地元住民が駆り出されていました。
今、高齢となり「生き証人」とも言える住民の証言を取材すると、戦争の愚かしさが凝縮された「極秘計画」だった事がわかりました。
福村翔平記者：
はるか先まで見渡せる直線道路。かつてここに、数日間だけ飛行場があったことはほとんど知られていません。
倉吉市高城地区にある直線距離1.8キロの県道。太平洋戦争末期には滑走路でした。
しかし、今はその面影はおろか、当時を知ることができる写真や資料などもほとんどありません。
証言者：
『とにかく飛行場になるので退きなさい』です。たったそれだけ。補償も何もなかった。
証言者：
多くの方の涙がここには埋もれているでしょうね。
地元住民の証言は「空しい労働奉仕」の実態を今に伝えます。
のどかな田園風景が広がる倉吉市高城地区。
長田司さん：
飛行機が降りるたびにものすごい土ぼこり。プロペラが回るので土ぼこりがすごかった。
80年前のこの場所を語るのは、近くに住む長田司さん（91）。当時は、国民学校の6年生で、飛行場の建設に携わりました。
長田司さん：
『飛行場を作るから石を持ち上げるのを手伝え』と学校から言われた。クラス全体でぞろぞろと河原に行った。
Ｑそれで河原の石がここに使われた？
長田司さん：
それがここにみんな入ってます。それでこれだけ道路が高くなってる。
太平洋戦争末期、旧日本軍は戦況悪化のなか日本本土での決戦を想定し、特攻隊の発進基地として全国40か所に飛行場の建設を企てました。
倉吉市の高城飛行場もその一つで、建設の命令が出されたのは1945年5月。
完成目標は7月末という、まさに終戦間際の突貫工事でした。
そして建設地では、有無を言わせぬ暴力的な手段も取られました、証言があります。
池田充志さん：
『とにかく飛行場になるので退きなさい』です。たったそれだけ。補償も何もなかった。
滑走路沿いの14軒の民家が、軍によって強制撤去を命じられたといいます。
こうして建設が始まった高城飛行場。
Ｑ暑い時期だった？
長田司さん：
日射病で倒れた人もたくさんいたようです。亡くなったり。人がいっぱいでした。すごい人だなあと言っていた。
建設には、わかっているだけも述べ12万人が動員され、鳥取県内各地から召集されました。
大山町から参加した人の手記には、「大山口駅に集まった人をみると、60歳を越したおじいさん、疎開で帰っているという主婦などで、35歳の私には大先輩ばかりで銃後の労働力の貧弱さに驚くとともに、余り無理をされてはと心遣いが先に立った」と記されていました。
「秘匿飛行場」という名の通り、建設はもちろん存在そのものも極秘扱いでした。
「秘密裏」であったことを表す残痕が地区内の随所に残されています。
長田司さん：
竹藪の中が駐機場です。ここを切り崩して道路みたいにして300メートル程。最大10機来てました。滑走路の近くに並べていたらドカドカっとやられてしまうから山の中に持ってきて隠したと…。
関連施設を滑走路から少し離れた場所に隠すように作ったとみられます。
駐機場のほかにもあります。
隣の地区の公民館の館長に案内してもらったのは、民家の裏山です。
北谷コミュニティセンター・岩垣和久館長：
飛行場の荷物の物資を入れるために作ったと聞いています。
奥行20メートルはある塹壕。
飛行場に関係した資材や武器を入れていたと伝わっています。
こうした関連施設を含め高城飛行場が完成したのは8月10日、終戦の5日前です。
長田さんは「一番機」が到着したことをはっきりと覚えていました。
長田司さん：
『空中回転や“きりもみ”をしてみせるからみんな見てろよ』ということで見ていました。上がっていって演技をして見せて、グルーと回って降りてきて。敬礼して『日本は必ず勝つ、分かったか』と兵隊さんが言った。するとみんながワーッと（拍手した）。
しかし、練習機が10機到着しただけで、ここから特攻機が戦地に向け飛び立つことはありませんでした。終戦後の新聞には、次のように記されています。
【大阪毎日新聞鳥取版 昭和21年8月14日】
「八月にやっと完成したが航空機の車輪を印した途端に無用の廣場として放り出された」
さらに皮肉なのが、アメリカ軍にとっては「秘匿」でさえなかったことです。
完成間近の8月6日、アメリカ軍の偵察機が撮影した写真。上空から滑走路の様子がとらえられています。
無謀な極秘計画は、アメリカ軍に筒抜けでした。そんな無用の長物作りに駆り出された住民の胸の内は…。
長田司さん：
たくさん石が埋もれています。私たちが運んだ石が。多くの方の涙も埋もれているでしょうね。
何気ない田園風景、悲しく愚かしい戦争の残影が物言うことなく今も静かに眠っています。
福村翔平記者：
今回の取材で、地区の住民に聞き込みをしたところ、飛行場の存在自体を知らない人が多くいました。また、知っている人でも悲しい戦争の記憶ということで積極的に後世に伝えていないという声もありました。
ただ、語り継いだり、記録として残したりしなければこうした事実が消え去って、なかったことになってしまいます。
そうならないためにもTSKさんいん中央テレビでは引き続き、戦争体験者の証言を集めるなどして戦争の記憶を記録に残す企画をお伝えしていきます。
